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対談「どーげんをプロデュースvol.2」②

2022年7月28日(木)にフルーティストの木ノ脇道元さんのコンサート「どーげんをプロデュースvol.2」が開催されます。昨年から木ノ脇さんが始めた新しいコンサート・シリーズで、彼が依頼したプロデューサーがコンサートのプログラムを決定し、木ノ脇さんの演奏の新しい魅力を引き出す企画です。前回から引き続き木ノ脇さんと私の対談から、私の新作に関する部分をご紹介します。

対談・パート②

バス・フルートへの想い


稲森:僕の新曲は(対談時)まだ書き上げていないので、言えることがそんなに多くはないんです。

木ノ脇:バス・フルートのソロということで、バス・フルートはどうですか?

稲森:バス・フルート、ずっと大好きですごく書きたい楽器だったんですけど、ただ、僕はちょっとフルート曲が多くて、最近あまり書かないようにしてたんです。発表したものだけで言うと、フルート独奏が2つ、アルト・フルートに演技が付くようなのが1曲、それにフルート独奏にオブリガート楽器が付くような曲もあるし、フルートとピアノの曲も2曲あって。でもバス・フルートはいつかは書きたいって思ってたので、バス・フルートが似合う人から話が来たぞって喜んでました。

木ノ脇:バス・フルートの曲で好きな曲ってあります?

稲森:好きな曲ですか、ツィンマーマンの『語られる時間』は結構好きですよ。あとは独奏曲じゃないんですけど、マーク・アンドレの『iv(イー・ファウ)』の4番。四重奏なんですけど、バス・フルートの音が好きな使い方です。独奏曲は…本当に好きな曲って言われるとすぐには思いつかないですね。

木ノ脇:僕は独奏曲じゃないんですけど、近藤譲さんの曲『横浜』とかね。

稲森:『横浜』、良い曲ですよね。

木ノ脇:バス・フルートが表に出ない、なんか支えるみたいな。

稲森:分かります。僕が昔アメリカに住んでいた時に作曲を習っていたダニエル・ケスナーさんという作曲家がフルート奏者でもあるんですけど、彼がとにかくバス・フルートを愛していて、「バス・フルートの低音は神」といつも言っていました(バス・フルートの最低音を吹いて「This is God…」と言っていた)。すごい若い頃だったので、尊敬している先生から言われて洗脳された感じもあるけど、実際にそう感じてバス・フルートの低音を聴いていました。バス・フルートの低音て何者にも真似できないすごい存在感だと思います。

木ノ脇:へえ。湯浅譲二さんの『タームズ・オブ・テンポラル・ディテーリング』なんですけど。

稲森:はい、好きな曲を聞かれた時にその曲を言おうかと思ったんですが、有名すぎて、あえて言うのをためらってました(笑)

木ノ脇:バス・フルートの音っていうのはX線写真のようだと、湯浅先生は言っていましたね。確かにちょっと有機的でない感じもします。

稲森:僕はコントラバス・フルートまでいくと、自分の中で少し違和感が。面白い表現はいっぱいあるけど、美しい音に浸るというより、エフェクトのほうに振れちゃってるって思うことがあります。

木ノ脇:倍音のバランスが絶妙なんでしょうね。近藤譲さんなんかがピアノと弦楽器の間にバス・フルートを配置するっていうのは、そういうこともあるのかなって。

稲森:僕もパッと思い浮かぶのがアンドレの『iv』とかだから、やっぱり人と混ざった時に、ものすごく役割が大きい楽器のようなイメージですね。

木ノ脇:そんな使い方してる人、まだそんなにいないですけどね。藤倉大さんの曲で、ロックの曲をアレンジしたのを、弦楽器4人と、バス・フルートとソプラノでやったんです。すごい効果でした。

稲森:なるほど、彼の作品はいつもとても効果的に鳴りますよね。

木ノ脇:あとはもう本当に打楽器的に使うのではスコダニッビオ。昨年演奏した曲です。あれはやっていて楽しかったんです。

稲森:楽しそうでしたよね。僕、一度、多久潤一朗さんに演奏してもらったトリオの曲で、バス・フルートを使っているんです。ヴァイオリン、ヴィオラ、フルートのトリオで6楽章からなる中の4楽章目でバス・フルートを使いました。それがおそらく唯一バス・フルートをガッツリ使った曲ですね。最初は頭部管なしで、ディジュリデゥみたいにして吹くんですが。

木ノ脇:多久くんへの当て書きって感じですね。

稲森:そうです。あれ、頭部管なしだと縦持ちなんですよね。縦でずっと持つと指置きがないから重くてめちゃめちゃ大変みたいです。

木ノ脇:しんどいかな、確かに。

稲森:ディジュリドゥみたいに吹くというのは、トランペット・アンブシュアで吹くわけだから、頭部管を外した筒の縁が唇の端に刺さるんですって。

木ノ脇:ディジュリドゥは蜜で作ったマウスピースを着けますしね。

稲森:そんなのを着けるわけにもいかないから、刺さっていたそうです。そんなことをリハーサルでは一度も言ってくれなかったから、何も考えずにメキシカン・レストランを打ち上げに予約しちゃったんですよ(笑)唇の端が切れていて、辛くて痛かったらしい。

木ノ脇:(笑)まあ、テープを貼っておけばなんとかなるかなという感じですかね。

稲森:その曲ではちょっと飛び道具的な使い方だったので、今回は本当に正統派のバス・フルートの音を楽しむという感覚で書いています。

木ノ脇:なるほど、楽しみです。何かわからないことがあったらいつでも言ってください。

(次回に続く)

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