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対談「どーげんをプロデュースvol.2」⑥

2022年7月28日(木)にフルーティストの木ノ脇道元さんのコンサート「どーげんをプロデュースvol.2」が開催されます。昨年から木ノ脇さんが始めた新しいコンサート・シリーズで、彼が依頼したプロデューサーがコンサートのプログラムを決定し、木ノ脇さんの演奏の新しい魅力を引き出す企画です。続けてきた木ノ脇道元さんと私の二人での対談は今回が最後です。ハンス・ツェンダーの『月の書(洛書 II)』についてお話しました。次回は対談の最終回として新曲を依頼した作曲家・山下真実さんをお迎えして、3人でお話いたします。

対談・パート⑥

ハンス・ツェンダー『月の書』のこと



稲森:最後になりました。ツェンダーの『月の書』ですね。

木ノ脇:今回軸にしたツェンダーですよね。ツェンダーについて少し。シューベルトの『冬の旅』のアンサンブル伴奏版編作っていうのが有名じゃないですか。ノマド(アンサンブル・ノマド)でも一回やってるんですよ。

稲森:あ、そうですか!ノマドでもやったんですね。

木ノ脇:クリストフ・プレガルディエン(Christoph Prégardien)っていう人が来て。テノールの。歌も素晴らしかったんですよ。まあ、でも他にツェンダーってなかなかやらないですよねって話から今回のプログラムになったんですよね。

稲森:はい。複数フルート曲がある人を取り上げたかったんですよね。ただシャリーノとかにすると多すぎてどれを選んでいいか大変で、全部シャリーノなんてことにもなりかねないし、ファーニホウも結構多いでしょ。なんか2、3曲、一人の作曲家の曲が入ってると、軸になって面白いかなって考えていて、そういえば僕は有名な『月の書』もライブでは聴いたことがないし、『笛の音に引き寄せられて』のほうなんか録音も見つけられなかったんですよ。楽譜は昔に買って持っていて、ずっと気になっていて。『月の書』のほうもちろん録音を何パターンか聴いたことがあるんですけど。たぶん、録音と全然印象が違う曲だと思ってるんですよ。すごく繊細なニュアンスとか息音とかの存在感がある曲なんじゃないかと。

木ノ脇:ええ、そうですね。

稲森:さらっと録音を聴くのと、伝わる緊張感が全然違うと思っていて、これはライブで聴くべき音楽だと思ったんですよね。

木ノ脇:そうですよね。

稲森:で、これ「洛書」っていう中国の易学の曲で、九数図ですよね。九数図というマジック・ナンバー・チャートが題材になっています。

木ノ脇:それこそ3X3の。

稲森:そういうことを元にしているのがこの「ロシュ(洛書)」っていうシリーズなんですけど、何かしら数が関係しているものっていう感じです。『月の書』は部分としては全部で28の部分があって、それぞれ1段落か2段落ぐらいずつ。秒数で区切られていく書き方になっています。こういう書き方をしている曲って彼の曲で何曲か見たことあるんです。難しいのが、予定調和的というか、録音で緊張感が伝わらない理由の一つでもあると思っているんですが、規則的に呼吸とか休止の部分が入ってくる感じがあると思うんですよね。

木ノ脇:はい。

稲森:間の入り方が均一だから、表現そのものを聞くというより、表現プラス間みたいな聴き方のパターンができてしまって、それぞれの行みたいなものをまとまりとして聴いちゃう。そういう聴き方は表面的な持続力を弱めるから。持続を目指している音楽ではないんだけど、それがずっと続くとそれ自体がそういう持続なんだって認識になっちゃうでしょ。そこが多分この曲の演奏の一番難しいところなんじゃないかって思ってますね。

木ノ脇:こういうふうになっているとどうしてもね、無音のところっていうのが均一になりがちなんですよね。

稲森:時間自体はちゃんと演奏家の方は時間ちゃんと測ってやるんでしょうけど。そういうところにある音楽というか、どこが句点でどこが読点みたいなことがどうなるのか、音楽的に。

木ノ脇:沈黙の強度みたいなことですよね。

稲森:はい、どういうふうにこの全てを繋げているんだろうっていうことが聞けるといいなと思って、これはライブで聴きたいと思った作品ですね。

木ノ脇:そのつもりで練習したいと思います。

稲森:ツェンダーって東洋思想とか禅とかに影響受けたって言いますし、ニュアンス的なことを大事にしたような書き方の曲も多いんですけど、ただ数字的なことの設定が結構厳密っていうか、感覚的ではないようなことに見えるんですよね。すごく測って計算的に書いてる感じがする。だからその呼吸の伸び縮みみたいなことが出ると面白そうな印象の曲です。この曲、演奏してて難しいとかありますか?

木ノ脇:いやぁ、どうかな。まだこれからって感じですね。(対談当時)

稲森:譜例って動画で出していいのかな?なんか危ない気がしますね。でも、演奏会では休憩時間とかに手に取って見てもらえるようにしましょう。(演奏会では全ての演奏曲の楽譜の展示を行います。)

木ノ脇:はい、昨年もそうしました。

稲森:展示…。なんか、僕の『月の書』の楽譜、めっちゃシミがすごいんですよ。

木ノ脇:僕の新しいですから、別のを使ってもいいし。まあ、すごくニュアンスに富む曲というか、表現主義的というか。

稲森:それも不思議な音楽ですよね。フラジョレットいっぱい使ってるから、協和音みたいな響きもいっぱいするのに、なんか表現主義的という。ぜひ聴いていただきたいですね。

木ノ脇+稲森:たくさんのお客様のお越しをお待ちしております。

(二人の対談は今回で終わりです。今週末に最終投稿として委嘱作曲家・山下真実さんをお迎えして三人対談をお送りいたします。)

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