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Future Circus Labは言葉にできない

Future Circus Labに行かなかった方はまず前回のnoteを参考にしてください。

上の写真はFuture Circus Labの中心人物、陳星合(チェン・シンホー)氏。話が出来ないか相談したところ最終日の打ち上げに招かれ、深夜0時過ぎから長い時間インタビューをすることができました。

シンホー氏は今34才ですが、10~18才に京劇の学校にいたそうです。そこでの教育は先生から役割を与えられ、同じ方向に進めという教育でした。学校がそのように狭い世界だったのに対し、17才の時に見たパフォーマンスのビデオをきっかけに知ったサーカスの世界から、他の誰にもなれない、自分にしかなれないという事を教わったと言っていました。

今回のフェスは違った文化、違ったレベルのアーティストを集め、何を演じるかは干渉せず、ごちゃ混ぜにしたので想像力を広げて考えて欲しい、こんな世界があるんだよ、という提示だったそうです。そしてそれがプロに対しても一般人に対しても教育になると。今回のフェスをきっかけに学校を辞めたと報告してくれた生徒がいたのが嬉しい、と何度も語っていました。

では、このフェスは教育という社会的役割のための<ソーシャルサーカス>だったのかと彼に尋ねたところ、こう返されました。

「このイベントについては1つや2つの言葉では表現できない」

ソーシャルサーカスという言葉が流行していた時にそれを使ったことはあったそうですが、いまは名乗ってはいないそうです。今ある言葉を使うと前に進めないと言っていました。

この話にあまりに共感してしまい、それ以上彼から言葉を引き出そうとしなかったため、私の言葉で説明させてください。

例えば、「りんご」という言葉から赤くて丸くて甘いあの果物を我々は思い浮かべますが、それはこの世に実在しない頭の中だけにある概念でしかなく、食べることはできません。もし直径3mほどの虹色に光る酸っぱい果物が発見され、それが植物学的分類上りんごの一種だったとしても、それをいま我々がりんごとして思い浮かべることはできません。

言葉を使った時点で、それは過去の経験と結ばれた脳内の概念になります。

私は、サーカスは人の想像を飛び越えて実在するものだと思います。人類に可能だと思いもしなかった技を見せたり、今まで知らなかった独自の世界を紡いだりします。未来を見つけ前に進めるために、わざわざ過去に固定された言葉に当てはめるのは、特にサーカスとしてイマイチな方法だと感じます。

「私たちが行っているのは、サーカスです」

イベント名に<Future>と<Lab>という言葉が入って尚、これは<Circus>そのものだった。つまり、未来や実験もまたサーカスの一部だと思っている、私はそう解釈しました。もちろん、自身で語った教育や、恐らく地域交流なども含まれています。

またシンホー氏は、特にIncubatorは想像がつかなかった、でも見て自信になったと言っていました。それはまるでクラブを投げてうまくキャッチできたかのようなリスクテイキングだと感じました。

そんなサーカスだったので、前回のnoteは言葉より写真で網羅してお伝えしてみました

ただ、そうなると疑問が出てきます。言葉に出来ないようなことを、どこまで共有してプロジェクトを進めたの?それでどうやってスポンサーを説得できたの?と。

答えは、チーム全員で共有している訳ではない、とのこと。一部の人達ととことん語り合うことで共有したし、そのうちの一人が今回のスポンサーで主催である台灣電力公司の人だそうです。

凄いですね、大企業とは1枚の企画書で分かるレベルのコミュニケーションでさえ取るのは難しいのに、膝突き合わせるレベルで巻き込むというのは。シンホー氏のカリスマとエネルギーを感じます。

もちろん、色々と大変だったお話も聞きました。イベントの始まりから決して順風だったとは言えない状況です。それでも実現したし、成果を残した。自分の理想とする世界中の尖ったゲスト達をふんだんに招致し、オープンステージに出演した6名の日本人も含め多くの人に機会を与え、まだ言葉になっていない未来を人々の前に提示した。並大抵の成功では無いです。

これからも、シンホー氏はサーカスで色々と仕掛けて行くでしょう。そしてそれは世界でも先駆けたイベントになっていくと予想できます。

サーカスがヨーロッパ中心でそう易々と行けない事を残念だと思っていましたが、シンホー氏がいる台湾が近くて嬉しいです。次はもう少し小さいイベントをやりたいとのことで、非常に楽しみです。


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