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with新型コロナ状況下における災害被災者支援のあり方について(私見)

(表紙写真は「財団法人消防科学総合センター」が運営する「災害写真データベース」より引用)

2020年の出水期が間近に迫っている

すでに様々なところで議論が始まっていますが、新型コロナウイルス感染拡大中の日本においても、自然災害は待ってくれません。

わたしも災害時の支援を主な活動の柱に置くNPOの代表を務める一人として、この状況を行き当たりばったりで対応する訳にはいかないと感じています。

体育館や公民館など3密空間を作ってしまう避難所を設置することは、被災者の命を奪うことに直結する

過去の様々な被災地でも、避難所となった体育館などでのインフルエンザやノロウイルスなどの感染症被害は見られました。それでもインフルエンザやノロウイルスは対応方法も広く知られているし、それで命を奪われる、という人が多発する状況ではありませんでした。

しかし、今年に限っては状況が変わりました。
新型コロナウイルスという、ほとんどの日本人がいまだ抗体を持たない新型感染症の出現により、言葉を飾らずに書くと

「体育館や公民館など不特定多数を3密環境で収容する避難所を設置すること」は「1〜2%の人の命を奪う場に避難者を送りこむこと」と同義になる

2020年の世界は今、そういう状況になっています。

「被災者の自立復興を支援する」はずの「避難所」こそが「被災者の命を奪う」場所になってしまうのです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

世界が変わってしまった今、今までの対策の延長に答えはありません。ゼロベースから対策を考えていく必要があります。

プランA「避難所の環境から3密を徹底排除し公衆衛生に配慮した運営ができる体制にする」

とはいえ、いきなり飛躍すると「できない」気持ちしか湧いてきません。まずは既存の計画をバージョンアップして何とか及第点に持ち込む方法がないか考えてみましょう。すなわち上で紹介したNHKニュース記事のように、体育館避難所の公衆衛生環境の基礎レベルを一気に高めるアプローチです

・3密回避、こまめな消毒、隔離スペースの確保

まず、避難所における避難者密度を徹底的に下げる必要があります。現状の避難所設置・運営計画を見直し、収容人数の再検討が必須となるでしょう。一人1畳(1m×1.82m)では「密接」条件に抵触してしまいますので、少なくとも一人4平米(2m×2m)に組み直すことが必要となります。
また、相互の飛沫感染防止のため、各区画の間にはパーティション(ダンボールやカーテンなど)設置は必須になります。
多数の避難者が行き来するトイレの衛生環境確保は至上命題でしょう。1時間に1回程度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液による殺菌清掃ができれば安心ですね。避難者の手指消毒のためのアルコール消毒液、または豊富な水と石けんによる手洗いも必要です。
空気循環のために24時間窓の開放も必要でしょう。そうなると治安維持のために24時間警備も必要となる地域が多くなると思われます。
避難者の日々の検温や体調把握をしつつ、咳のある方、発熱や下痢がある方は(それぞれが別の病気の可能性があるので)個室管理できる隔離別室が必要となります。

最低限この程度の環境が整わないと、間違いなく新型コロナウイルスが忍び込みます。例えば100人の避難者が避難した避難所を仮定した場合、大多数が感染・発症し、全員が適切な医療を受けることができたとしても1〜2名が亡くなる、という恐ろしい場所に、避難所が変身してしまうのです。

正直、既存の計画の延長線上の計画を行うということは、何名かの命を奪うという選択を選ぶ事と同義になってしまう、そう言い換えても良いかもしれません。

プランB「避難所の場所を変える」

何も備えず既存のプラン通りで事を運ぶということが、すなわち住民の命を奪う結果になるなら、これはもうまったく別のプランをゼロベースで考える必要があります。
避難所は命を救う場所でなければならない、という当たり前の原則に立ち返り、既存のプランでは命を救えない人がでるのなら、別のプランに変えなければならないのです。

では、どうすれば良いでしょうか? どのような場所なら命を奪わない避難生活/復旧・復興生活が可能になるのでしょうか?

体育館ではダメなのです。
去年までなら体育館を地域の復興基盤にして、住民同士の支え合いで復興できました。
でも、今年、新型コロナウイルスの感染が広がっている状況での体育館避難所は、人を殺す場所になるのです。

では、どこに命を救える場所があるでしょうか?

・「民営の宿泊施設を利用した避難所+全員仮設住宅」で2年計画を立てる

そこで私が検討のたたき台として提案したいのが、地域にある既存の民営宿泊施設を避難所として利用すること。加えて、原則被災者全員に仮設(新規建設仮設/見なし仮設の割合は自治体の状況による)住宅を提供するつもりで計画を立案しておく、という方法です。

被災者に避難所を提供するのは「災害救助法」という法律に基づいて市町村が執行の主体となって行われます。この災害救助法は内閣府が所管しているのですが、内閣府のサイトに災害救助法の運用に関する様々なアドバイスが掲載されています。

このページの中にある「災害救助法の概要 (PDF形式:1.0MB)」というpdfのp.24「3.災害救助法の運用②各救助項目ごとの概要(令和元年度)(1)-1避難所の設置」というところをご覧ください。

災害救助法の概要_ページ_26

避難の長期化が見込まれる場合や要配慮者を対象に旅館やホテルを借り上げて、避難所とすることも可能。
わざわざ下線を引いて書かれています。そうなんです、避難所って体育館である必要は無いんです。

実際、過去の災害でも宿泊施設が避難所として利用された事例がありました
(例)「岩泉町・平成28年台風10号豪雨災害復旧の記録」より
(龍泉洞温泉ホテルという民営宿泊施設が避難所として運用されていた例)

文書名taifu10gou

建屋に被害がないこと、2次被害の危険がないことが前提ですが、宿泊施設に世帯ごとに入ってもらえれば3密は回避できます。仮に停電や断水している施設であっても、体育館で3密環境を作ってしまうより格段に環境が改善されます。
施設側も、ただでさえコロナウイルスのために既存の宿泊者が減った上に災害が発生した状況においては、利益なし(原価)でも利用された方が従業員の雇用に繋がるでしょう。

去年までの災害であれば、発災すれば復旧需要による宿泊が見込めましたが、今年に関しては遠方からの復旧工事従事者も充分に集まるとは思えない状況が容易に推測できます。

去年までなら「避難所で1ヶ月ー仮設住宅への転居完了に2ヶ月復旧工事6ヶ月」程度で終わる小規模災害でも、早くて1年、おそらくほとんどの被災地が2年以上掛けて復旧する、という状況になるでしょう。

であれば、宿泊施設が復旧業者需要で埋まる、という事も生じないので、避難所として借り上げてもらった方が事業者としてもメリットが出てくるはずなのです。

まとめ:地域の民営宿泊施設を利用しつつ、復旧計画そのものを長期的視点で実施する

新型コロナウイルス感染拡大状況における災害発生時の被災者支援について、とりあえず「避難所」をどうするか? という点に限定してたたき台のアイディアを考えてみました。

繰り返しになりますが

「避難所を被災者の命が奪われる場所にしない」

ことが必要です。そのためには、ゼロベースで目的を達成する方法について関係者みんなで智恵を絞り、今からその考え方を共有しておく必要があると感じます。
もちろん、上記で書いたような宿泊施設を使う案だけではなく、(自宅が安全であるなら)在宅での避難を可能にするための準備を促進しておくこと、親戚や縁者を頼った避難など、どこに居ても支援情報難民にならないような情報共有手段を考えておくこと、など様々なアプローチで、「命を救い、生活を守るための避難」を実現しましょう。

もう、タイムリミット(災害発生の季節)はすぐそこです。

(追記)内閣府から通達でていますね

記事をupしたあとに内閣府が通達を出していることを知りました.

「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について 令和2年4月7日 事務連絡」

この危機感をぜひ市町村の担当者の方々も共有し、過去の方法の微調整じゃなく、ゼロベースから対策を組み直す取り組みを是非お願いします。

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