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第55回:ステークホルダー分析‐主な登場人物とコミュニケーションのコツ(医療分野の事例)‐

1)とある町のレストランの話


ある町に一軒だけレストランがありました。昔は評判の料理を出していたお店でしたが、最近は味に代わり映えがしない、味が落ちたとあまり町の人から評判がよくありません。

町に一軒しかないレストランですから、味が落ちてもみんなはそこの料理を食べるしかありません。そこの料理を食べるしかない町のお客さんにも不満がたまりますし、レストランの売り上げも落ちていくと材料を納める業者にとっても大打撃です。レストランの料理人も町の人からの売り上げで成り立っていますから、できるだけおいしい料理を出したいと思っています。

料理人は、町の人たちがおいしいと思ってくれる料理がなにかわかるよう、試行錯誤を始めます。スパイスや具材に詳しい業者、料理に一家言持っている町の重鎮、外部の高名な料理研究家の意見も聞いてみて、最終的な料理の中身を決めていくことにしました。

2)なぜステークホルダー分析が重要か


…カンがいい人はわかると思いますが、これは政策立案の流れを町のレストランに例えて、ステークホルダーがいかに政策に影響を与えているかを示したものです。

政府は料理人 、ステークホルダーは業者や町の代表、料理研究家に当たります。料理に例えられた政策の中身に影響を及ぼしうる人すべてをここではステークホルダーと呼んでいます。

政府の政治家や官僚は政策の案を作りますが、その案が最終化され実際に政策として世の中に適用されるまでには、様々な人の意見を踏まえるステップが用意されています。

表に出るものでは、審議会や検討会があります。業界団体・自治体・NPOの代表や大学などの研究者の意見を聞いて政策に反映させる場です。表に出ないものでは、官僚や政治家のネットワークもその一つの機会です。クローズドな意見交換で認識したものを政策に生かします。

政府の政治家や官僚はその分野に長く携わってきているので、政策には詳しいのですが、細かい部分や、世の中の動きで変化する部分などについてはとらえきれていない可能性もあります。とらえきれていないニーズや現場との食い違いをなくすために、ステークホルダーの話を聞いていくわけです。
もし皆さんが、政策に皆さんの意見を反映させたいのなら、ステークホルダーとの連携を考えることも一つです。

レストランの味に強い利害がある町の人々や業者(当事者団体や業界団体)の意見だから、また強い専門性をもつ料理研究者(大学の先生など)だからこそ政府も話をきくのです。

皆さんが既に業界団体の一員だったりするのであれば良いのですが、もしそうでないなら、皆さんはいわば先ほどの町のレストランにふらっと入ってきた客みたいなものです。よっぽどいい提案ができれば別ですが、「こんなスパイスや具材を使った方がいいんじゃないか」といきなりいっても、「そうですよね」と料理人が採用する可能性は低いでしょう。「あ、ご意見ありがとうございます」と聞き流されるのがオチかもしれません。

ステークホルダーの影響力が重要であることを理解してもらえたでしょうか。今回はステークホルダーと連携して政策を実現するためのステークホルダー分析を医療施策の事例を参考に行っていきます。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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