第11回:概算要求の読み方‐政策・予算の動きを先取りする‐

1.概算要求とは

毎年、8月の下旬になると、概算要求の記事が出てきます。概算要求とは各省庁が次年の予算の使い道を財務省に提案することをいい、財務省が7月に、各省庁が次年の予算を提案する際にどれくらいの額に収めればよいかを示す「概算要求基準」を踏まえて、各省庁において作成されます。

この概算要求の内容は、8月31日前後に各省庁のHPで公表されました。今後、財務省と各省庁との交渉を経て、政府予算案として閣議決定され、国会に提出されます。3月末に国会で(衆議院・参議院)可決され、成立するのが通常のスケジュールです。

予算の内容は3月に国会で可決して初めて確定するものなので、この概算要求の内容は、あくまで各省庁が来年度の予算の使い道について財務省に提案した段階のものです。確定した内容ではないのは確かですが、この概算要求の内容を丁寧に読み込むと、見えてくるものがたくさんあるのです。

例えば、内容を素早く理解することで、他の人よりも早く政府の政策の方向性を知ることができますし、政策を知ることで、予算と関係のある仕事をしている人も対応方針を早めに考えることができます。

どういうことかというと、つまり、こういうことです。

概算要求の内容は、9月以降、財務省が必要性や予算額などを査定し、12月下旬に政府の予算案として閣議決定されます。そして翌年1月頃に国会に提出され、3月末までに国会(予算委員会)で審議された後に成立します。
そのため必ず各省庁の要求がとおるわけではないですが、かといってとおりそうにないものについて各省が要求することもありません。だから、概算要求にある内容は、実際に予算が付く可能性が高いと考えてよいのです。ただし、金額は少し減らされたりすることはありますが。。。

加えて、政策を実現しようと、色々と活動している皆さんにとっては、概算要求を見ることで、政府や政治家への提案がひとまず成功したのかどうか(3月末に国会で提案した予算が成立することが最終的なゴールですが)を確認することができます。

このように今回のお話は、政策に実際関わっている又は関わろうとしている方にとっては、頭に入れておくべき必須事項です。

具体的には
・概算要求の何に注目すべきか
・皆さんの政策提案が概算要求にどう影響したか

について解説していきますので、今年の概算要求を横目に見ながら、理解を深めてもらえればと思います。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)

2.概算要求の何に着目すべきか -政府の政策の変化を知るには-


政府の政策がどう変化するのか、については、その年の予算資料(今年であれば令和3年度予算)の記載と概算要求(今年であれば令和4年度概算要求)の文言を比べてみると、見えてくるものがあります。

端的に言ってしまえば、文章の違いを調べることによって政策の変化が見えてくるのです。

役所が資料を作成する時は、昨年度作成したバージョンを修正するのが基本です。

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でも、官僚が前例を気にする生き物であることはお伝えしましたね。その性質は概算要求資料を作る際にも同様に発揮されているのです。

骨太の方針や成長戦略であれば、政府全体の意思表示になるので、閣議決定する直前には各省の担当部局に文言の確認依頼が来ます。担当者は文言を確認して、意図したいこと以外のことが含まれていないか、意図したいことと違う意味になっていないかを丹念に調べるのです。

閣議決定してしまえばそれが国全体の方針となるので、各省庁にその文言にそった実施責任が発生するからです。

予算についても基本は同じです。

概算要求の時点では、その内容は各省庁で完結する話(9月以降財務省と調整、国会審議を経て国全体の予算として確定します)ではありますが、それでも各省庁の次年度の予算方針の案を世に示すものですから、その内容には各担当者は骨太の方針や成長戦略の文言と同様、最大限気を使います。

もし、今年とまったく同じ予算の内容を来年度も要求するにもかかわらず、意味もなく前年の予算資料の文章と表現をガラッと変えてしまうとどうでしょう。

「昨年の予算から何かが変わるのでは」

と混乱を招くことになります。

そのため、概算要求の案を作成する担当者は、今年度の予算の資料を修正する形で、来年度の概算要求の資料を作っているのです。

そのため、
・新規と書いてある項目
・記載内容・予算額に変化があるもの
については特に注意深く読んでみてください。
記載内容・予算額に変化があるものについては、予算としては前から存在していたが、補助の要件を変える、補助範囲を拡充するといった変更がなされる可能性があります。

※これ以降は
・概算要求の何に着目すべきか -補正予算のその後を知る-
・概算要求資料から政策実現までの流れを知る
・概算要求資料の探し方
を実例を用いて解説しています。メルマガでも同内容を配信しています。

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