見出し画像

青山泰の裁判リポート 第14回 「バレなければいいと思った」 卑劣で悪質な性犯罪とは――

全文無料公開。スキマーク♡や、フォロー、投げ銭などをしていただける記事を目指しています。一人でも多くの方に読んでいただけるとうれしいです。

内田直彦被告(仮名・犯行当時23歳)は、開廷前からハンカチで目を押さえて泣いていた。
一重まぶたで眉の太い青年は、素朴で真面目そうに見えたが、その犯行は卑劣で悪質だった――。

会社の研修で初めて一緒になった女性2人と男性3人の5人で、研修当日に飲酒。女性の一人が酔っぱらって帰宅できなくなったため、皆で東京都新宿区の男性同僚宅に泊まることになった。

23歳の被害者は、携帯電話の
明かりと音で目を覚ました。


皆で雑魚寝状態だったが、午前1時過ぎ、Bさん(当時23歳)は携帯電話の撮影開始音とライトの明かりで目を覚ました。
誰かが会社の後輩のAさん(当時21歳)を撮影している気配があったが、怖くて目が開けられず、犯人は分からなかった、という。
事件後、BさんがAさんに事情を話して警察に訴えたことで、犯行が発覚した。

内田被告は「隣に寝ていたBさんの胸を触りたいと思った。Aさんの性器に触ったかどうかは覚えていない」と供述。
しかし本人のスマホには、2人を撮影した動画が残されていた。

隣で寝ていたBさんの胸を直接触り、胸部を動画撮影。自分の男性器を触らせている様子も。
Aさんの着衣を脱がし陰部に指を挿入し、胸部や性器周辺を撮影した動画も残されていた。

不同意性交等罪、不同意わいせつ罪、
性的姿態等撮影罪で起訴された。


内田は、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪で起訴された。
「不同意性交等罪」は、かつての「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」を一体化させた罪名で、2023年7月に改正刑法が施行された。
従来の性交に加えて、肛門性交や口腔性交、指など身体の一部や異物の挿入なども、「不同意性交等罪」として扱うことになった。

弁護人が被告人に質問する。
――どうしてこのような罪を犯したのですか?
「性的欲望を満たすためです。バレなければいいと思いました」
――今はどう思っていますか?
「僕の行為で、今も被害者を傷つけています。恐怖を感じさせて、生活を狂わせてしまいました」
――供述では、行為の一部を覚えていないと。動画を見て思い出したと。
「はい」
――弁償はしたが、AさんBさんが許していないのは、知ってますか?
「はい。2人を深く傷つけてしまいました」

AさんとBさんには100万円ずつの被害弁償金が支払われている。内田自身が60万円、残りの140万円は両親が立て替えた、という。

また両親が保釈金を支払って、内田は保釈されていた。
――拘置所にはどのくらい? 
「3か月です」
――どんな気持ちでしたか? 
「辛かったです」


2人に対する犯行は
1時間近くに及んだ。


検察官からも質問があった。それに対して、内田はほぼすべてを事実と認めた。
――被害者とは、犯行前日に初めて会ったんですよね? 
「はい」
――性行為に同意するはずはないと分かっていましたよね? 
「はい」
――研修の後の飲み会で酔っ払ったAさんを介抱するために泊まったんですよね。
「はい」
――Aさんが吐いているのを見ましたよね。
「はい」
――性交して撮影、心は痛まなかったのですか? 
「痛みました」
――1時間近くも犯行を。Bさんの胸を触って撮影して、またAさんに。
エスカレートした認識はありますか? 
「はい」
――同じ部屋で男性も寝ていましたよね。スリルを楽しんでいたのですか? 
「それはなかったです」
――顔を撮影しなかったのは、光が当たって目を覚ますかもしれないと? 
「はい。見直したとき、可哀そうだと」


事件が原因で、被害者は
会社を辞めることに……。


被害者Aさんの意見書を、代理人が読み上げた。
「(事件のことを)先輩に言われて半年、これまで味わったことのない不安と恐怖の日々でした。
すべての過程と、そのときの感情を覚えています。
酔ってしまった自分を責める気持ちと、大好きな先輩に申し訳ないという気持ち。
犯人が分かってからの怒りと恐怖。動画が他人に渡ってしまうかも、という不安も。

新たな被害者を増やさないためにも、勇気をもって裁判に臨むことにしました。
事件のことが会社の人に伝わり、会社にいづらくなって。仕事を辞めることになってしまいました。
自分の人生は終わってしまったような気がすることも……。
女性はあなたの性的欲求を満たすための道具ではありません」


被告人の卑劣な犯行は、
これだけではなかった!


しかし、被告人の犯行はこれだけではなかった。
内田被告の携帯電話のデータを調べると、一般住宅の浴室や脱衣場で盗撮した動画が多数発見された。
帰宅途中やランニング中に、若い女性を狙って犯行を繰り返していたのだ。
被害者はいずれも10代の女性3人で、わずか6週間に計5回の盗撮映像が残されていた。

東京都世田谷区のX宅浴室の窓から女性(14歳)の性器周辺、臀部(でんぶ)および胸部を2回にわたり動画撮影。
Y宅浴室の窓から女性(17歳)の裸体を2回撮影、Z宅脱衣所の窓からも女性(16歳)を盗撮した。

「娘が入浴中に盗撮された
映像に間違いありません」


それぞれの母親が、怒りをあらわにした意見書を提出した。
Xさんの母は、
「娘が入浴中に盗撮された画像に間違いありません。ネット上で、拡散されたらと思うと。
散歩やジョギングする人を疑いの目で見るようになった。猜疑心でいっぱい。しかし簡単に引っ越しはできない。

被害者が声を上げる必要がある、と決断しました。厳罰を望みます。
被告人の保釈に驚き、不安が増大しました。
事件の前に戻して欲しい。性的被害を周囲に話すこと恥になる。恥になることを背負って生きていくことに……」

Yさんの母は「気持ちが悪くて、引っ越しを考えている」
Zさんの母は「卑劣な犯人を絶対許せない」と。

「バレなければいい」と
犯行を繰り返した。


内田被告は弁護士からの質問に対して、
「(盗撮は)バレなければいいと思い、繰り返してしまった。軽はずみな行動だったと思います」

検察官からも追及された。
――調書では、盗撮もののAVが好きだと。リアル感があるからだと。
「……」
――何回くらい盗撮しましたか? 
「答えたくないです」
――供述調書では数十回以上だと。
「……」


「娘は顔が見える形で
裸体を撮影された」



被害者の父親は訴えた。
「希望は3つ。
被告人が刑務所で反省する。慰謝料を支払う。更生して二度と犯罪を行わない。
被告人が保釈されたと聞いて、再び盗撮されないか不安になった。

娘は顔が見える形で撮影された。短期間に3人を盗撮。逮捕されなければ、もっと盗撮を続けていたはず。
安心して生活を送りたい。申し訳ないと思っているのであれば、誠意を見せてほしい」

被告人の母親は、
「息子を叱った」と証言。


弁護側証人として、被告人の母親が証言台に立った。
内田は被告席でハンカチで顔を覆い、オイオイ泣き始めた。

――息子さんと事件について何か話しましたか?
「はい。皆さんに迷惑をかけた、と叱りました」
――息子さんの様子は?
「落ち込んでいました」
――再犯を防ぐ具体的な監督は? 
「携帯の画像をチェックします」
――頻度は? 
「毎日です」

 

再犯の可能性は、量刑を決める
大きな判断基準になる。


弁護側の情状証人は、多くの場合、被告人の家族や友人、会社の上司などだ。
情状証人は「被告人の善人さ」を主張することが主な目的ではない。
罪を犯した被告人をサポートし、監督することで更生を手助けし、再犯を防ぐ役目と責任を担っている。
再犯の可能性は、被告人の量刑を決めるうえで、大きな判断基準になる。
もちろん成人した息子を監督するといっても、限界があると思われるが……。

検察官が母親に尋問する。
――被告人と同居しているのに、(被告人の)犯行にまったく気づかなかったのですか? 
「はい」
――盗撮された3人への慰謝料がまだですが。
「AさんBさんへの支払いで手いっぱいで」

確かに自分の息子が罪を犯したことに、親としての責任はあるだろう。
しかし成人した息子の慰謝料について、親がどこまで責任を負うべきか、意見の分かれるところかもしれない。
少しでも息子の罪を軽くしたい、という思いで証言台に立った母親の心境を考えると、複雑な気持ちになった。

弁護士から被告人に質問があった。
――お母さんが証言している時、どんな気持ちでしたか? 
「これまで支えてくれて、とても感謝しています。迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「後悔しています。
深く反省しています」


最後に被告人は反省の弁を述べた。
「後悔しています。深く反省しています」と。

盗撮や性加害の被告人は、法廷で反省の言葉を口にする。
しかし犯行が発覚するまで、犯罪を行ったという自覚に欠けるケースも多い。
だから安易に性犯罪を繰り返してしまう。

「バレなければいい」という意識とともに、「被害者が性被害や盗撮されたことに気づかなければ、被害者は傷つかない」と考えているからだろう。

そして捜査や裁判の過程で、被害者の悲痛な心情を知って、初めて自分の犯した罪の重さに気づく。
被害者の気持ちをおもんぱかる想像力が欠けているケースが多いように思える。


被告人は、傍聴席に向かって
深く一礼した。


2024年7月5日――。
判決言い渡し当日、証言台に向かう被告人は手前で立ち止まり、傍聴席に向かって深く一礼した。
傍聴人の中に、被害者の関係者がいることを承知している様子だった。

判決は、懲役3年6月。
執行猶予はつかなかった。

「犯行は常習性があり悪質。
『バレなければいい』という安易な考えで犯行を繰り返した。
卑劣で短絡的な犯行で、実刑が相当」
裁判官は、涙が止まらない被告人を断罪した――。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?