見出し画像

スナフキンのサンダルを捧ぐ!⑧ 〜 残念なスナフキン 〜

初めての海外旅行で先輩と分かれ、ひとりになり、タイとカンボジアを巡った。最後の夜は、バンコク中央駅近くのホテルに泊まった。明日は早く起きてドムアン空港へ行く。

果たして先輩はどんな旅をしてきたのか、会うのが楽しみになってきた。

「1人で南を目指す」

と僕を置いていったのが、まだ1週間前とは思えない程、いろんなことが起きた。佐藤さんならマレー鉄道に乗り、シンガポールまで行ったのでは、などと想いを巡らせながら眠りについた。

ドムアン空港で搭乗手続きを済ませ、ゲート前の待合場所で先輩を待っていた。そこへ明らかにズタボロの、誰も近づかない風貌で、先輩は現れた。

死にかけのスナフキン。

カンボジア難民でも、これ程ボロボロの男はいなかった。

「お、おつ、お疲れ様でーす」

と僕から声をかけた。

「ああぁ、タクか」

と先輩は僕に気付いて、にっこり笑った。僕はその笑顔に、少し違和感を感じたので、よく見ると前歯が2本抜けていた。

「どうしたんすか、その前歯は?」

スナフキン先輩は、またにっこり笑って

「これねー、海岸を歩いてたらコケちゃって、、、」

と照れるように笑って、前歯のない歯茎を見せた。

「それはそうと、搭乗手続きを急ぎましょう」

と僕らは出発時間が迫っている事に、気を取り戻し、出国ゲートを抜けて帰国の飛行機にギリギリ間に合った。

機内の隣席に、ボロボロの破れたTシャツを羽織ったスナフキンがいる。足元は便所スリッパを履いていた。

「そのスリッパはタイで買ったんですか?」

と僕は何から喋っていいのか、分からない状況で、とりあえず聞いてみた。

「あ、ああぁ、これねー。最初はビーサンやったんだけど、かぶれちゃってね、、」

と先輩は目を落とした。足元をよく見ると親指と人差し指の間が赤くかぶれており、痛々しい傷の痕が見えた。

聞くところによると、スナフキン先輩はマレー鉄道に乗り、タイ南部にあるプーケットの近くまで行った。そこで、

「まだ開発されていない島がある」

と聞いて、そこから船でその島へ行ったらしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?