日本人と勲章の歴史:勲章の種類と序列 1

日本の勲章は、細かく分けると現行のもので22種類あるが、大きく分けると、大勲位菊花章(2種)、桐花章(1種)、旭日章(6種)、宝冠章(6種)、瑞宝章(6種)、文化勲章(1種)の5種類がある。序列としては、菊花章が最も高く、次いで桐花章、旭日章、宝冠章、瑞宝章が同格とされ、文化勲章は単一級で別枠の扱いになっている。

大勲位菊花章 (Supreme Orders of the Chrysanthemum)

明治9(1876)年に制定された日本の最高勲章である。国旗の日の丸の外に旭光の意匠を配し、その周りに皇室のシンボルである菊花・菊葉を置いたデザインで知られる。「旭日大綬章又は瑞宝大綬章を授与されるべき功労より優れた功労のある方」が授与の対象とされる。大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章の2種類がある。

大勲位菊花章頸飾 (Collar of the Supreme Order of the Chrysanthemum)


頸飾型(ネックレス)の勲章で、明治21(1888)年に制定された。現行の制度のもとで日本人で頸飾を持っているのは天皇のみであり、他に授与されるのは外国の君主だけという希少性が特徴である。戦後、一般で授与されたのは吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の4名だけであり、いずれも没後に贈られた。ちなみに、戦前には一般の生前授与も数少ないながら行われ、伊藤博文、大山巌、山縣有朋、松方正義、東郷平八郎といった明治の元老たちに贈られた。共和国の元首(大統領、総統、国家主席など)に贈られることは原則としてないが、米国のアイゼンハワー大統領、ブラジルのガイゼル大統領には例外的に頸飾が贈られた。

大勲位菊花章頸飾を佩用した上皇陛下


大勲位菊花大綬章 (Grand Cordon of the Supreme Order of the Chrysanthemum)

大綬と正章、副章で構成される勲章である。親王(天皇の息子や孫)が成年を迎える際に授与されるのが通例である。2024年に成年を迎える悠仁親王も授与されることが予想される。総理大臣経験者には、1年以上の在任で没後に贈られるが、5年以上務めた吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘は生前に贈られた。中曽根は議員在職50年を迎えた1997年に大勲位菊花大綬章を授与され、「大勲位」という異称で呼ばれたのは記憶に新しい。安倍晋三も存命なら政界引退後に授与された可能性が高いだろう。戦後に一般で菊花大綬章を授与された人物は、田中耕太郎元最高裁判所長官を除いて、総理大臣経験者に限られている。国賓として来日した共和国の元首に贈られることもある。

大勲位菊花大綬章を佩用した中曽根康弘元首相

桐花章 (Order of the Paulownia Flowers)

桐花大綬章(Grand Cordon of the Order of the Paulownia Flowers)

もともと旭日章の最上位勲章、勲一等旭日桐花大綬章として明治21年に制定された。2000年代の栄典制度の改正で、独立した桐花章として再定義された経緯を持つ。中心部のデザインは菊花章に近いが、周りに桐の花を配したデザインで知られる。かつて、桐花は菊花と並んで皇室の印として使われていた。その慣習は廃れたが、明治時代に日本政府の印として使われるようになると、この勲章で使われるような日本を代表する紋となった。「旭日大綬章又は瑞宝大綬章を授与されるべき功労より優れた功労のある方」が授与の対象とされる。短期間総理を務めた経験者、国会の衆参議長経験者、最高裁判所長官経験者に授与されることが一般的である。民間人でも経団連会長経験者や大企業会長クラスが授与されることもある。外国人では長く自国で首相を務めた人物に与えられることが多く、シンガポールのリー・クアンユー元首相、マレーシアのマハティール元首相などに授与された。

桐花大綬章を佩用した村山富市元首相

旭日章(Orders of the Rising Sun)

女性で初めて旭日大綬章を授与された扇千景元国土交通大臣

明治7(1875)年に制定された、現存する日本の最も古い勲章である。日の丸の周りに旭光を配したデザインで知られる。「国家又は公共に対し功労のある方」の中から「功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた方」に授与される。政治家を中心に様々な分野で名を挙げた人物が選ばれる。2003年までは男性に限定された勲章だったが、栄典制度の改正に伴って、男女問わず授与されるようになった。

旭日大綬章(Grand Cordon of the Order of the Rising Sun)

栄典制度の改正前は勲一等旭日大綬章という名称だった。大綬とは、正章がついた襷のようなもので、これを右肩から左脇にかけ、副章を心臓に近い位置につけて佩用する。国務大臣、野党党首、大企業首脳、最高裁判所判事などに授与されることが多い。春秋の定例叙勲では、桐花章以上の勲章が授与されることが稀なので、「今回最高位の旭日大綬章には〜」とテレビのニュース番組で耳にしたこともあるだろう。大綬章以上の勲章は、皇居で天皇から親授(直接手渡される)されることになっているので、重光章以下の勲章とは別格の存在である。外国人にも数多く授与されており、駐日大使経験者、日本と繋がりが深い閣僚経験者、日本でも展開する大企業首脳などにも贈られる。2020年には、Microsoft創業者のビル・ゲイツも旭日大綬章に叙された。

旭日重光章(The Order of the Rising Sun, Gold and Silver Star)

制度改正前は勲二等旭日重光章と呼ばれた。金色で縁取られた正章と銀色で縁取られた副章で構成される。正章は綬の先についており、授与はリボンのように首にかける。国会議員、都道府県知事、政令市の市長経験者に授与されることが多い。親授は行われないが、総理大臣から直接勲章と勲記を伝達される。

旭日中綬章(The Order of the Rising Sun, Gold Rays with Neck Ribbon)

制度改正前は勲三等旭日中綬章と呼ばれた。重光章から副章を除いた形で渡される。市町村長、都道府県議会議員、中核企業役員、団体役員の経験者に授与されることが多い。

旭日小綬章(The Order of the Rising Sun, Gold Rays with Rosette)

制度改正前は勲四等旭日小綬章と呼ばれた。小綬とは、布の胸飾りのことで、小綬の先に勲章がついている。市町村長、都道府県議会議員、市町村議会議員、団体役員経験者、芸能人まで幅広い分野から選ばれる。過去には、ビートたけしや津川雅彦などにも授与された。

旭日双光章(The Order of the Rising Sun, Gold and Silver Rays)

制度改正前は勲五等双光旭日章と呼ばれた。市町村長、市町村議会議員、地域活動を行う団体役員経験者、中小零細企業経営者などから選ばれる。

旭日単光章(The Order of the Rising Sun, Silver Rays)

制度改正前は勲六等単光旭日章と呼ばれた。町村長、市町村議会議員、地域活動を行う団体役員経験者、中小零細企業経営者などから選ばれる。

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