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なぜ台湾が成功しているのか。その理由の仮説と、日本が組むために必要なこと

5月12日に新宿住友ビルで開催されていた「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2023」の中で、「EVシフトを加速させる台湾IT産業の最新動向」と題したステージを TCA 日本代表の吉村さんワークキャピタル代表取締役の菊岡さんとともに行った。おそらくこの講演については当日来場した方以外が内容を知ることができないと思われるので、せっかくなのでお二方のお許しも得たので、その要点をお伝えしたい。

これは、単に台湾IT産業の EV シフト ということだけでなく、日本が今後どのようにビジネスを展開していくか考える上で、ひとつのヒントになると思われる議論をすることができたのではないか思う。

 そして、このセミナーで私が狙いたかったのは、一般的な日本のビジネスパーソンが持っている台湾のパーセプションに、新たな視点を加えてもらうことだ。

先に結論を言えば、どうしても台湾というと、人口が2,000万人程度の小さな国で、市場として小さいので取り組むには規模が小さい、という反応されることが少なくない。 確かに台湾は人口も面積も日本より小さいのはその通りだが、世界的な企業をいくつも産んでおり、なおかつ、それが比較的最近、21世紀に入ってから世界的な企業になった会社がたくさんあるということだ。

例えば Apple製品の EMS を担う主要企業であり シャープの親会社でもある フォックスコン(鴻海精密工業)や、 今や世界一の半導体メーカー(ファウンドリ)で、日本にも工場が設置されることで話題となり一般人にも一躍知名度が上がったTSMC(台湾積体電路製造)といった企業がある。

もちろん日本にも世界的な企業は多数あるが、この数十年で世界的な規模になれた会社、特にITに関連してそういった会社があるかと考えた時に、台湾が決して日本に劣るものではない、むしろ勝っているかもしれない、ということは、すぐに理解していただけると思う。そして、こうした台湾企業は世界的なビジネスネットワークを持っている。

私が、台湾企業と組むことを考えるべきだと思う理由は、台湾企業とともにこうした世界的なネットワークでビジネスをすることが出来るのであれば、単に人口2,200万人のマーケットを相手にするのではなく、世界の数十億人という人々を相手にビジネスができる可能性があるからだ。

 なぜ、こうした台湾企業が世界一になれたのか、私なりに考えているのだが、その仮説が妥当であるなら、台湾独特のアプローチが見えてくる。それは、最初から中心・センターを取りに行こうとするのではなく、「欠くべからざる周辺のプレイヤーになる」ということにある。

 例えば、ちょうど2000年前後には、台湾ではコンピューターの周辺機器の産業が非常に大きく成長していた。Windows 95や98 の登場によって、企業はもちろん一般家庭でも1人1台、一家に1台のパソコンという時代が来たのだが、PC本体は「ウインテル」と呼ばれた Windows のマイクロソフト そしてチップはインテルが作ったものが内蔵され、当時著名なメーカーとしては例えば IBM の ThinkPadなどがあった。

この時、台湾はPC本体や半導体などを作るのではなく、周辺機器である キーボードやマウス、ディスプレイや記憶媒体のドライブなどを作ることに活路を見出し、世界的にこうした周辺機器を提供した。

現在のフォックスコンや TSMCといった台湾の IT 関連産業の隆盛のベースに、こうした周辺機器を扱っていた時代の台湾の知見やノウハウといったもの蓄積が活かされているのだろうと思う。

 そして今や、ThinkPad も IBM が作るものではなくなり、世界的な PC メーカーの一角に台湾のASUS、Acerといった企業がいることはご承知の通りである。センターを狙っていなかった台湾が、いつのまにかセンターに来ている。 そして PC 向けの半導体ということではないが、インテルなどと並んで世界を代表する半導体メーカーといえば TSMCであり、その重要性はアメリカの対中戦略においても意識される存在になっている。

その台湾が次に照準を定めているのは EV の分野だ。これは EV自体を台湾が作ろうとしてるのではなく「 EVは走るスマホである」という捉え方から、スマホで培った様々な部品製造やあるいはその組み立ての技術などを EV に応用していこうと台湾は動き出している。ここでもまた欠くべからざる周辺のプレイヤーになるという戦略が見て取れる。

 なぜ台湾はこうした戦略が取れるのか。台湾は、自国が小国であることを意識し、それをうまく活用してこの戦略をとっている。 一方、なぜ日本がこの戦略を取れないのかと考えると、日本はどうしても経済規模が大きかったがゆえに自前で全てを作ろうとする思考が染み付いてしまっているのが一因と思う。例えば EVであれば EV自体を作るということに動いてしまう。これは既存の自動車メーカーがあるから自然なことではあるのだが、台湾のような周辺を固める戦略を取ることが苦手だ。こうした点については、過去にも指摘したことがある。

 そしてもう1つ、台湾は、語弊を恐れずに言えば場当たり的にも見える経験を積み上げていく中で、柔軟にその時に最適な方向に向かってピボットを繰り返しながら進んでいくように見える。一方で日本は、一番最初に遠いゴールを、長い時間をかけて調査をし視察を繰り返して、最終的に会社であれば上層部の意思決定を得て決め、そこに向かって進んでいくというやり方であるように感じる。これが機能していた時代は良いのだが、変化の激しい現代においては、ある時点で最適であったゴールも、ほんの数ヶ月や下手をすると数日と言ったレベルで状況が一変することも少なくない。その時に機動的なゴールの修正を取りにくい のが弱みである。特に大組織であれば一度上層部まで含めてオーソライズしてしまったものを、すでに時代遅れだと分かりながらも、決まったことなのでやり続けざるを得ない、といったことが起きていないだろうか。

 もう一つ、こうしたことが起きる背景に日本人が「失敗」を過度に恐れるということがある。別な言い方をすると、失敗の積み重ねの先に成功がある、というロードマップが共有されていない、と言ってもいいかもしれない。
 台湾式の積み上げで、その時その時で最適なゴールを目指して動いていくのであれば、途中経過として(日本人からすると)失敗と言われるものはたくさん生まれているだろう。しかし彼らにとっては 、それは最終的な成功のための過程であって、日本人が思うような「失敗」ではない

 そして、日本は残念ながら高度成長期以降、国全体としての産業の成功のパターンというのを見出せていないように思うのだが、一方で台湾はこの20年を考えても、PC の周辺機器メーカーから世界的なパソコン本体および半導体や、 あるいは スマートフォンなどの生産において「欠くべからざる周辺」からメインプレイヤーに躍り出るという成功体験を持っている。日本の成功体験よりも数十年若いのだ。

 さらに、2000年代より前を考えれば、例えばフォックスコンの祖業はプラスチックの成形であり、まだリモコンがなかった時代のテレビのチャンネルのつまみを、プラスチック部品として作るといったことから始まっているという。

こうして多くの会社のいわば「下請け」としてたくさんの経験を積みながら 、製品の精度を高め、またノウハウを蓄積してきた結果として現在のフォックスコンがあると考えることができるだろう。

 言ってみれば、こうした台湾の戦略は日本の「わらしべ長者」的な成功のプロセスということもできるのだが、残念ながらわらしべ長者の物語がありながら、日本はそういう成功の方程式を取り入れることができていない。

もちろん、台湾のやり方が全てであり、彼らだけが正しいということを言いたいのではない。台湾は先ほど述べたように自分たちで全て自前主義で行くということではなく、欠くべからざる周辺のプレイヤーになるというところからスタートするので、オープンにパートナーと組んで ビジネスをしていくという考え方を持ち合わせている。そうした組み先のパートナーとして、日本が台湾と一緒にやるということは十分にありうることだと、長年台湾に関わっている自分としては思うし、また台湾にはない日本の強みがこうしたビジネスパートナーシップの上で生きるとも思う。

ただ、スピード感の問題や、あるいは 一度決めたゴールにこだわりすぎて柔軟性がないという点は、台湾とのパートナーシップの上では障害になってしまうだろう。

 こうした台湾の現状を、改めてニュートラルに観察して、日本が取るべき立ち位置を再認識すれば、日本が台湾と一緒に世界でビジネスをするチャンスは開けているように思うのだ。

 台湾を全世界に向けてのビジネスのパートナーとして見てもらうという視点のチェンジを、聞いてくださった方々に提供できたのであれば、この講演会は成功であったと思う。

 ちょうど今月末からは 、台北でComputexと併催されるInnoVEXが始まる。InnoVEXは台湾だけでなく世界の国からスタートアップが出展する場になっており、アジアで最大のスタートアップイベントのひとつだろう。今年は過去最大に日本からの出展も多くなると聞いている。

機会があれば 台北に足を運んでいただき、上に述べたような状況について 肌で感じる機会としてもらえたらありがたい。そして今回の講演に登壇した3人は、会期中、台北にいる予定である。


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