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ソングライティング・ワークブック 第122週:ブルース形式の拡大(7)

前回からの続きで、Leiber & StollerがThe Coastersのために書いた歌について。そのリズムの組み合わせ方に注目する。

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リズムの組み合わせ

Smokey Joe's Cafe

12小節のブルースがAセクション(ヴァース)になり、8小節のブリッジを挟むというわりと単純な形だけれど、リズムの絡み合いはわりと凝っている。内声とバスが「oh, waa-aah, at Smokey Joe's cafe」と歌ってイントロになるけれど、ヴァースに入ってからは、リードはセンテンスを途中まで歌って、内声とバスが「at Smokey Joe's cafe」と続ける。たとえば最初のフレーズでリードが「One day I was eating beans…」と歌うと皆が「at Smokey Joe's cafe」と続ける。簡単と言えば簡単だけど、楽しい感じになる。

ブリッジでは内声が何か言って刻んでいるけれど、リードの邪魔にならないように音量は抑えられていてよく聞き取れない。バスはJoeの役でブリッジの終わりに「You'd better eat up all your beans, boy and clear right on out.」と主人公に対して凄む。ギターは1台で歌の背後にリズムを入れ、オブリガートも入れる。フレーズの合間には短く、セクションの終わりには長い。これにはセクションの変わり目をはっきりさせる効果がある。下のリズム譜ではギターはオブリガートの部分だけ記した。イントロからブリッジまで。

Down in Mexico

The Coasters はこの曲を1956年と1973年に録音している。Tarantinoが『Death Proof』という映画に使っているのが1973年版なので、こちらのほうが有名かもしれない。大きな違いはベースのリズムで、新しい方は16分音符を駆使したファンクになっている。また、新しい方が音が厚い。オリジナル版の方ではベースは3+3+2のリズムを刻む「ラテン」風で、ガットギターのオブリガートと刻みが「なるほどメキシコだな」という雰囲気を出している。ただしオブリガートと内声が重なっているので、そこがあまり経済的でない。また、歌詞に女がカスタネットで踊るとあるのを本当にカスタネットを使って表している。その辺はオリジナルのほうが歌詞に忠実と言える。

ヴァースからリフレインまでの両者のヴォーカルセクションのリズム譜を挙げる。オリジナル版ではリフレインの前半(He wears a red bandana, plays a blues pianna)はリードシンガーが歌い、内声はヴァースのリズムを続けてバッキングしているのに対し、1973年版では内声が重なって歌う。最後の「In a honky-tonk down in Mexico」はユニゾン(オクターブ)で歌われるところは同じ。

オリジナル版の最初のヴァース‐リフレインのリズム譜を挙げる。

オリジナル版

1973年版


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