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ソングライティング・ワークブック 第166週:Cole Porter(16)

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Every love but true love(本当の愛以外の愛なら何でも取り揃えてます) (2)

メロディに意味を込める

『Love for Sale』のコーラスセクションはこんなメロディと歌詞で始まる。

Porter, "Love for Sale"

こういう長い音を使った反復は物売りの声を示唆している。「いしやきーいもー」「たけやーさおだけー」なんかとそう変わることはない。ちなみにHerbie Hancock(ハービー・ハンコック)のインストヒット『Watermelon Man』はシカゴ通りでスイカを売る物売りの声に基づいている。

Hancock, "Watermelon Man"

だから、この歌の冒頭はちょっとショッキングで残酷である。「愛はいらんかえー、おいしい若い愛はいらんかえー」という感じだ。ここで愛は野菜のように売られている。後半;

Porter, "Love for Sale"

「新鮮で傷んでない、ちょっとだけ泥のついた、愛はいらんかえー」というわけだ。この後もう一度同じメロディが繰り返されるのだが、それにつけられた歌詞の韻も痛烈な感じがする。

Who will buy?
Who would like to sample my supply?
Who's prepared to pay the price
For a trip to paradise?
Love for sale.

「お買いになるのはどなた?私の提供するものを味見したい方はどなた?天国への旅にお金を払う方はどなた?愛はいらんかえー」。この「sample my supply」のところでメロディが高く盛り上がるように変化が付けられているのも効果的だ。

メロディはこの話者がストリートの者であることを表している。つまり、売春宿の売春婦ではなくて、街娼であって、非常にリスクが高い(法的にも、衛生的にも、また、どんな人間と遭遇するかわからないという点でも)仕事だ。ここは実際に舞台で演技を伴って歌われる場合の解釈に関わってくることだが、街娼は物売りのように声を張り上げたりはしない。目立ってはいけない。物陰からスッと現れてはスッと消える。演じるときはそれを考慮する必要があるだろう。

全体の構成はひとつのセクションが16小節でA(16)+A(16)+B(16)+A(16)+エンディング(8)になっている。Aセクションが3回あるけれど、毎回冒頭の和声に少し変化が付けられる。それぞれ8小節ずつ並べてみると;

それぞれ3小節目と7小節目がB♭mになるかB♭になるかという違いだけど、これでそれぞれの明るさが微妙に変わる。

Bセクションの歌詞の韻を見てみよう;

Let the poets pipe of love
In their childish way,
I know ev'ry type of love
Better far than they.
If you want the thrill of love,
I've been through the mill of love,
Old love, new love,
Ev'ry love but true love.

英語のイディオムに「pipe dream」というのがある。「絵空事」「かなわない夢」といった意味だ。「詩人には子供じみた夢でも見せておけ。私はすべてのタイプの愛を、彼らよりずっとよく知っている。愛のスリルがほしけりゃ、私は千の愛を経験した―古い愛、新しい愛、本物の愛以外のすべての愛。」「pipe」と「type」、「way」と「they」、「thrill」と「mill」で韻が踏まれているのが効果的だ。




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