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ソングライティング・ワークブック 第156週:Cole Porter(6)

前回紹介したCole Porterについての映画『De-Lovely』の邦題は『五線譜のラブレター』。Amazon Prime(MGM)で観ることができる。

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近頃は何でもありだね(Anything Goes)(5)

ときめく半音階と跳躍(It's De-lovely)

『It's De-lovely』はもとは映画のために書かれたが、それには使われず、ミュージカル『Red, Hot, and Blue』(1936)で歌われた。歌ったのはEthel MermanとBob Hope。1956年の映画版『Anything Goes(もとの物語とはかなり違う)』で取り入れられ、その後じっさいの『Anything Goes』舞台上演でも歌われるようになった。

「de-lovely」という言葉はPorterの造語。「delightful、delicious」といった言葉と頭韻を踏むために、あたかも接頭辞「de」が付いたそんな言葉があるかのように遊んでみたということだ。今回は1コーラスを順を追って見てみよう。

The night is young, the sky is clear,
So if you want to go walking, dear,
It's delightful, it's delicious, it's de-lovely.

Cole Porter, "It's De-Lovely"

「天気の良い夜の始まりに君と歩くのは、delightful、delicious、de-lovely」と言っている。「night is young」は、夜はまだこれから、ぐらいの意味。言葉遊びは気分の軽さの表現だ。メロディと歌詞の構成が非常にまとまっている;

音楽的にはこの8小節が最初のセンテンスとなる。前半4小節では、オクターブ下に跳躍して始まり半音階を上がって下がって6度上に跳躍する。シンコペーションするリズムと相まって弾む、楽しい感じがメロディに表現されている。「clear」と「dear」で韻を踏む。この8小節の中でも前半と後半がくっきりとわかれている。「ソーミソーミー(移動ドで歌えば)」の繰り返しで後半ができている。言葉の繰り返しもわかりやすい。この8小節はトニックにはじまりドミナントで終わる。

I understand the reason why
You’re sentimental, 'cause so am I

コーラス全体はAABAの形を取っているけれど、この二つ目のAの8小節は同じ形をしたメロディを2度高いところで始めている。こういう構成の歌は多い。たとえばもっと新しい歌で言えば、Stevie Wonderの『I Just Called to Say I Love You』がすぐに思い浮かぶ。和声的にはこの8小節でサブドミナント-トニックと戻って最初の8小節と対をなす。韻は「why」と「I」。後半4小節の歌詞は前の8小節と同じ。

You can tell at a glance
What a swell night this is for romance.
You can hear dear Mother Nature murmuring low,
"Let yourself go!"

Bセクションにあたる8小節は4+4のフレーズ構成になっていて、前半のセンテンスは「glance」「romance」で韻を踏み、後半は「low」「go!」で韻を踏む。「murmuring(つぶやく)」と言ってるのに「Let yourself go!」と大声(メロディもオクターブ上がっている)になっているのもユーモアか。

終わりのAセクションは8小節でなく12小節と拡大されている。「It's delightful, it's delicious, it's de-lovely」だけでは締めくくりには足りないので、もう少し盛大にこの言葉遊びを楽しんでみる、という感じになっている。

So, please be sweet, my chickadee,
And when I kiss you, just say to me,
"It's delightful, it's delicious,
it's delectable, it's delirious,
it's dilemma, it's delimit, it's deluxe,
it's de-lovely.

ここで、この歌はファーストキスの歌なのだとわかる。「delicious」という言葉がここで効いてくる。「chickabee」はジュウシマツに似た小鳥。「me」と韻を踏むために選んだか。「delectable」は「非常に魅力的」、「delirious」は「悪夢を見た時のような幻想的」という意味もあれば「恍惚」という意味もある。「delimit」は本当は動詞で、境をはっきり分けること。この歌だと「ここまでよ」「これが限界」みたいな感じか。単にうれしいみたいな言葉だけではなくて困惑や動揺もある。こういう歌はちょっと恥ずかしいぐらいがちょうどいいのだろう。


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