『ダイヤのA』に学ぶ【スポーツジャンル】の書き方!!
はじめに
ライト文芸では、あまりスポーツジャンルの作品は見かけない……という印象があるかと思います。
しかし、IP原作(小説を原作としてコミック、アニメ、メディアミックスされている作品)として考えた時、『風が強く吹いている』(三浦しをん先生)、『ハイ・スピード!』(おおじこうじ先生)、名作『バッテリー』(あさのあつこ先生)などがあります。
スポーツジャンルはコミックではたくさん作品が作られていますが、ライト文芸では少ない――もしかしたらこれは公募などでは差別化要因(オリジナリティ)となりえるかもしれません。
ところが、スポーツジャンルの執筆について、「運動をやったことがない」「競技のことをよく知らないと書けない」などの印象があるのか、はじめから書く選択肢から外してしまっている人が多いような気がします。
「ラノベでスポーツは売れないんだよ」
……とおっしゃる方。『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』の第1巻でテニス対決が描かれることをご存知でしょうか?
たしかにスポーツが主題ではないかもしれませんが、「ライトノベル」でもスポーツは描き方次第で新しいIPコンテンツになりえる可能性を秘めています。
特に、ライトノベル(電撃、角川スニーカー、富士見ファンタジアその他)その前例となる大ヒット作が生まれていない現状でであればなおさらです。
スポーツジャンルの作品はどのように書けば「熱く」なるのか?
その鍵を握るのは「キャラクター」です。
スポーツジャンルを小説で描くには?
スポーツジャンルは「リーダーシップ」と「チームビルディング」を描きます。
『風が強く吹いている』は「キャラクター」、「リーダーシップ」、「チームビルディング」の描き方を学ぶ教科書的な作品でもあります。
上記作品は、『ハイキュー!!』が参照しているとみられる作品でもあります。(頂の景色を目指す、二人の主人公など)
また『ハイキュー!!』影山や『SLAM DUNK』流川などの、クールキャラの描き方としても、参考になります。
『風が強く吹いている』には走(かける)という、長距離という競技に対してストイックに向き合う、クールなキャラクターが登場します。
『ハイ・スピード!』にも七瀬遙というクールキャラが登場。彼も水泳という競技に対してクールに描かれます。
「熱血キャラ」や「クールキャラ」といった、最初は反目しあっていたキャラクターたちが、同じ目標を目指して成長していく。
その過程を通じて、「リーダーシップ」や「チームビルディング」を描きます。
ジャンプ漫画の鉄の掟といわれる、「友情」「努力」「勝利」はまさにこのことを言っているわけですね。
《ハイキュー!!》を題材に「友情」「努力」「勝利」の正体を
構造解析したnoteです
そして、今回、構造解析をする『ダイヤのA』からは、スポーツジャンルを描く際に必要な商業作家の技術を学ぶことができます。
キャラクター
沢村栄純(さわむら・えいじゅん)/王道キャラ
「認めさせるんじゃない。この人達(チームメイト)に認められてこそエースなんだ…」
栄純は漫画の主人公の「王道」である熱血キャラクターです。
「王道」キャラクターの魅力はなんといっても、「現状の外側」に「ゴール(目標)」を設定することです。
「海賊王になる!」「俺は翔べる!」「魔王を倒す!」といった、到底不可能なことを堂々と宣言し、周囲を巻き込んでいく。
『ダイヤのA』の栄純もまさに「エースになる!」という「現状の外側」にある「ゴール(目標)」に向かって、泥臭く邁進(まいしん)していきます。
「王道キャラ」は、「ゴール」に向かって突き進みますが、なんども彼の前には壁(バリア)が立ちはばかります。
壁の前に一度は敗北し、自分を見失いかけ、絶望も経験します。
そして、そこから這い上がっていく。
這い上がっていったとき、「王道キャラ」の周りには、かけがえのない仲間たちがいる。
これこそ「王道キャラ」を魅力的にしている部分です。
「王道キャラ」は物語を通じて成長し(キャラクターアークと言います、後述)、周囲の世界を変革していく(周囲の人々に変化を促す)。
では、どのように変化の過程を描けば「熱く」なるのか? それは物語の分析で述べていくことにしていきます。
降谷暁(ふるや・さとる)/優等生クール
「力を出しきれずマウンドを降ろされることがこんなに悔しいとは思わなかった…」
商業エンタメでは、「キャラクターを対比させる」ことがとても重要です。
上記はプレゼンテーションに関する書籍ですが、このなかで聴衆を惹きつける「対比」の重要性について述べています。
人はおのずと対極にあるものに惹かれます。プレゼンテーションでもこの効果を利用して聴衆の関心を引きつけましょう。あるアイディアをその対極にあるものと並べて伝えれば、そこにはエネルギーが生まれます。相反するもののあいだを行き来することで、聴衆はそこに関わりたいと思うようになるのです。
スティーブ・ジョブスの有名なiPhone発表会では、「従来の使いづらい」スマホと比較して、「iPhone」は全画面スクリーン。物理キーボードのある「スマホ」がいかにナンセンスかを印象づけました。
前置きが長くなりました……。
主人公である「王道キャラ」を際立たせるために、その正反対のキャラクターが必要不可欠です。
それが降谷の「優等生クール」です。
単純に「熱血(王道)」と「クール(冷静)」の対比項目を成しています。
「エースになる!」という現状の外側にあるゴールを目指す栄純に対し、降谷はあっさり「エース候補」の座を掴み取ります。
なのに、栄純は挫折し、うまくいかない。
「ちくしょー!」と叫ぶ。
対して降谷はそんな栄純の気持ちがわかりません。
それなのに、怪我をしてピッチャーを交代させられた降谷は、はじめて栄純の経験した「悔しい思い」を知ることになります。
二人は挫折した者同士、深夜のグラウンドで秘密の特訓を互いに競って行いますが、この際、読み手には得も言われぬ感情が――先ほどの引用を踏まえれば、「そこに関わりたいと思うようになる」状態となります。
正反対だった二人が、表面上はケンカし、ライバル視し合っているのに、感情的には理解し合っている。
これが「エモい」わけです。
対比させることで、「エネルギー」が生まれているわけです!
先ほど「王道キャラ」は「挫折」したときに悔しさを表明する(「ちきしょー!」)と述べました。
「優等生クール」は逆に「悔しくても言わない」のです。
自分の胸の裡で渦巻く感情の荒ぶりを、うまく言葉にできずに苦悩します。
そう、何でも卒なくこなせると思われていた「優等生クール」は、感情の発露に関しては「不器用」なのです。
ここがカッコいい!部分ですね。
(女性に「優等生クール」のキャラクターが人気なのも、この点が「刺さる」からでしょう)
降谷は「言葉にしてうまく言い表せない気持ち」を栄純との会話を通じて、言語化していきます。
素直に「悔しさ」を口にできる「王道キャラ」。
「優等生クール」が彼を認めた瞬間が「熱い」!
そしてまた、冒頭に例を引いた、文芸におけるスポーツジャンルの描き方の鍵がここにあります。
漫画や映像に対し、活字ベースのエンタメである文芸が勝る点は、キャラクターの感情を描けるという点です。
故に読み手に感情移入を促すことができる。
漫画や映像では、「何を考えているのかわからない」、「優等生クール」の苦悩、不器用さ。
その胸の裡で起こっている感情を、描写できるのです。
御幸一也(みゆき・かずや)/先輩先生
「じゃあ、お前・・・・一人で野球やるつもりか?」
栄純と降谷は共に、ピッチャー(投手)です。
シンプルに野球というスポーツを説明すれば、ピッチャー(投手)が投げた球をバッター(打者)が打てるかどうか、です。
しかし、バッター(打者)が空振りをしたときには……ピッチャー(投手)の球を受け取るキャッチャー(捕手)が必要になります。
御幸一也はこのキャッチャー(捕手)で、「天才」と呼ばれる栄純たちの上級生です。
栄純や降谷たち下級生(一年生)を教え導くメンター(先輩/先生)キャラクターでもあります。
「先輩/先生キャラ」を描く際に重要なことは、「一から十まで説明しない」ということです。
「教え導くのに教えないってどういうことだよ!?」
……とお思いになった方もいらっしゃるでしょう。
「先輩/先生キャラ」が答えを主人公たちに「すべて語ってしまえば」、物語は必要ありません。
「答え」は主人公たちがもがき苦しみながら、「見つけていく」しかないのです。
では、「先輩/先生キャラ」は何をするのか?
「メンター(先輩/先生)」というのは、「偉い人」という意味ではありません。
教え導き、気付きを与える存在が「メンター」です。
『化物語』の忍野メメ風に言えば、
「助けないよ。力を貸すだけ。きみ一人で勝手に助かるだけだよ、お嬢ちゃん」
……となります。
余談ですが、『化物語』の忍野メメはアニメ版声優を櫻井孝宏さんが演じています。御幸一也の声優も櫻井孝宏です。『モブサイコ100』のメンター・霊幻新隆も櫻井孝宏さんです。
櫻井孝宏さんが「先輩/先生」の記号表現になりつつありますね。
『ダイヤのA』に話を戻しましょう。
御幸一也は、後述するクリス先輩が陰ながら努力していること(また複雑な想いを抱えていること)や、どうしたら投手としての自分の持ち味を活かせるのかを、明確には説明しません。
栄純に「ヒント」や「方向性」を与え、彼が自ら「気づき」、「成長」するように促します。
滝川・クリス・優/先輩先生
「俺のようにはなるなよ 沢村・・・・」
クリスもまた、栄純に「明確な指導」を行いません!
(これが「先輩/先生」の描き方なのです)
また「先輩/先生キャラ」の熱さ表現の手法として、「教え子から逆に教わる」という「熱さ」があります。
かなり狭い範囲の例えになるのですが……。
『機動武道伝Gガンダム』という作品には、主人公ドモン・カッシュに対して、強烈な「先輩/先生」キャラクターが登場します。
東方不敗・マスター・アジア御大です!!
このマスター・アジアとドモンはシリーズを通じて対立していきますが、最後、マスター・アジアは言います。
「ドモン……お前には教えられたよ……」
このシーンが「熱い!」
『Gガン』の話は長くなるのでこの辺にしておいて、『ダイヤのA』でも、この「教え子から学ぶ」シーンが第三幕の「クライマックス」、「奇跡」を起こしていく部分で描かれます。
熱い!!!!!
『ダイヤのA』がどのように「熱さ」を演出しているのかについては、後述するストーリー分析で見ていきます。
この他にも『ダイヤのA』には魅力的なキャラクターたちが数多く登場します。
ですが、今回の構造解析では、1巻〜5巻までの内容を神話の法則という物語分析方法を使って見ていきます。
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