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『ノスタルジア 4K修復版』~4Kを待っていたかのような映像美~

「4K修復するなら、どの映画?」

もし、そう尋ねられたなら、まちがいなくタルコフスキー監督の映画と答えるだろう。それほどこの人の映像作品は美しいし、なかでも『ノスタルジア』は群を抜いてきれいだと思う。

今回の修復版の監修は、オリジナル版の撮影監督だったジュゼッペ・ランチ。これ以上の適任者はいないだろうということで、もう回数も覚えてないぐらい何度も見返した作品ではあるけれども、ぜひ劇場で見てみたいと、とても楽しみにしていた。

水がとにかく美しい。水だけではなく雨、霧、靄、露、蒸気、雪など、水のさまざまな分身がていねいに静かに映し出される。

光もとにかく美しい。自然光はもちろん、ライティングも。特に、アンドレイが滞在するホテルの部屋のライティングは、いつまでもその映像に浸っていたいほど美しかった。

そして、鏡。水面だけでなく、壁も床も、まるで水鏡のように人物や景色を映し出す。

それらに加えて水音。流れ、したたり落ち、降り、湧き出でる水の音が、映画に深遠さと神々しさをもたらす。

ストーリーは次のとおり。会話も意味深で、さまざまに解釈されている映画だが、やっぱりこの映画の醍醐味は、なによりその絵と音の美しさに目と耳を研ぎ澄ませることの快感を味わうところにあると思う。

イタリア中部トスカーナ地方、朝露にけむる田園風景に男と女が到着する。モスクワから来た詩人アンドレイ・ゴルチャコフと通訳のエウジェニア。ふたりは、ロシアの音楽家パヴェル・サスノフスキーの足跡を辿っていた。18世紀にイタリアを放浪し、農奴制が敷かれた故国に戻り自死したサスノフスキーを追う旅。その旅も終りに近づく中、アンドレイは病に冒されていた。古の温泉地バーニョ・ヴィニョーニで、世界の終末が訪れたと信じるドメニコという男と出会う。やがてアンドレイは、世界の救済を求めていく…。

「ノスタルジア4K修復版」公式サイトより

ひとつだけ内容に言及するとすれば、やはりロウソクのことだろうか。

「ロウソクに火を灯し、それを消すことなく温泉の広場の端から端まで渡れたら、世界が救済される」という言葉は、ドメニコという狂人から発された言葉で、誰も信じていないのだが、アンドレイはその儀式に身を捧げる。

これに似たようなエピソードがタルコフスキーの遺作『サクリファイス』にもある。

「時々自分に言い聞かせる。毎日欠かさずに、正確に同じ時刻に同じ一つの事を儀式のようにきちんと同じ順序で、毎日変わることなく行っていれば、 世界はいつか変わる」

ほんとうにそうなるかどうかわからないことを、そうなるかもしれないと信じて行うこと。アンドレイやアレクサンデルと同じく、なぜかボクもこうした考えにすごく惹かれてしまう。奇跡はそうして起こるような気がしている。

最後に。
タルコフスキー=眠たいというイメージもある監督だが、眠ってしまう前になんとか堪能できるのが冒頭の長回し。
走る車が画面の左へ消え去り、再び画面の中に入ってきて止まり、女性が降りてきて、教会の方へ歩いて行く。しばらくして男性が車から降りて・・・。というあの霧の中のカットは圧巻です。

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