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山と仕事とわたし

アウトドア雑誌の編集長になるなんて、学生時代には思いもよらなかった。山登りにまつわることで起業するなんて、1年前の自分が聞いても驚く。

仕事の話をすると、「山が好きなんですね」と言ってもらうことがあるけれど、自分では正直よくわからない。ただ、毎日、山のこと、山を好きな人たちのことが気になっている。大雨や地震のニュースを見ると、山にいるであろう人の顔が思い浮かぶし、お買い物に行って服や雑貨を見かけては、山登りでも使えるかどうかをチェックしている。仕事だからかもしれないし、仕事で無くなっても考え続けるのかもしれない。

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初めて山登りをしたのは、社会人2年目の夏だった。山好きの叔父が旅行ついでに白山へ連れていってくれたのだが、顔をブヨに刺され、途中で置いていかれ、下山するときには綿のTシャツが雨と汗で濡れて寒い、という散々な有り様だった。それでも、霧の立ち込めるグレーな世界のなか、足元の高山植物と先へ先へと伸びる登山道に心惹かれたこと、背負っていったオレンジが美味しかったことを、幾度となく思い返している自分がいた。

それからは休日になると、ジャージ姿で奥多摩や丹沢の低山に登るようになった。次はどんな景色が待っているのだろうかと想像をふくらましてはワクワクし、歩くのが遅くて周りに迷惑をかけたらどうしようかとくよくよした。

そんなころ、会社で偶然すれ違ったアウトドア編集部のアルバイトさんに、積もる思いを聞いてもらったら、彼がちょうど山道具のお買い物企画の読者モデルを探したところで、誌面に出てみないかと声をかけてもらったのが、仕事として山にかかわるようになった初めてのこと。

当時、わたしはバイクのハーレーダビッドソン専門誌の部署にいて、山の知識はまったくなかった。撮影で登山専門店に初めて行き、おしゃれなウエアを試着させてもらい、登山地図やガイドブックにたくさんの種類があることを知り、びっくりしたことを覚えている。

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それからいろんなことがあって、今に至る。

難易度の高い山には登れないけれど、海外のロングトレイルを歩いたり、テント泊で縦走したりすることもある。

でも、まだ見ぬ世界へと一歩ふみ出すことへの不安、それでも前へ進みたいと馳せる思いは、13年前に山登りを始めたころと変わらない。

ひとつ違うことがあるとすれば、その気持ちを分かち合える相手が増えたことだ。山へ取材に行くと話せば、天気予報を一緒に調べてくれる仕事仲間。心動く経験をしたら興奮のまま教えてくれる友だち。難しいルートや新しい経験に誘ってくれる先輩。

これから先も、わたしは山に登り続けると思う。でも登る山の数は、さほど重要だとは思っていない。

山を愛する仲間がいてくれること。それがわたしにとって、何よりの宝物だから。

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