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超現実的な未来予想!井上智洋『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』

井上智洋さんの『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(文春新書, 2016年)を読んだ。

以前に、著者の別の本も読んだことがあるが、こちらは処女作のようで、想いがつまった読み応えのあるものであった。

感想を一言でいうと、

凄い現実的な未来予想になっている、という点。

ここまで細部に至るまで、共感できた未来予測の話は今までになかったかもしれない。

というのも、僭越ながら、著者が考えるAIの発展の方向性と、BI(ベーシックインカム)のメリデメ、金融政策の認識が、全部、私と同じであり、かつ、より具体的に言語化されていたからである。

AIについては、これから発展する最大の理由は、シンボルグラウンディング問題を解決したことであり、これがセンスデータから自動的に記号(シンボル)を学ぶようになる。そこには乗り越えなければならないたくさんの問題があるが、今人間がやっている事務仕事などは2030年からどんどんAIに仕事を奪われる。

しかし、物理世界で行動したり、人間の来歴(生まれてからの経験)に基づく常識のようなものを体得するのは、難しい。

レストランのウェイターロボットは、ネズミが出てきたら、ゴキブリのように叩き殺してしまうかもしれない、という例が斬新かつわかりやすい。人間の感性では、ネズミを潰すというのがとてつもなく不快なことをロボットはしらないのだ。

これはフレーム問題といえる。この問題は、シンボルグラウンディング問題の解決だけではなく、生物的な善悪という原理を基に、世界を生き、世界像や価値観を築き上げないと学ぶことができない。

また、ソ連の社会主義の計画経済が失敗したのは、経済取引がスムーズにいくための無数の変数を神の視点で理解し、調整することなど不可能だというのがポイントで、さらに、2022年など現在の技術をもってしても、まだまだデータ量や解析技術はまったく十分でない、という現状認識。

このためには、アーキテクチャ的なアプローチではなく、全脳シュミレーションのように、ミクロ単位で人間の脳のようなものを作らないとそのブレークスルーはできない。

それゆえ、2045年くらいになっても、事務仕事は代替されるが、創造的な領域(言語に還元されない)は、まだ人間が働く必要がある。

また、BIの世界になっても、食糧や資源は有限なので、人工統制は必要になる、という点も、現実的。

金融政策については、日銀が民間銀行の国債を買ってマネーを供給しても、それが市中の一般市民に行き渡らない場合は、効果がないというのも、私がずっと主張してきたことであった。

残るは、現実的にどうやってBIに移るのか、ということだ。財源は、本書で主張されているような所得税でいけるだろうし、移行は、毎月1万円などから徐々にやって7万円までもっていけば、行動様式がどう変わるかも、調整しながら対応できる。

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よくよく著者のプロフィールを見ると、大学はコンピュータ科学を学び、その後働いたあとに、2011年に早稲田大学の博士課程を36歳(今の自分の歳)で修了しており、興味深い。

私もここで言われている未来に向かって何かができれば、と思う。

この未来で重要なことは、
・事務仕事を代替するようなAIを作るために、日本が先行し、優位なポジションを築けるのか?
・失業者の生活が保障されること
・そもそも人間はなぜ生きるのかの共通認識の確立

のようなことだろう。

哲学をやってきた立場として、最後の実存的な課題、およびそこから派生する社会の理念について、何か考えられそう。



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