『駅名替え歌』の押韻を分析してみた
こんばんは。Sagishiです。
今回は、想像地図さんの『駅名替え歌』の話をしていこうと思います。
想像地図さんの『駅名替え歌』は、元の楽曲の歌詞をすべて駅名で置き換える、ということをしています。しかも、押韻しながら。最初聴いたときはさすがに「嘘でしょ?」と思いました。それぐらいびっくりしました。
そして実際聴いていると、かなり巧く押韻されているように感じました。元の歌詞と替え歌で、どこまで押韻が一致しているんだろう。つい気になったので、調べてみました。
1 押韻分析していく
こんな感じで比較しながら、押韻されているか見ていきます。
「タダシサトハ/タダシラオカ」「オロカサト/オノアサト」綺麗に押韻されていますね。Perfect rhymeになっています。
最終音節だけ「ハ/ダン」で、音節の長さが違う押韻ペアが作られていますが、日本語ラップにこういう例は非常に良く見られます。
KICK THE CAN CREW『スーパーオリジナル』(2001年)の「カテゴリー/断然多い」、RHYMESTER『ミスターミステイク』(2010年)の「男/ドン底」、ZORN『家庭の事情』(2021年)の「少年院/常連に」など。
わたしは、こういうふうに音節の重量(長さ)が異なる押韻を「長短韻」と呼んでいます。定義は下記に。
要は「音数に差があるライム」です。「ハ/ダン」も長短韻が語末に使われることで、自然な押韻として実現していますね。
「ソレガナニカ/ソネダナギサ」「ミセツケ/ミエフセ」はPerfect rhymeですね。「テヤル/エンガル」は、ここでも長短韻が使われています。
「チッチャナコロ/シンカワチョー」のペアは面白いですね。注目したいのは「チッ/シン」で、第2モーラが促音と撥音で異なっています。しかし音声的には十分押韻になっているように聴こえます。なぜでしょうか。
理由は、上記の促音や撥音は音節主音にはなっておらず、音節の従属音になっているからです。このように音節主音で母音を揃えて、音節従属音では異なる要素で押韻する手法を、わたしは重音節韻と呼んでいます。
重音節韻も、長短韻と同じくこれまで定義こそされてこなかったですが、日本語ラップでは非常によく使われます。
舐達麻『LifeStash』(2018年)の「ファイヤー/判断/階段」や、ZORN『Stay Gold』(2021年)の「十分だった/順風満帆」、KREVA『変えられるのは未来だけ』(2021年)の「パーテーションを/完全消去」などがあります。
ここは面白いですね。「気づいたら/紀伊内原」はそのままの発音だと押韻関係になれないですが、「キウチハラ」と発音させることで押韻にしていますね。「オトナニ/オードマリ」や「ナッテ/ナテ」は長短韻ですね。
「ヨーナ/ゴー(オ)ナ」の部分は面白いですね。郷にすぐ後続するように尾奈を発音することで、一体的な発音にして押韻を実現していますね。
ここはすべて完全韻ですね。見事です。
「デモアソビ/ケンチョーマエオビ」は、かなり詰め込んでいますね。最も音数の差異がある箇所です。おそらくここの「エ」の発音を弱くさせればいける、という判断なのだと推測しています。想像地図さんは、かなり音に鋭敏に反応して、歌詞(駅名)を選んでいるのだなと感じます。
「コマッチマウ/ゴマヒラフ」の押韻は面白いですねw 「ハダレカノセー/ハマデラコーエン」も、文節の位置の切り方が高度で面白いです。
「コンラン/コーナン」「エイデイ/メンデン」で、ここでも重音節韻が使われていますね。
「ソレモソッカ/ショーテンキョーゾーダ」で、長短韻と重音節韻が使われていますね。「サイシンノリューコーハ/サイインオギューコーワ」「トーゼンノハアク/ドーセンコヤマツ」はきれいな押韻になっていますね。
「ケーザイノ/テーラヂチョー」から、腐心して歌詞を選んでいることが想像できます。「ドーコーモツーキンジチェック/コーヨーコクシンチセッツ」は、すごいところで切って押韻されていますね。駅名でこんなことができるのか、と驚くばかりです。
ここも長短韻・重音節韻を駆使しています。個人的に面白いのは、「ワーク/アワヅ」ですね、ここは「アワヅ」でないと成立できなかっただろうなと感じます。
「シャカイジンジャトーゼン/カサイリンカイコーエン」はやばすぎる! こんなに巧くハマる駅名があるとは、ほとんど奇跡にしか思えません。細かく刻むrhymeもいいですが、長いフレーズでどかっときれいに踏めることに心躍ります。
「ウッセーウッセーウッセーワ/クッネーニューゼンウーゼンナ」は、さすがにかなり大変そうですねw 促音や長音を足して、響きを実現させています。というかすごく当たり前ですが、「ウッセー」と韻踏める駅名って何だよ!って感じですもんね。いやはやなんとも。
「ケンコーデス/エチゴソネツ」は、ここまでの替え歌でもほぼ初になる明確な揺らぎがありますね。実際音楽として聴くならこれぐらいは許容範囲でしょう。
押韻も良いですが、知らない駅名を知れるのも駅名替え歌の面白いところですね。風合瀬駅ってどこだよ?! 調べたら、青森県の日本海側の海岸線を縫うように走る、五能線のド真ん中にある駅でした。さすがに五能線には乗ったことがないですね(というかそんな路線があることも知らなかった)
自分の人生で、五能線を乗り通すのが先か、飯田線を乗り通すのが先か、そんなことを思わずにはいられません…。(どちらも無理な気がする)
「フカモナイメロディ/ヒューガショーナイメトキ」はなかなかきれいな押韻ですね。目時駅って変わった駅名だなと調べたら、これも青森県。覚えてはなかったですが、青い森鉄道の駅なので、10年以上前ですが通過したことのある駅ですね。
Wikiを見ると、会社境界駅だと書いてあってびっくりしました。記憶では確か、青い森鉄道では車掌交代などはなかったと思うのですが、やはり境界駅だけどIGRいわて銀河鉄道へと通し乗務されているようです。
地味な知識ですが、知れるとちょっと嬉しいですね。
温泉が二回出てくるのが面白いですね。母音「o.e」が出てくるところは「温泉(on.sen)」で踏めるというのは、まさに長短韻だなと感じます。
「ウッセーウッセーウッセーワ/チューデンウッゲウッメッダ」は、促音を挿入することで実現していますね。音節主音の位置を的確に合わせることで、押韻の響きは実現できるのだということが、よく分かります。
押韻というのはただするだけではだめで、音楽においては押韻されている音節の音節主音同士が、適切な位置で対応していることが極めて重要だと言えます。特に長短韻ではモーラ数が異なるため必ず位置がずれます。意図的に音節主音の位置を操作するのは必須だと言えますね。
2 分析してみて
以上、替え歌の1番の押韻を見てみました。率直に、こんなに作るのが大変な替え歌もないな、という印象を受けましたw 縛りが変態すぎるw
全体的に押韻がどうなっているのかを見ると、歌詞のすべてを押韻して替え歌を作るという特性上、「長短韻」や「重音節韻」が頻出するというのが非常に特徴的だと感じました。
わたしがざっと調べた感じでは、普通の日本語ラップの歌詞では「長短韻」や「重音節韻」は曲中で1割以下程度しか現れないので、ここまで頻出するというのは独特で、興味深く感じます。
それに、語境界をまたぐような押韻が1曲のなかでたびたび現れるというのもとても面白いです。
単語同士による押韻は「単語韻」と言われますが、文節・語境界をまたぐような押韻は必ず複数語・複数品詞による構成になります。わたしはそのような複数語・複数品詞による押韻を「混成韻」(英語で言うところのmosaic rhyme)とも呼んでいますが、文節・語境界をまたぐような混成韻が1曲のなかで何度も出てくるというのも非常に珍しいので、替え歌という縛りが、そのような特殊な押韻を多く呼んでいるのだと強く感じました。
そもそも駅名で替え歌を作っていることで、ほぼ間違いなく誰も踏んだことのないような押韻ペアが次々に現れるのがめちゃめちゃ面白いですw 極めて創造性が高いですし、すごく脳が刺激される感覚があります。
あと、ついでに地理・地名や鉄道路線の学習にもなってるというw 思わず調べたくなるような駅名があるので、つい調べてしまうんですよね。東海地方の駅限定でやるとか、色々なコンセプトでやることもできそうですし、知的学習の意味でもものすごく面白いですw
皆さんは想像地図さんの『駅名替え歌』、どう感じましたでしょうか。わたしは、これはちょっと変態だなと思いましたw とてもじゃないですが、自分には駅名のボキャブラリーもないので出来ないなと感じました。
こういったものを通して、押韻に触れるというのも貴重な経験でした。ここで御礼に変えさせてください。想像地図さん、ありがとうございました。
詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/