100年後占い
そこそこ努力して、そこそこの大学行って、社会人になって。自分なりに工夫して仕事してみて、周りからも評価してもらえて。普通の家庭を作って、平均寿命くらいで死んでいく。
きっとそれが僕の人生。何も不自由はない。そのそこの人生。それでいいはずなのに、定期的にやってくるこの虚無感はなんなんだろう?
朝8時30分から13時間くらいディスプレイと向き合う連日のハードワークが一区切りついたので、1週間ぶりくらいに夕方で仕事を終える。19時ちょうどに届いたUber Eatsのスンドゥブに汁が見えなくなるくらい七味をかけて食べながら、Netflixで人気のサスペンスドラマを1.25倍速で見ている。
今の僕はきっと心が渇いている。どんなに美味しいものを食べても、センセーショナルな映像を見ても、砂漠の砂に水をやるようなもの。
静かな部屋に漏れかけた自分の溜息をかき消すようにTwitterの通知をイヤホンが読み上げた。
「100年後占い」と名乗るアカウントから、スパムっぽいDMが届いていた。
そういえば先月までカウンセリングを受けたんだけど、お金なくて辞めちゃったんだよな。大して期待もしないけど、無料だし、100年後ってまだ生きてるのか気になるし、退屈しのぎに受けてみるか。
少し警戒してURLをブラウザのシークレットモードで開くと、ぐるぐる廻るマンダラ模様が出てきた。ぐるぐるを見ていると、数秒で気を失ってしまった。
未来の僕
なんとなく見覚えがある薄暗い部屋に、白髪の老人が1人。こっちを見ている。
100年後の世界に迷い込んでしまっただと!?100年後占いすごすぎだろ。
どうやら27歳の僕は、100年後の世界にタイムスリップして、127歳の僕に出会ってしまったようだ。
異常な目の座り方をしている。老人の貫禄かと思ったけど、これは死を覚悟した人間の目なのかもしれない。
100年後占いで未来に希望でも持てるかと期待した自分がバカだった。まさか100年後の自分が自殺を選ぶことを知ってしまうなんて。
127歳の死にたい理由
さっぱりわからない。死の自決権?なんだそれ。自殺する自由なんて認められてたまるか。それにこの状況、過去の自分に申しわけが立たないとか未来の僕は思わないんだろうか。
僕はいったいどんな人と結婚するんだろうって聞きたいけど、聞いたら悲しくなりそうだし、今はそれどころじゃない。
テセウスの船
自分がまるで自分じゃないみたいだ。100年間の月日を経験した僕は、今の僕とは別人なのはなんとなくわかるけど。
今の僕と未来の僕は、繋がっていないようで、でも繋がっているようでもある。なんとなく捻くれている感じが、自分に似ているけど、他人にも思える。
過去への遺言
100年後の自分に会える機会は、きっとこれが最後だ。そして死んでしまうわけだから、聞きたいことを聞いておきたい。後悔したくない。
再びマンダラ模様が視界を覆って、真っ暗闇になった。
ふと目が覚めると、空気に触れて冷え切ったスンドゥブとNetflixのドラマの早口な喋り声が再び知覚できた。現実世界に戻ってきたようだ。一瞬の出来事だったような気もするし、すごく長い間老人と話していたような気もする。
神はなぜ、27歳の僕と127歳の僕と出会わせたのだろう。夢だったのか、幻覚だったのか、100年後占いで本当にタイムスリップしたのか、それはわからない。ただ1つ確かなことは、今ここに自分が生きていて、今の僕の生き方は今の僕にしか決められないということ。明日の僕が僕であり続ける保証は1つもない。
渇いていた日常が、瑞々しさを取り戻し始めた。