私のブックカバーチャレンジ解題 上

1)『漢楚軍談』

 初日はなにはともあれこれ。
 本の再読というものは滅多にしません。なにしろ、読みたい本、読むべき本が溢れかえっていて、興味は次々と遷っていくし時間は足りないし。そんな私ですが、子供の頃買い与えられたこの本がツボに嵌まりすぎて。小学校の頃、熱を出して学校を休んだときは、必ずこれを再読していた、という位に好きでした。
 ツボに嵌まった本は必ず原典に当たるまで掘り下げるオタク気質なので、原典を探し求めて苦節うん十年。中高時代、書店に行くたびに中国書籍のコーナーを見ましたが、発見出来ず。司馬遼太郎の『項羽と劉邦』を読んで、これはちが~う、と思い。他にも関連小説は手に入る限り読み、映像作品もいろいろ見ましたがこれというものが見つからず。そんな次第ですっかり諦めてしまい、横山光輝先生の『項羽と劉邦~若き獅子たち』も、タイトルからどうせ司馬遼太郎でしょうと思っていましたが、読んでみたら展開が『漢楚軍談』なのに欣喜雀躍して読み進め、最終巻の後書きで『通俗漢楚軍談』に触れられていたので感動して、やっぱり原典を読みたいなあと思うようになり。大学生時代に『通俗二十一史』の古本を神田の古本街で手に入れたんですけど、読み進めきれずに挫折し、ゆまに書房の『西漢演義伝』を手に入れて挫折し、個人で訳したという『四面楚歌』も買ったんですがその頃はもう仕事で時間が足りなくて、ただ持ってるだけになっていました。
今回、このブックカバーチャレンジのためにSNSに投稿したあと、ふと思い立って4-5年ぶりにネット検索してみたところ、何と、Kindleで『通俗漢楚軍談』が読める、しかも総フリガナつき、という事を知って、早速購入。読みやすい! これなら読める! しかも、関連投稿をしていた方に、今では『西漢演義』はネット上で全文見られちゃう事なども教えて頂いて、時代の移り変わりは凄いなあと思いました。そして、このブックカバーチャレンジのバトンを渡してくださった方々に感謝致しました。
 昭和初期の頃までは演義ものとして『三国志』に負けない位知られていて、だからこそ、こうして子供向けの全集の一冊にもなり得たのだと思われるのに、いまや『漢楚軍談』と言っても通じないというのが残念でたまりません。もちろん演義ものですから、三国志演義と同じで、史実とは異なる虚構がたくさんありますが、面白いエピソード満載で、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』よりも、入門編としては向いていると思っています。この本の復刊あるいは新たな子供向け作品の発刊を、切に願います。

 ところで、関連漫画で最近のお気に入りは『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』(川原正敏)です。こちらは、『漢楚軍談』ではなく、『史記』をメインに作者がいろいろ考察を加えて描かれていらっしゃいます。『張良』という小説はありましたが、張良先生を主人公に据えた漫画というのは、私の知る限りでは初めてで、大変新鮮でした。しかも、面白い。今現在も連載中ですが、今後が楽しみです。あ、15巻出てる。買わなきゃ。



2)ふくろう文庫『怪談(2)』

 2日目はこちら。知る人ぞ知る、少年少女講談社文庫、通称「ふくろう文庫」の『怪談』は、『怪談ほか』『怪談(2)』『怪談(3)』とあるらしいのですが、何故か持っているのはこれだけ。好きになったら何でも揃えるオタク気質のある私にしては珍しく、ピンポイントでこれだけ持っているという。『怪談』3冊の中でもこの本は、その挿絵のインパクトが強すぎて、出色の出来だったらしいと、後々ネットの噂で知ることになるのですが、子供の頃の自分はそんなことは知りませんでした。
 この本の冒頭の作品は『冷房をおそれる男』。作品自身も凄いんですが、何が怖いってもう、挿絵の印象が強烈過ぎて。子供相手にそこまでするか、っていう容赦無さでした。実は、かの有名なラヴクラフトの作品で、『冷気』というタイトルで創元推理文庫『ラヴクラフト全集4』に収められています。発見したときは驚愕しました。それくらいはっきりと記憶していたという訳です。「ふくろう文庫」を読み返したら、解説にちゃんとラヴクラフトの説明もありました。「本は解説までもれなく読む」が信条の私なので、読んだ筈なのですが、何しろ人の名前を覚えない性質なので忘れていた次第でした。
 もう一作品、『アガサ・クリスティ短編集』を読んでいるときにも、この本の収録作品に遭遇しました。『ふしぎな足音』というタイトルの切ない作品でしたが、短編集の中では『ランプ』というタイトルでした。
そんなこんなで、この本の収録作品は侮れないと思い、見れば『かべの中のアフリカ』がレイ・ブラッドベリの作品なのに気づき、ハヤカワ文庫の『刺青の男』に収録されている『草原』という作品だということを、これはネットで教えて貰ったんだったと思います。購入して読みましたが、実はもともと読後感の良くない作品で、あまり好きではありません。

 ふくろう文庫の『怪談』シリーズについてはこちらのネット記事が大変参考になります。
http://jajatom.moo.jp/kyoufu/2004kaikibon/03.html
『怪談(2)』の挿絵に関するコメントには、激しく同意致します。復刊されないかしら。

3)『モンテ・クリスト伯』

 3日目。これはやはり外せません。小学生のころジュブナイルで読んで、飽き足らずに岩波文庫全7冊を親にせがんで買って貰って読みました。小学生がよくぞ読んだものだと思うし、意味わかってなかったよね? と思う所も。ちなみに当時はまだ熊本の街中にあった紀伊國屋書店で購入したのですが、紀伊國屋書店でも7冊全部は揃っていなかったので、お取り寄せしてもららいました。最近の版は綺麗なカバーが付いていますが、当時の版は透明セロファン紙のカバーがかかっているのみで、すぐボロボロになってしまい、別の紙でカバーをかけていました。
 これまた好きすぎた作品ですが、小学生に岩波文庫は流石に辛かったためか、大デュマの他の作品に興味を広げるのではなくて、『モンテ・クリスト伯』『巌窟王』関係の書籍や映像作品、漫画、アニメに興味が遷りました。
 1998年フランスでドパルデュー主演でドラマ化されたものは、DVDで見ました。主役がイメージに合わず、しかも結末が気に入りませんでした。
 2004年-2005年アニメ化された『巌窟王』も、DVDを購入して見ました。これは映像もモンテ・クリスト伯の造形もそして声優が中田穰治さんという点も満足度が高く、発売される都度買ってわくわくしながら見ていましたが、主役がアルベールの設定になっていたために、まさかの展開が待っていて、衝撃が強すぎて封印状態に。最近見直して、結末は不満でも、映像化作品の中ではやはりこれが一番かなと思っています。
 2018年、日本でドラマ化されたので、めったに見ないドラマを珍しく全部見ました。ディーン・フジオカさんはイメージによく合っていると思いました。また、ジュブナイルでは絶対に取り上げられない部分の設定を取り上げてドラマ化されていたので吃驚しました。でも、やはり結末が気に入りませんでした。
 漫画作品もいろいろありますが、女性漫画で2015年発売白泉社『モンテ・クリスト伯爵』(森山絵凪)は、原作に忠実かつ原作へのリスペクトに溢れ、1冊で原作のエッセンスを堪能できるすばらしい作品に仕上がっています。作画の好悪が別れるところかもしれませんが、絵柄が趣味に合う方には強くお勧めする次第です。

4)『月虹』(水樹和佳)

 4日目。水樹和佳(現在は水樹和佳子)先生との出会いは、中学校時代、ダンスの授業でBGMとして『樹魔・伝説』という作品のイメージアルバムを供出してくれた同級生がいて、コミックスを貸して頂いた事が始まりです。実はそれ以前に、『天女恋詩』というコミックスを偶々書店で見て購入して持っていたのですが、その作品にはそれほどには嵌まっていませんでした。『樹魔・伝説』はSFで、それから他の作品を読むようになり、『月虹』が一番のお気に入りになりました。好きすぎて、ぶーけコミックスで持っているのに、このSGコミックス、後に発売された創美社コミックスのハードカバー、ハヤカワ文庫と4形態に加えてKindle版も持ってます。
 今は無き雑誌『ぶーけ』に連載された作品で、コミックス化にあたり、50ページ加筆されていると、ぶーけコミックスの裏表紙折り返しに書かれています。残念ながら連載時は知らず、コミックスになってから読みましたので、どこが加筆されているのか分かりません。作品はぎっちり描き込まれていて、いわゆる密度の濃い作品です。
 水樹和佳先生と言えば、代表作は『イティハーサ』であることは異論のないところだと思います。『イティハーサ』もハードカバー、文庫、Kindle版と各形態を揃えたのち、ハードカバーは手放して、文庫とKindle版を持っています。『イティハーサ』連載中に『ぶーけ』が形態を変え編集方針を変え、『イティハーサ』だけが浮いた存在になって、ついに連載打ち切りになって、コミックス書き下ろしの形で完結するという扱いでした。その後雑誌『ぶーけ』は消えました。数々の名作を生み出した名門の雑誌だったのにと思うと今でも残念です。そういう経緯もあったので、『イティハーサ』を読むと少し重苦しい感じがしてしまいます。『月虹』もまた、最終戦争一触即発の近未来の終末期を描く作品なので、重くない訳ではないのですが、最後に救いがあります。SFの設定も興味深いものがあります。時代背景が今と全く異なってしまったので違和感があるかもしれませんが、テーマ性は今でも変わらないと思っています。
 ところで、各種形態の中から何故この表紙なのか。実はSGコミックスにはおまけ漫画が付いているのでした。レア度でセレクト致しました。
今から考えると、私はSFをあまり小説では読まずに、もっぱら漫画で読んできました。上質なSFに漫画で触れられる幸せな世代であったと思います。

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