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陽気に悲しげに曲は鳴り響く

ワイルド・ソウル 2003 垣根涼介


小説の良さは、今まで見たこともない
時代の風景を見せてくれるということ。


物語の序盤は、アマゾンの圧倒的な絶望感、
そこに移住することになった人々の悲惨な
状況についての詳細な描写から始まる。
そこでは、戦後の移民政策の闇が綴られる。
想像を絶する状況に愕然とさせられ、
登場人物に感情移入し、居た堪れなくなる。


そして舞台は日本に移る。
序盤の描写を背景として物語は加速する。
個性的な人物達のやりとりが小気味良い。
復讐劇は手が込んでいて爽快である。
圧倒的な怒りの中にも人を傷つけないという
優しさがあり、練られた計画に感嘆する。

途中、シランダの輪という曲が描写される。
ブラジルのサンバである。楽しくも物悲しい。

「打ち鳴らされる手太鼓、拍子木、マラカスの音。
 弾けるようなギターの音色。そして大勢の拍手。
 と、底抜けに明るい歌声が車内に鳴り響く。
 女の声が伸びやかに歌い出す。

 踊り舞うシランダ
 人生を輪舞するサンバのように
 廻っていた いまも廻るよ
 シランダを踊る娘の
 レース飾りのスカート
 その輪の中に

 輪をごらん 輪をごらん
 輪は廻り、転がってゆくためのもの
 転がってゆく人生…」


アマゾンへ移住し、志半ばに土に還った人たちへの
弔いの歌として、陽気に悲しげに曲は鳴り響く。
悲しさと楽しさが混在した奥行のある小説である。

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