BABYMETALはPOSERか? ー”メタル史”における評価と位置づけー
Babymetalは多くのメタラーにとってトラウマだろう。ピュアメタラーを自負するプライドを打ち砕かれたのだから。Bebymetalを好きになることによって!
さて、このタイトルとサムネで当記事をクリックした貴兄・貴女はBabymetalはもちろんご存じ、且つ、それなりのリテラシーがあるメタラーでしょう。細かい説明は飛ばして、Babymetalが10年にわたる活動に区切りをつけ、「Living Legend」となった(=活動休止中)今、メタル史におけるBabymetalの位置づけを改めて考えてみたいと思います。
Babymetalの特異性
Babymetalの最大の特異性は、メタル史にもアイドル史にもその存在が刻まれることでしょう。複数のジャンルの歴史に名を刻むアーティストは稀です。類似の存在は、、、あまり思い浮かびません。「メタルとパンク」とか「ジャズとプログレ」とか、ある程度隣接するジャンルであれば思い浮かびますが、それらはそのジャンルが発達する過程で融合していく、クロスボーダーしていく過程で生まれたバンドとも言えるし、そもそも型ができあがっていた、異なる過程を経て成熟した2つのジャンルを融合し、それぞれでしっかり存在感を残したアーティストというと他に思いつきませんね。ああ、敢えて言えばロックとクラシックを融合した、というのは当時としては画期的だったのかもしれません。たとえばビートルズの「イエスタデイ(1965)」で室内楽を導入したり、ディープパープルがクラシックと共演(1969)したりしたのは、ある意味「全然違うジャンルを融合した」と言えるのかも。Babymetalが成し遂げたことは、文脈的には似たような意味を持つものだったのだと思います※1。
「成熟した2つのジャンル」ということは、それぞれのジャンルに特有の文化もある、ということです。成熟したジャンルというのは音楽性だけでなく、ファンの行動パターンやライブのノリ、その他もろもろに至るまで、そのジャンルを取り巻く文化全体が確立されています。というか、「音楽性の融合」だけなら今はいくらでもできる。実験的な音楽性のバンドはたくさんいます。真に難しいのは「文化の融合」です。
別世界です。
この二つの別世界を結び付けたBabymetalのライブがこちら。
融合しえないと思われた別世界が見事に融合しています。
メタル史から見ると、曲の中心はテクニカルデスメタル(テクデス)やメタルコアに近いバンドサウンドなんですよね。少なくとも(バックバンドの音だけなら)Poserとは扱われない、かなりコアなメタルサウンド。特にライブではその傾向が顕著です。Metal Galaxyではだいぶ拡散したというか、そういうエクストリームなメタルに80年代のテイストを取り入れる、という2010年代後半からのメタルサウンドのトレンドに見事に乗った音作り。
ただ、ボーカルパートだけ抜き出すと初期はアイドルサウンド、そこからだんだんとJ-POP、日本のハードポップ的な曲調に変化していきます。いずれにせよ「メタル」とは程遠い声質と歌唱法。あくまでボーカルは「アイドル的」「J-POP的」であった。メタラーからするとバッキングのサウンド、いわゆる「神バンド」のリフや激烈なリズムに耳を惹かれているうちに歌メロが頭に入ってくるし、アイドルファンからするとボーカルメロディやダンスを追っているうちにメタルサウンドが耳に入ってくる、という構造になっています。ある意味、耳をバグらせてハッキングされる、というか。日本人のメタラーなら「J-POP」もある程度聞いているでしょうが、海外のメタラーにとって「J-POP」は異文化ですからね。それまで聞いてこなかった音楽ジャンルを受け入れさせてしまうのはまさにハッキングでしょう。
国内外の受け取り方の差
彼女たちのファン層は国内外ではっきり分かれている気もします。これはそれぞれの市場規模によるものでしょう。欧米ではいわゆる日本的な「アイドル市場」は小さい。「アメリカンアイドル」などタレント発掘番組やディズニーアイドルは存在しますが、日本的な「音楽活動を行うアイドル」はほとんど市場がなく、基本的にプロフェッショナルな歌唱力で勝負する、いわば「ポップシンガー」であったり「女優」「タレント」と呼ばれる人たちです。代わりに「メタル市場」は(日本に比べると)かなり巨大で、大規模なフェスティバルが毎年欧米中で行われています。Babymetalは海外ではメタラーに受け入れられた。海外のメタラーたちに「日本のアイドル文化、J-POP文化」を輸出した、という側面があります。
逆に、日本ではメタル市場はかなり小規模で、アイドル市場が巨大なため、日本だと主にアイドルファンから受け入れられた印象です。「海外(アウェー)の環境で苦闘し、成功したアイドル」という成長物語と共にアイドルユニットとして伝説化していきます。なので、メタラーからすると「Babymetal好きなんだ」と言われてもあまり会話が続かないことが往々にして起きる。「ギミチョコのライブバージョンってテクデスっぽいよね」「Kagerouってメタルコアだよね」とか言ってもアイドルファンには通じないわけです。逆に「Su-metalはもともと○○というユニット出身で」とか「TV番組で昔こんなことが」みたいな話をされてもメタラーは分からない。調べてわかる範囲もあるでしょうが、ある程度深い話題になっていくと興味のベクトルが基本的に違うので会話が途絶します。
海外のBabymetalファンと話す場合、日本のメタラーであれば「メタル耳」で「メタル音楽としてのBabymetal」を評価する、理解する人の比率が高いため、海外のBabymetalファンとは話が合う可能性も高まります。逆に、アイドルファンは海外の場合はちょっと人口が減るでしょうね。もちろん「OTAKU」とか「MANGA」みたいな文化の愛好家は一定数いますから、アイドル文化愛好者もいるでしょうが、海外の市場としてはかなりマニアック(それこそ、日本におけるピュアなメタラーみたいな)だと思います。日本のアイドルファンが持っているようなアイドル文化に対する蘊蓄を持っている海外のBabymetalファンは極めて稀でしょう。それぞれのそもそもの市場規模から考えると、日本ではアイドルユニットとして、海外ではメタルバンドとしてBabymetalをとらえている人の比率が多いだろうと推測できます。
海外におけるBabymetalの評価
なので、「海外におけるBabymetalの評価」がそのまま「メタル史におけるBabymetalの位置づけ」になります。海外におけるセールス状況、また、欧米のメタルフェスに出演していますから、そこで「どんなステージで、どの場所で扱われているか」から、現在のメタルシーンの中でどのように評価されているかを見ていきましょう。まずはセールスから。
Babymetalのセールス(チャート)実績
US版Wikiにはチャートと売り上げ枚数が記載されています。売り上げ枚数はやけに細かいですね、それぞれ脚注を見るとUSの売り上げは2016年、2017年、2019年のものなので、それぞれのアルバムの初速売り上げです。現在は累積してもっと多くなっているでしょう。
海外のセールスは枚数を経るごとにチャート順位も上がっていて、3rd(Metal Galaxy)ではUK、US、ドイツ、オーストラリアの主要4国で20位以内に入っています。おや、フランスやフィンランドが入っていませんね。メタルの主要市場4か国でここまで上位にいるのに欧州の他の国でまったくチャートインしないのはおかしいと思ったら、個別のwikiページにもう少し細かいチャートアクションがありました。そちらを見てみましょう。
まずは1st Babymetal(2014)から。
先ほどの一覧ページと別にスコットランド(91位)、ベルギー(181位)でもチャートインはしていることが分かります。(その国のチャート規模次第だけれど)200位ぐらいだと数百枚のセールスで入るんじゃないかと思いますが、少なくともチャートインしているということは一定数(数百人以上)のファンがいることが分かります。
2nd Metal Resistance(2016)の詳細チャートはこちら。
カナダ(71位)、フランス(108位)、フィンランド(45位)もチャートインしていますね。Finnishがフィンランド。一覧の方にも出ていましたが、オーストラリア(ARIA)が7位なのは何気に凄い。けっこう欧州中のチャートに入っています。
3rd Metal Galaxy(2019)の詳細チャートはこちら。
チャートインが増えています。50位以内の国だけ抜き出すとオーストラリア(18位)、オーストリア(30位)、フィンランド(40位)、ドイツ(18位)、日本(3位)、スコットランド(5位)、スウェーデン:フィジカルチャート(20位)、スイス(46位)、UK(19位)、US(13位)、ベルギー:フランダース地方(44位)※2。11か国もあります。このチャートアクションから見ると欧州、アメリカ、アジアに広いファンベースを持っている、と言えるでしょう。
(日本を除いて)セールス的にどれぐらいの活動規模かというと、「似たようなチャートアクション、セールス規模のメタルバンド」で表現するとTriviumやMastodon、Behemothあたりでしょうか(Behemothは欧州に強く米国に弱いので少し違いますが、総合的なセールス的には似たような感じ)。
Trivium
Mastodon
Behemoth
Lamb of GodやBring Me The Horizon、Deftones、Gojiraよりはセールス的には下、The HU、Baroness、The Dellinger Escape Plan、Hakenよりは少し上、といった辺り。2010年結成、2012年デビューという2010年代組にしてはかなり成功しています。というか、2010sデビュー組の中ではメタル界の出世頭、と言ってもいいかも。あまり成功しているバンドがいないんですよね。次はもしかしたら意外にグローバルで成功しているThe HUかも。アジア強し。メディア受けがいいCode Orangeや3Theethあたりはセールスはまだまだ。上に挙げたバンドはどれもそれなりにキャリアがありますからね。90年代と00年代デビュー組。あと、その中では(デビュー年齢がえらく若いので)ずぬけてメンバーの年齢が若いのも特徴。
結論:セールス的には2010年代デビュー組の中ではメタル界の出世頭
…この結論でいいのか(=依怙贔屓じゃないか)ちょっと不安もあるので、思いつく限り調べてみたんですが本当に他にいないんですよね。2000年代デビュー組だと上に挙げたBring Me The Horizonの他にVolbeat、Sabaton、Architect、Ghost、Halestormなどは商業的成功を収めているし、多少コアなメタルバンドからは外れますがUSに限ればDay To Remember、Breaking Benjamin、Avenged Sevenfold、Five Finger Death Punch辺りは人気。とはいえ、この辺りは軒並み2000年代デビュー組で、USのバンドはニューメタルのムーブメントで出てきたりしているので、2010年代デビュー組だと他にめぼしいバンドがいません。なのでこの結論に対する反証が見つからず。僕の見落としがあったとしても、少なくとも「2010年代デビュー組の中ではトップレベルに成功したメタルバンド」なのは確かです。
…あ、Greta Van Fleetを忘れてた。まぁ、彼らは「メタル」というより「ハードロック(というかZepp)」ですし。ちょっと違うかな。Royal Bloodもハードロックとは言えるかもだけれどメタルじゃないということで。なお、2020年代(といってもまだ2年目ですが)まで目を向けると2021年に超新星Spritboxが出てきますが、チャートアクション的には今のところ同じくらい。
ひとまず、セールス的には上記の結論として、次に(海外での)ライブの動員や欧米メタルフェスティバルでの位置づけを見てみましょう。
Babymetalの海外ライブ、フェスディバル実績
ライブ情報は日本語Wikiに頼ります。この項目充実してるな! だいたい、日本のwikiって英語版に比べて情報が薄いんですけれどね。これはアイドルファンたちの素晴らしいお仕事だと思われます。調べるのが楽でありがたい。海外ライブ経験で言うと最初は2012年、2013年のAnime Festival Asia Singapore 2012、2013に出ているようですが、これはちょっと「メタルフェス」ではないので割愛。
あ、最初はここからか。2013年ラウドパーク。
いきなり国内フェスですみませんが、日本最大規模のメタルフェス、ということで。たぶん、ここでメタラーへの知名度が増したんですよね。
おそらくここでグローバルで活躍するメタルアーティストたちと知り合い、そうしたアーティストたちもBabymetalのライブに衝撃を受けて国際的な知名度を得るようになった。その勢いを駆って翌2014年には初の海外ツアーに遠征。7/1にフランスのラ・シガール(キャパ1,389人)で公演。ここはけっこう歴史があるライブハウス、というか劇場のようで著名なアーティストが多く公演しています。2014年だと1stがリリースされた時ですがフランスではチャートインせず。それでもこれだけのキャパの公演が打てたのはYouTube等でバズっていたんですかね。大入り満員だった様子。
7/3にはドイツのライブミュージックホールで公演。こちらはキャパ1500人。こちらも当日の様子を映像で見ると大入り満員だったように見えます。なかなか凄いですね。ライブミュージックホールでやるアーティストはどの規模かというと、公式サイトのスケジュールを見ると、The DarknessとかFrank Carter & The Rattlesnakesとかが公演している様子。1500人は日本で言えば赤坂Blitz(1418人)ぐらいの規模。
そして、7/5にはUKのロック/メタルフェス、ソニスフィア2014に出演。6万人を動員する大規模フェスですが、この中ではどのような扱いだったでしょうか。
告知ポスターには土曜日のメインステージに名前が。Ghostの下、Tesseractと同列です。こういうフェスで「どこに、どの程度の大きさで名前が載るか」というのは欧米メタルシーンにおける格付けを表すのでメタル史に位置づけるうえで重要な手がかりなのです。メインステージは凄いですね。この日の様子は日本からライブに参加された方のブログがありました。メインステージ(アポロステージ)の2組目だった様子。
上記のブログによると「BABYMETALは当初小規模なBOHEMIA STAGEに出演予定でしたが、発表後の反響の大きさから主催者によって急遽メインステージに変更されたのです」とのこと。確かに、フランスとドイツでそれぞれ1000人以上の会場を埋められるならメインステージへの抜擢も納得です。Anthraxの上のFrank Turnerは初めて聞いた名前ですがUKで人気があるアーティストのようですね。UKのメタル系フェスは国内で人気があるロックアーティストがメインステージに入ってくるのが特徴(Dowload FestivalもBiffy ClyroがKISSやIRON MAIDENと並んでトリを務めたりする)。いずれにせよ、メインステージ2組目、というのは中堅クラスのメタルバンド、として扱われています。
そして7/7にはUK、ザ・フォーラム(キャパ2,300人)でワンマンライブ。この様子は映像化もされていますが、ほぼ満席だった模様。ここは今は映画館になっている(もともと映画館だったものをコンサート会場に変えていたが、最近ライブがなくなったので映画館に戻った)様子ですが、2,300人キャパはかなり大きめ、Zepp Tokyoより少し小さいぐらいです。
そして7月後半からはUSツアーに。ロサンゼルスのフォンダシアター(キャパ1,200人)でワンマンライブを行った後、なんとLady Gagaのツアーにサポートアクトとして同行。共に会場を5か所回ります。動員数がwikiにあり、1か所入場数が不明ですがだいたい累計で4万~5万人の観客にライブを披露したと思われます。こういうメタル畑ではないアーティストとも共演できるのは強みですね。「レディーガガの前座」は「アイドル史」の視点の方がしっくりくる出来事ですが、それにしても「USのトップアイドルのUSツアーの前座に日本のアイドルが起用された」のは歴史に残る出来事でしょう。
そのまま8/9にはカナダ、モントリオールのフェス「HEAVY MONTRÉAL」に出演。セカンドステージのトップバッターを務めます。
同じステージに上がったバンドを見るとThe OffspringやPennywise、Voivodなど。ややメロコア、ハードコア寄りのステージ? サウンド的にはミクスチャー、メタルコア系のくくりに入れられているのでしょうか。とはいえ、カナダのフェスでもそれなりの場所にランクされていることが分かります。
そして同年11月には再びUS、UKのライブを敢行。11/4にUSのハマースタイン・ボールルーム(キャパ3,500人)、11/8はUKのO2アカデミー・ブリクストン(キャパ4,921人)と、7月時点より一回り大きい会場に移動しています。ブリクストンはロンドンにある非アリーナでは最大の会場。
写真を見ると大入り満員ですね。凄い動員力。なお、偶然ですがTriviumの2023のツアーでもUK、ロンドン公演ではブリクストンアカデミーが会場として予定されています。こうしてみるとツアー動員的にも2014年のベビーメタルと2021年現在のTriviumはだいたい同規模の会場でやっているようです(ツアー本数の差はあるので、動員数全体ではTriviumの方が多いと思われますが)。
2014年はこのように飛躍の年、一気にメタル界の中堅バンドとして彗星のように現れた年でした。世界中、メタル界すべてを見回してみても2014年、いきなりここまでビッグになったメタルアーティストは他にいません。フェスで、同じステージに上がっている他のアーティストはヘッドライナーは80年代デビュー組で、そのほかも90年代、00年代前半デビュー組ばかり。2010年代の超新星ですね。
ここからライブ史を全部追っているとかなり長くなるので、2015年以降はちょっと端折っていきます。大型フェスの扱いと、ワンマンツアーはだいたいのキャパと本数のみ。
2015年5月16日。US、オハイオ州にて開催された「Rock On The Range 2015」に出演。
2015年5月29日 ドイツ、ミュンヘンでROCKAVARIAに出演。
2015年5月30日 そのままドイツの別のフェスRock im Revierに参加。
2015年6月6日 オーストリア、ウィーンのRock In Viennaに出演。
2015年6月12日にはDownload UKのドランゴンフォースのステージにシークレットゲスト参加したようですが、シークレットなので割愛。
2015年8月29日、30日にはUKのReading & Leeds Festivalsに出演。29がレディングで30がリーズ。
ステージ順は1番最初ですね。短めのステージ。だからスペシャルゲスト扱いなのか。これ、ブッキングが決まった後に急遽追加した、とかそういう感じでしょうか。
2015年のフェスは以上。海外ワンマンは8本行っており、キャパはだいだい1000~2000ぐらい。メキシコ、スイス、イタリア、などが初公演です。USは単独公演は1本のみ。全体的に欧州に力を入れていた年に感じます。ただ、超新星として現れた2014年の評価を各種フェスに出ることで地固めした1年、と言えるでしょうか。
あけて2016年、ここで一大イベントが起きます。2016年4月2日、ロンドンのウェンブリーアリーナで公演。ウェンブリーのキャパは12,500だそうですが、12,000の動員。ほぼ満席です。
海外のwikiだとツアーの入り/キャパが一覧化されていて便利なんですよね。こういうのを調べるサイトがあって、チケットの売れ行きも載っています。ただ、全部ではないので一部だけ。ウェンブリーは載っていて、12,000/12,500とあります。こうしてみているとたぶんUK、ロンドンは一番Babymetalの(1公演当たりの)動員が多い都市(もともとブリクストンアカデミーで5000人近く集められた)ではありますが、12,000人は快挙。日本人アーティストとして初のワンマン公演を成し遂げます。この様子は映像化もされていますが、大入り満員。大盛り上がり。
これは凄い。UKではメタルバンドとしてはトップレベルの集客を成し遂げます。日本で言えば武道館公演(キャパ最大14,471人)と同じようなイメージでしょうか。ライブハウスアーティストからアリーナアーティストへの飛躍。これがワンマンライブとしては(現時点までの)一つの頂点です。
その余勢を駆ってUSツアーへ、この年はUS制覇に力を入れていますね。5月8本、うち2本がフェス、他1500~2500人程度の会場(ライブハウス、シアター)でのワンマン。
2016年5月8日 ノースカロライナ州のCarolina Rebellionに出演。
2016年5月14日には同じくUSウィスコンシン州でのNORTHERN INVASIONに出演。
そのまま6月はヨーロッパツアーへ。この当時まだ10代なのになかなかハードですね。「夜何時以降労働させちゃいけない(ライブも出れない)」みたいな制約が(国によって)まだこの頃はあった、はず。考えてみればこの時高校生か。凄いな。
2016年6月3日には2015年も出たオーストリアのRock In Viennaに出演。
2016年6月5日にはオランダのFortaRock Festivalに出演。
そして2016年6月10日、Download Festival(旧Monsters Of Rock)に出演。
Babymetalは3組目、キルスウィッチエンゲージの前ですね。この年にウェンブリー単独公演を成功させたアーティストにしてはやや小さめの扱い、かも。
続く2016年6月11日は同じフェスのフランス編、Download Festival Parisに出場。
ここからUSツアーに戻り、3回のワンマンライブをライブハウス(1500~2500人規模)で行った後、2016年7月17日にChicago Open Airに出演。
そして、2016年12月からはレッドホットチリペッパーズのUK公演のサポートアクトとして5公演に参加。それぞれ1~2万人の観客の前でプレイしています。
2016年~2017年にかけては、大物アーティストのサポートアクトを多く行っていますね。レッチリを皮切りに、メタリカ(ソウル公演1公演のみ)、ガンズ(日本公演ですが)、再びレッチリ(US10公演)、コーン(5公演)を行っています。こうした大物とのコラボで話題性が上がったのか、2017年6月16日にはUS、ロサンゼルスのHollywood Palladium(キャパ4,000人)で単独公演。だいたいUSツアーは1500~2500ぐらいの規模のところが多かったので、4000規模は初ですね。USでも集客力が上がっていると思われます。
すでに十分「中堅メタルバンドとしての地位」をセールスのみならず各種ライブフェスの扱い、ワンマンライブの動員を通じて(2010年代デビューのバンドとしては驚くべき速さで)確立したBabymetalですが、このままの成長速度を持続させ、「それ以上の規模」になっているのでしょうか。2020年、社会状況が大きく変わってしまう前、2019年~2020年3月までの海外の活動を見てみましょう。3rdアルバムMetal Galaxy(2018)が世界中のチャートに入る前後の時期です。
2019年6月30日、UKのグラストンベリーフェスティバルに出演。これはUKのフジロックというか、由緒あるロックフェスです。2015年に出場したレディングフェスティバルと同様、メタルフェスではなくロックフェス。なので幅広いジャンルのアーティストが出ます。
Other Stage、おそらく2番目に大きいステージにブリングミーザホライゾンの前に出演。ビリーアイリッシュやDave(UKのラッパー)と同じステージですね。コンセプトは何なのだろう。オルタナでちょっとダークな感じ? 音楽的にはけっこう雑多ですね。
2019年8月4日にはSuper Slippaという台湾のイベントに。これはアイドルユニットとしての流れですかね。DA PUMPとかflupoolに混じって出演。「そういえばアミューズ所属アーティストなんだよなぁ」と感じる珍しいブッキング。
9月からはUSツアー。2000人規模ぐらいのライブハウスを20か所回ります。ゲストは前16回がスウェーデンのAvator、最後2回がモンゴルのThe Hu。間に1つフェスを挟んでいて、2019年10月13日にカリフォルニア州サクラメントでAftershock Festivalに出場しています。
フェス出演はこれが最後ですね。2019年、USで20か所もライブをやったのがMetal GalaxyのUSでのセールス上昇につながった気がします。
2020年は2月~3月にかけて欧州ツアーで17か所をサーキット、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ロシアも回っています。規模はだいたい2000人ぐらいのハコ。今まで手薄だった北欧圏などにも足を延ばしている、裏を返せばそうした国々でも1000人以上のハコで集客できるほどのファンベースができていることが分かります。
結論:2010年代デビュー組としては、ワンマンの集客面でもフェスの扱いでもトップレベルのバンドとして実績を出している。
2000人規模のライブハウス/シアターはほぼワンマン可能、グローバルで活躍する中堅メタルバンドとしての地位を確立しています。フェスではセカンドステージのトリから3番手かサブヘッドライナークラス、メインステージにも出ることもあります。2010年代デビュー組では他にいないので存在感は強い。ただ、2014年のデビュー以降、そのまま上り詰めてはいません。ヘッドライナーが80年代組、一部90年代組で、セカンドステージのヘッドライナーは90年代~00年代デビュー組の牙城は崩せず。ワンマンもなかなか2000人台から上がってはいません。その代わり、ツアーの本数を増やし、「2000人規模の会場を埋められる」都市が増えているのは確か。USは広いのでUSだけで20本のツアーができるようになったし、北欧やロシアにも進出しています。着実にツアー全体の動員数は増えている。順調な活動だったと言えるでしょう。
これからの可能性
Babymetal自体は現在実質的に活動休止中。活動を改めて振り返ってみると「ライブ活動を中心にファンベースを増やしてきた」バンドなんですよね。特に海外ではそう。2013年~2014年こそ一時的なバズっぽさもあったものの、その後は大物(レッチリ、メタリカ、コーン)のサポートアクトからスタートし、ライブハウス/シアタークラスの会場を地道にサーキットしてきて、リリースとツアーを重ねながら公演・地区を増やして総動員数を増やしてきた。メタルバンドの王道の成長過程です。この過程で消えていくバンドも多々ありますが、少なくとも2020年までは順調に推移していた。国内の「アイドルシーンでの」ブームはやや沈静化したようにも思えますが、メタルバンドとしてはグローバルでは着実に成長していました。
メタルメディアからの評価も高く、Louderの選ぶ「2010年代ベストアルバム50」では7位に「Metal Resistance」がランクイン。Loudwireの選ぶ「2010年代のベストアルバム66」でも41位に「Babymetal」がランクイン。コアなメタル界からもしっかりと受け入れられています。むしろ、海外の方がきちんと「ニューコア、ニューメタルコア」の1形態として音楽的に評価し、受け入れていると言えるかもしれません。すでに「Kawaii Metal」というサブジャンルとして定義され、Wikiもできています。
ただ、バズだったりTVのオーディション番組やSNSなどをあまり使わず、ライブ中心でファンベースを増やしてきたBabymetalにとって2020年からのコロナ禍は多大な影響を与えたと思われます。2021年はベストアルバムを出しましたが海外ではまったくチャートインせず、実質的に活動休止状態に。所属事務所であるAmuseの株主説明会資料からも2022年の見通しから名前が消えています。音楽、イベント業界が丸ごと冷え込む中で、収益の見通しが立たない状態ではなかなか厳しいものがあるのでしょう。おそらく、アミューズの中では話題性はあるものの収益性はそれほど高くないアーティストだったと思われるし(海外ツアーは経費のわりに小規模なのでそれほど利益はでないでしょう)、活動計画が宙に浮いてしまっているのかもしれません。
ただ、改めて(日本出身というひいき目を持たず)メタル界全体として見ても2010年代に出てきたメタルバンドでトップレベルの売り上げを誇り、このままの規模で活動を続けていけば10年後には大規模フェスのセカンドヘッドライナークラス、中規模フェスならヘッドライナーになれるポテンシャルを秘めていると思います。同時に、「アイドル史」からは消えていくでしょう。現在の活動のバランスを推測するに、収支的には日本の「アイドル的活動」で利益を得て、それで海外の「メタル市場=メタル史」に食い込んでいく、という構造だったんじゃないかと推測。そして、海外のメタル史に食い込むことで「伝説のバンド」として逆輸入して日本市場でも特異な位置を築く、というサイクルが機能していたのが、2020年から止まってしまった。「メタル史」だけで言えばまだまだ中堅なので、ここまで巨大な活動規模(武道館10公演とかドーム公演とか)はできない。それはやはり「アイドル史」にも存在するが故の特異性です。メタル史(市場)だけで見れば最初に書いたように、TriviumやMastodon、Behemothとかの規模なんですよ。(音楽的評価は別にして)動員にせよセールスにせよ強固なファンベースはあるけれど、まだまだ「社会的現象」ではなく収益事業としての規模は小さい。けれど、そうした00年代、90年代デビューの中堅組に並ぶところまで短期間、3枚のアルバムでたどり着いた、というのは、メタル界における快挙だと思います。
国内では商業的に大仕掛けであった分、なかなか身動きが取れなくなった気もしますが、次の展開があると信じたい。少なくとも、メタル史においては「2010年代に現れた、ヘッドライナーに成長しうる可能性がある稀有なアーティスト」がBabymetalです。
結論:BabymetalはHypeじゃなく、本当に「2010年代を代表するメタルアクト」だった。
いわゆるハイプ(過剰広告)が多いじゃないですか、コンテンツ業界って。「全米が泣いた」とか、「いや別にそれそこまで大ヒットしてないし」みたいな。ただ、Babymetalの場合は少なくともメタル史、2010年代のメタル界においては超新星であり、かなり速い速度でスターダムを駆け上がったのは事実だろう、と言えます。
「BabymetalはPoserか?」というタイトルを思いついて、「きちんとBabymetalの海外の評価を調べてみよう」と思い立って書き始めた記事ですが、予想外に長くなりました。「なんとなく知っていた」ことがきちんと事実の裏付けを理解できてよかったです。「Babymetalって海外で実際はどれぐらいの評価なの?」という疑問を持つ方が、メタル界から見たBabymetalの現時点の立ち位置をつかむ一助になれば幸いです。
あ、(ほぼネタではありますが)最初の問いに対しては「Poserと言われても、続けていれば認められる」ですかね。継続は力なり。あれほど(コアなメタラーから)賛否両論が出たMetallicaのブラックアルバムだって30年たてばクラシックロックの名盤ですからね。1st Babymetalも30年後は名盤になるポテンシャルは十分あります。その時「名盤を残して消えたバンド」なのか、「伝説のバンドの原点」と言われるのか。バンドが消えても作品は生き残りますけれど、できればバンドも生き続けて新たな伝説を作ってほしいなぁ。
それでは良いミュージックライフを。
おまけ
本文には書かなかったけれど「Amuse所属ってどうなんだろう」という疑問はあります。本文に書いたように「アイドル史」と「メタル史」の両方に存在することが特異性なのですが、「メタル史」から見たときに、まったくメタル色のないレーベル(というか芸能事務所)に所属しているのはプラスなのか、マイナスなのか。外部(一緒に仕事をする業界関係者、特に海外プロモーターやディストリビューターなど)からはどう見られて、内部ではどのように扱われているのだろう。
まず、事実として外部からはあまり悪影響がないようです。日本人としては破格の成功を海外で収めていますから、前例がないんですね。「一番実績を出している」のだから、悪いわけがない。Babymetalの国内流通はトイズファクトリーですね。トイズはメタル系のノウハウは持っている。海外流通はどこがやっているんだろう。Discogで見てみます。
これを見るとBMD Fox Recordというトイズ内のBabymetal専門レーベルから出しています。海外配給はLoudnessなどの海外配給も行っているEAR Music(ハードロック、オルタナ系に強いドイツのレーベル)から出ています。
トイズとAmuse(+Ear)のタッグであれば海外流通とかプロモートは十分パイプがあるんでしょうね。だからこれだけフェスにブッキングもできたのだろうし、主要国だけでなく北欧やロシアなど、「メタル市場がある場所」にどんどん進出していく、現地のハコを抑えられるネットワークを持っているのでしょう。この辺りは財務・法務なども含めた組織力、ノウハウの力。
且つ、Amuseはサザン(桑田佳祐はKuwata Bandで海外を狙った)やperfumeを抱えていますから、海外での活動を持続可能なビジネスモデルにするノウハウも一定以上の蓄積があるのでしょう。だから、Babymetalは着実な戦略を採り、うまくいっていた。すると、メタル史において名を成すにあたり、「Amuse所属」は少なくとも今まではプラスに働いていたと思われます。また「アイドル史」というか、日本の音楽界においてこれだけの規模で活動できたのはAmuseの実績と関係値が各会場やメディア、流通などとパイプを作っていたからでしょう。
余談ですが、Twitterかなぁ、「Amuseの株主総会に出て、YUI-METALの近況を聴いてきました」みたいなファンの書き込みがあったんですよね。上場企業だからできる技。サンクチュアリに行って「ポールディアノの近況を聴いてきました」みたいな話聞かないですもん(あったのかもしれないけれど)。しかも1ファンじゃなく、株主として。これはちょっと面白かったエピソード。
※1 ビートルズやディープパープルは「クラシック音楽史」には名前を残さないでしょうが、、、いや、考えてみれば100年後はビートルズも「クラシック」になっているかもしれないなぁ。
※2 ちょっと分かりづらいですが、ベルギーはオランダ語圏のフランダース地方とフランス語圏のワロン地方の2つのチャートがあるんですね。ここでは「フランダース地方(オランダ語圏)」の50位以内にチャートイン。
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