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88.激情とけだるさの間で~ポストハードコアとポップラップ~:春ねむり

日本人のヒップホップ・ポストハードコアアーティストの「春ねむり」の新譜「春火燎原(しゅんかりょうげん)」が素晴らしい出来です。最初は「ああ、こういう感じか」と思って聞いていたら意表を突かれるというか、全体として「この手があったか」という特異性。

なお、上記のPVで踊っているのは女優の石川瑠華。本人ではありません。

音楽的には水曜日のカンパネラ大森靖子を連想しました。ステージングは本人+DJ(ラップトップ操作)または本人だけ、というのが水曜日のカンパネラ(コムアイ)っぽいし、激情の表現や現代舞踏っぽい動きは大森靖子に通じるものを感じます。ただ、彼女の音楽を特異なものにしているのはそこにポストハードコア的なスクリームや表現が乗ること。この差しはさみ方が絶妙です。彼女本人の作家性がよく分かるライブ映像がこちら。

ヒップホップ的なけだるさと、ハードコア的な激情のバランスがものすごく好みです。けだるすぎず、叫びすぎず、低温ではないけれど熱狂してもいない、というか。緩急がダイナミックで聞いていてハッと耳を惹かれる。

2016年デビュー、ディスコグラフィは下記の通り。

2016:1stミニアルバム『さよなら、ユースフォビア
2017:2ndミニアルバム『アトム・ハート・マザー
2018:1stフルアルバム『春と修羅
2020:3rdミニアルバム『LOVETHEISM
2022:2ndフルアルバム『春火燎原

ざっと聞いた感じだと2018の「春と修羅」からポストハードコア的な表現が取り込まれ音楽に独自性が強まっています。その後、2020の「LOVETHEISM」ではエレクトロ的な表現力が向上。水曜日のカンパネラってネタの面白さやコムアイのキャラクターもありましたけれど、クラブミュージックとしての面白さ、完成度も高かった。それに近い「電子音楽としての強度」が上がっています。その二つの要素、「ポストハードコア+電子音楽」を融合させ、本人のキャラクターで一つの世界を作り上げたのが「春火燎原」だと感じました。明らかに完成度が上がっています。

米国で評価され、評価が厳しいことで知られるRYM(Rate Your Music)で「春と修羅」は3.68(執筆現在)を獲得。投票数も7000近くと邦楽としては破格の評価。betcover!とかもそうですが、こういうのをどうやって見つけるんでしょうね。アンテナ凄い。

「春火燎原」はまだリリースされたばかりなので評価が少ないですが、すでに前作越えの評価を得そうな勢い。RYMの2022年ベストに入るかもしれませんね。個人的にはこうした新世代でハードコア的な要素も持ったアーティストとしてbetcover!Not WonkGEZANを現在の邦楽シーンでは注目しているのですがそれに並んだ要注目のアーティスト。ぜひ、アルバムで聞いてみてください。


ここからは人力レコメンド。断片的に、春ねむりから連想したアーティストをつなげていきましょう。まずは名前を出した水曜日のカンパネラ。この頃の水カンに近いものを感じる。


大森靖子、全身を使った激情の身体表現には近しいものを感じます。アーティストとして似たような進化を遂げている気もする。


だいぶ時代は違いますが、なんとなくシンセのフレーズの使い方にはヤプーズ(戸川純)、「赤い戦車」の系譜を感じたり。こうした「激情系のボーカルを電子音楽に乗せる」という試みの初期の傑作だからでしょうか。


後は、ヒップホップも取り込んだハードコアサウンドだと花冷え。も想起します。まぁ、花冷え。はもっとゴリゴリ路線なのとあくまで「バンドサウンド」なのでちょっと毛色は違いますが。



アルバムレコメンド。


それでは良いミュージックライフを。


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