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80.YouTube音楽チャートで旅する世界の音楽 / 日本から東欧へ

YouTube Musicには「各国別のチャート」を見る機能があります。調査時点(2021.05.17)で57か国。今日はその中から、非英語圏に絞って10か国を見ていきましょう。

まずは非英語圏最大の音楽市場、日本。

Ado / 踊 ★★★☆

Ado(アド)はボカロや「歌ってみた」の文化から出てきたシンガーです。2002年生まれで2016年からweb上での活動を開始。2020年にリリースした「うっせぇわ」がいきなり大ヒットしてビルボードジャパン1位獲得、MVも1億回再生を突破。こちらの曲は2021年4月27日にリリースされた4曲目のシングルです。

ジャパニメーションというか、スプラトゥーンのようなちょっとアメコミ的なビジュアル(イラスト)、音楽的にはこの曲はかなりK-POP的。言葉の意味を聞かなければK-POP的なダンサブルな曲。サビはJ-POP的というかコード進行、メロディ進行が日本市場向けですね。かなりダンサブルでプロフェッショナルな歌唱。ブレイクダウンでテンポが落ちるところや声をしゃくり上げるところがK-POP的なのかな、ところどころ声をゆがませるのはJ-Rock的な荒々しさがあって〇。日本人って歪みが好きらしいんですよね、国民性的に。後半になるにつれて歌唱に歪み要素が増えてくる。この辺りは日本のロック系ボーカリストが得意とするところ。

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次いで、こちらも大市場に成長、海外への展開が著しい韓国。

MC Sniper/ BK LOVE ★★☆

MS Sniper(엠씨 스나이퍼)は2000年代初頭から活動するラッパー。2004年に1stアルバムをリリースし、日本盤も多く出ています。こちらは2002年にリリースされた代表曲「BK Love」をリニューアルしたバージョンのよう。5月11日にリメイクアルバムを出したようなのでそこからのシングルですね。ゲストはユリ(유리)で、アイドルグループ「少女時代」のメンバー。以前もこの曲をコラボしたことがある様子。

曲はメロウでオーソドックスなヒップホップ。長尺の弦楽器のフレーズが流れる上でややメロディアスなラップが流れていく。映像的にはかなりシンプル、日本のFirst Takeのフォーマットに近いですが、背景色が虹色にだんだんと変化していきます。女声ボーカルの歌い方は歌謡曲的。ただ、ヴィブラートはほとんどなし。リズムトラックは一定。かなりシンプルなトラックとパフォーマンスだが、生々しさはあります。女声は顔こそやや苦し気な表情を浮かべていますが発声そのものは軽々と出しているというか、あまり歪みやふり絞るような箇所は少なく、余裕を持ってコントロールしている印象です。ややオールドスクールな「ヒットするヒップホップ」という印象。2002年の曲と言われれば納得。

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以前、韓国から南下していき、アジア音楽を紹介したことがありましたが、今回は北に行きましょう。ロシア。

Sultan Laguchev (Султан Лагучев) / Горький вкус ★★★

Sultan Laguchev (Султан Лагучев)(スルタン・ラグチェフ)はロシアのアーティスト。1995年生まれで父親がアバザ人、母親が(トルコ系の)カラチャイ人。2019年、2020年にミニアルバムをリリースし、こちらは2021年のシングル。アバザ語は話者が5万人以下の少数言語ですが、多数の曲をアバザ語で歌うなど「アバザ人」としてのアイデンティティが強い様子。2012年にアバザ音楽祭で3位に入ったのが音楽キャリアのスタートのようです。この曲はロシア語。「Горький вкус」は「苦味」という意味。

ベースの音が変わりました、ややハードな音、ちょっとロシアンハードコア的な存在感のあるベース音。キックが強い。もちろん、アンダーグラウンドなアーティスト群に比べればだいぶまろやかですが、ベースのアタックが強いのがロシアのトレンドなのかもしれません。演じている女優の唇が大きいですね、色合いも独特で印象に残る。Rolling Stonesのロゴみたい。各国でメイクやファッションのトレンドも違うのでしょう。ロシアは広いのでトレンドも地域によって違いそうですが。歌メロ的にはちょっと中央アジアに近いものを感じます。トルコあたりから独特の節回しを失くした印象。メロディセンスやコード進行は共通項があるかも。

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そして東欧へ。まずはロシアのお隣、ウクライナ。

LOBODA / Родной ★★★☆

Svetlana Loboda(Світлана Лобода);スヴィトラナ・ロボタはウクライナ出身で1982年生まれ、2000年から活躍する女優、テレビ司会者、歌手、作曲家です。ヨーロッパ全体の紅白歌合戦というか、国対抗歌謡祭と言えるユーロビジョンコンテストに2009年のウクライナ代表として出場。Nu Virgos(ニュー・ヴィルゴス)またはVIA Gra(バイア・グラ)として知られるガールズグループに2004年に参加し(同年9月には脱退)、メンバーの一員として来日もしています。ウクライナ大統領から与えられる名誉賞である「ウクライナの名誉ある音楽家」を2013年に受賞、人気・評価と共にウクライナの国民的歌手です。

さすが女優だけあってMVがドラマ仕立て、映像の物語性が違います。映像表現が凝っています。音楽的にはちょっとフレンチポップスにも近いところがありますね。言語の発音かもしれませんが。サビになると印象が変わりましたがヴァースは吐息が強め。間奏になるとゆったりとしたリズムにシンセのメロディ、こういう抒情性はこの辺りの地域性かも。マイナー調で攻めてきます。リズムはかなりシンプルな4つ打ち。こういう非英語圏のポップスはあまりリズムへのこだわりを感じないというか、シンプルなリズムの曲も多い気がします。前にトルコのヒット曲をいろいろ聞いて行った時もそれほどリズムは凝った印象を受けませんでした。もちろん、すごく複雑なことをしているアーティストはいるんですが、ヒット曲全体の兆候として。リズムよりメロディに凝っている印象です。

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このまま東欧を巡っていきましょう。ルーマニア。

Costel Biju / Am platit sa-mi duc regina ★★☆

Costel Biju(コステル・ビジュ)はルーマニアの歌手、プロデューサーのようです。ほとんど情報がありません。FacebookやTiktokはありますが、バイオグラフィーやWikiが見当たらず。Facebookを見ると2012年から活動しているようです。SNSから出てきたインフルエンサー、という可能性もありますね。YouTubeや他の媒体で人気を得て音楽活動でもスターとして活動するアーティストが世界中で一定数生まれています。TVのスター発掘番組出身者と、純粋なインフルエンサーと、いずれにせよ動画やパフォーマンスからスタートして、歌手活動に領域を拡げるスターが多い印象。そういった系統のアーティストなのかもしれません。

けっこう強烈な節回しですね。北アフリカ、アラブ圏的。この人自身が移民なのかもしれません。出てくる女性はアメリカのウーマンパワー的なメイクですね。ただ、そこまでパワフルなパフォーマンスはなし。あくまで曲のイメージを引き立てるだけの役回りのようです。けっこうトラックはシンプルですね、歌の力で引っ張る曲。声の魅力はあります。

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ルーマニアから北へ、ハンガリー。

BSW - MOKAMBO GANG (km. T. Danny, Lmen Prala) ★☆

BSW(Beer See Walk)はハンガリーのアーティスト。こちらもほとんど情報がありません。公式サイトはありましたがショップだけで、バイオはFacebookへのリンクでイベント告知などが主。Hungary Musicのwikiにも出てこないし、最近人気の出てきた若手グループ、といった立ち位置のようです。でもYouTubeは11年前から投稿しているから、もしかしたらYouTubeが主戦場のアーティストなのでしょうか(日本だとCandyFoxxのようなイメージ)。そういうアーティストはSNS上の情報はありますが、それ以外のメディアではあまり情報が出てこない印象も受けます。

ヒップホップですね、ちょっとギャングっぽいイメージなのかな、さわやかボーイズグループというよりはちょっと不良、日本で言えばチーマー的な雰囲気を感じます。きっちりメイクも決めていてルックスだけならアイドルグループ的ですが、レザーで決めています。ちょっとMVに手作り感があるのがいいですね。高級車を壊し始めた。そういえば日本のヒップホップでも車を燃やしたMVがあったような。ラップそのものはギャングスタラップのような技巧性はなく、オーソドックスでプリミティブなラップという印象。曲名が「モカンボギャング」とあるので、何か社会派の歌詞なのか、単に「俺は強いんだぜ」的な歌詞なのか。映像からそこまで深いものは感じないのでシンプルな内容なのでしょう。そういえばBSWで検索すると車関連の検索結果がたくさん出てきます。何かのパロディなのでしょうか。

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ハンガリーのお隣、チェコへ。

Raego feat. Lucie Vondráčková / Potřebuju pauzu ★★★☆

Raegoは1988年生まれのチェコのアーティスト。ベトナム人エンジニアとチェコ人ビジネスマンのハーフとして生まれ、奨学金をもらってアメリカに留学し、帰国後はしばらく小学校教師をしていたそう。2006年にデビューし、2011年にはチェコNo1ヒットを生み出します。チェコでは人気がある歌手の様子。この曲のゲストLucie Vondráčkováはチェコで人気の女優、歌手とのこと。1980年生まれで9歳の時から子役として活躍。現在は主にカナダで、英語作品の映画に多く出演しているようです。

こちらはプロフェッショナルなアーティストですね、作曲能力、歌唱力共に一つ上のものを感じます。映像も説得力がある。やはり女優だけあって存在感がある。男性ボーカルも人生を感じさせるいいルックスです。声もいいですね。映像のストーリーそのものはけっこうベタですが。カップルが色々あって不倫して喧嘩して仲直りしてみたいな。

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チェコの北、ポーランド。

Sobel / Fiołkowe pole ★★☆

Sobelはポーランドのアーティストです。YouTubeの音楽ランキング1位はここまですべて自国のアーティストですね。こちらもあまり情報がないアーティスト、ただ、何曲もYouTubeでヒット曲があるようです。だいたい、自分のwebサイトを持っていないんですよね。facebookとinstagramしか持っていない。ニュースと日常風景だけをアップロードしています。どこかにインタビューとかはあるのでしょうが、英語圏では見つけられず。

サムネからは想像を裏切るアコースティックな音像、ただ、歌い方は投げやりというかややパンキッシュ。ポーランドといえば東欧ブラックメタルの印象があるのですが(かなり偏っている)、映像はダークといえばダークですね。曲調はマイナー調ながら歌い方がそこまでなよなよしていない、内省的な部分はあるにせよけっこうまっすぐ歌っています。MVの最後のロゴで気が付きましたがデフジャム(ポーランド)なのか。

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さらに北へ、バルト3国の1国、エストニア。

Hellad Velled / Noorus ★★★★

Hellad Velledはエストニアのバンドです。2003年から活動しており、メンバーはMärt Loddes – ギター・ボーカル・マネージャー、Mart Peedo – ボーカル、Runno "John" Tamra – キーボード・ボーカルの3人組。エストニアのランキングがあるのは少し驚きました。マニアック。こちらはエストニアのチャートで1位でしたが再生回数6.6万回なんですよね。「その週の国内再生回数No.1」が基準だとどこかで見た記憶がありますが、けっこう少な目。他の国はだいたい100万再生以上あったので、一番マニアックですね。ただ、昔から活動している人気のあるバンドの様子。純粋に再生回数だけで見ているわけではなく、上昇率や閲覧時間(離脱率)なども見ているのかもしれません。

2003年から活動している割には若いルックス、、、と思いましたが本人ではないのでしょう。明らかにティーネイジャーだし。独特の音世界ですね。ロシア的なベースとキックの音を持ちつつ、北欧的なメロディ、マジカルなメロディを持っています。いい曲ですね。耳に残ります。シンプルでそれほど凝っていないアレンジですが、メロディときちんと絡み合っている。「恋のマイアヒ」を少し思い出しました。今回一番気に入った曲。

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最後は海を渡ってフィンランドへ。なお、フィンランドって「西側諸国」でも「東側諸国」でもなかったんですよね。これは第二次大戦の敗戦国だったことに由来。共産主義ではなかったものの政治的にはソ連の影響が強い国でした。そもそも、「北欧神話」と呼ばれるものもフィンランドは共有していない、別の神話を持っています。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの中でフィンランドは独特の文化を持っています。今回、ロシア・東欧といった旧共産圏を中心に巡ってきましたが、最後はフィンランドで締めましょう。

Portion Boys / Kyläbaari ★★★☆

Portion Boys(ポーション・ボーイズ)はYouTubeで2010年から活動しているバンドです。こういうバンドが世界的に増えているのかもしれませんね。アルバムやシングルのフィジカルリリースはなし、YouTube上をメインとして新曲を発表する。特にYouTubeランキングなので、各国単位で見ていくとこういうバンド、アーティストが予想以上に多くて驚きました。

音楽的にはディスコサウンド、こういうのがやはりフィンランドのブームなのでしょうか。Beast In Blackもこんなサウンドを取り入れていましたし。心に馴染む北欧、というかフィンランドメロディ。なんだかLordi感もありますね。ただ、ややプロダクションが弱め、声が迫ってきません。ビデオももうちょっと凝ってほしい。こういうメロディは好みなんですけれど、編曲とパフォーマンスが惜しい感じですね。これ、歌詞の内容は「(自粛でダメージを受けている)地元の酒場を応援しよう」みたいな歌なのかな。そのテーマはいいですね。このメロディや音像にそのテーマを乗せているのだとしたら、メッセージの伝え方が上手い。

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以上、10曲見てきました。今回思ったのは「やはり日本の音楽シーンってレベル高いんだな」ということ。リズムとメロディの絡み合い方のレベルが高い。もちろん、YouTubeのヒットリストなので瞬間風速的なものだし、その国の音楽シーンを代表するものではありませんが、YouTubeユーザーが好む音像、というものはある程度表しているのでしょう。あと、ロシアのベースサウンドはやっぱり特徴がありますね。

全体的に、今回はマイナー調の曲が多い印象でした。今回、「このバンドをもっと聞いてみたい」と思ったのはRaegoSobelHellad Velledかな。普段、自分で探していると絶対辿り着かないアーティストが多かったですね。またやってみたいと思います。

それでは良いミュージックライフを。

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