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FOX_FESTで思ったこと「モッシュピットの歴史」

少し前ですがFOX_FESTに行ってきました。フェスのレポートは下記の記事が素晴らしかったので僕自身の感想は割愛。

代わりに、ちょっと「思ったこと」を書こうと思います。

今回、モッシュシート席(2回のシートありチケット)を取ったんですよね。確かラウドパークにも「座席つきチケット」ってあったような気がしますが、「座席側」を取るのは初めて。フェスって6時間とか7時間立ちっぱなしだからけっこう腰に来るんですよね。

自席からの客入りの様子
開演前、客入り8割ぐらい

で、ここからちょっと客観的にライブを観ました。結論から言えば

「やっぱりスタンディングの方がよかったなぁ」と反省。

やっぱり、臨場感が欠けるんですよね。特に今回はグルーヴ系のライブが多かったから動けないとなんだかノリ切れない。

ただ、シート席にいる他の人たちを見ると「ああ、こういう人たちもBabymetal聞いてるのか」という発見はありました。一言で言えば「J-POPファン」とでもいえそうな人たちがたくさん。要は「メタラー」でも「アイドルファン」でもない人たち、というか。サザンのライブに行ったときと同じような客層を感じました。別にアミューズ繋がりでサザンを連想したわけじゃなく、僕がいわゆる「人気のJ-POPライブ」ってここ数年ではサザンぐらいしか行ったことがないからですが。

・老若男女いる
・基本的にすごく明るく楽しそう(祭り、イベントに来てる感じ)
・メインアーティストのアーティストグッズを着ている人が多い
  →逆に、出演者以外のTシャツは稀
   メタルライブだと「違うアーティスト」のTシャツを
   あえて着る人がいますが、そういう文化はなし
・みんな大人で紳士的(サザンライブに近い)
・ライブへの参加意識が高い(アーティストの煽りに素直に反応)

みたいな。そうかぁ、BabymetalってJ-POP好きな層に波及してるんだよなぁと思いました。そりゃあ普通にヒットアーティストですからそうですよね。

参加した人々
参加した人々2

さて、アリーナ席でぐるぐるモッシュピットが出来ているのを見ながらふと考えました「メタルライブでモッシュピットができるようになったのっていつからだろう?」。

今回、シート名が「モッシュシュシート」「モッシュシュピット」になっていたぐらい、FOX_FESTに来る人達にとっては「(Babymetalの)ライブ=モッシュピット」が浸透していると思うのですが、もともとHeavy Metalのライブ=モッシュピット、ではないんですよね。

今ちょうどメタル史を振り返っていますが、少なくともN.W.O.B.H.M.の時代、1980年代にはメタルライブはモッシュピット文化はなかった。00年代にIron Maidenの来日公演を数回観ましたが、その時もモッシュは起きなかったように思います。ライブの盛り上げ方の語法が違って、シンガロングなコーラスとかコールアンドレスポンスの掛け声とかはあるけれど、テンポチェンジしてモッシュを煽るとかしゃがんで飛び上がる、みたいな語法は最近のメタルライブに特有のものです。昔はメタルライブ=ヘッドバンギングだったんですよね。モッシュやステージダイブはハードコアの文化で、ルーツが違う。

で、振り返ってみると、多分PANTERAなんですよね。1991年のPANTERAのライブを見直してみたらモッシュピットが生まれていました。
(追記:1987年時点でAnthraxのライブではモッシュが生まれていました、後述します)

PANTERAはメタルコアの祖、ハードコアとメタルを融合させたバンドみたいな位置づけで語られることがありますが、まさにライブで見るとその通り。

ちなみに、同じ1991年でもモスクワで開催されたモンスターズオブロックだとモッシュピットは起きていません。「モッシュピット」という文化がメタラーに世界的にはまだ根付いていないことが分かります(会場の警備も強固なのでそのせいかもしれませんが)。

スラッシュメタル勢はどうだったかというとMetallicaは1989年の時点ではモッシュピットはありません。ヘッドバンキングと拳を突き上げる動きのみ。

おそらく一番ハードコアに接近していたSlayerの1988年のライブを観ても、ステージダイブ、クラウドサーフ(頭の上に乗ってステージまでたどりつく)は散見されますが、モッシュピット的な「観客がぐるぐる走り回る」動きは見られません。

(追記)五辺さんから情報をいただきました。Anthraxは1987年時点のライブ(IndianのMV)ですでにモッシュが出来ています。下記MVの3分あたりからクラウドサーフやモッシュが生まれています。ギターの周りでモッシュピットができる、という演出も使われていて、「モッシュピット」自体の告知にもなっている映像。この頃が出始めでしょうか。

スラッシュ四天王の中でAnthraxだけ東海岸(NY側)なので早かったのかなぁ。他の三つは西海岸なので、もしかしたら西と東で少し違ったのかも。この辺りはリアルタイムじゃないと分かりません。ただ、五辺さんが体験した1990年のExodus(西海岸のスラッシュメタルバンド)のライブではすでにモッシュピットがあったそう。1980年代終わりにはUS全体でクロスオーバースラッシュ(ハードコアの要素もあるスラッシュメタル)のライブではモッシュピットは根付いていたようです。というか、もしかしたらこのIndianのMVがメタル史におけるモッシュピットの発火点の一つなのかも。

クロスオーバースラッシュの検証のため、このジャンルの代表格であるSuicidal Tendenciesの1985年のライブを観てみました。観客席から映しているので観客が良く見えます。画質や暗さの関係で見づらいですが、前の方でモッシュピット(人の頭が左右に大きく移動している)が確認できます。

1985年の時点ではモッシュが生まれていました。こうなると、クロスオーバースラッシュからだんだんメタルライブに入ってきたんですね。Slayerも実際にライブに行ったらモッシュピットあったのかも。Metallicaは(少なくとも初期は)あまりハードコア要素が出てないですよね。それよりN.W.O.B.H.M.や欧州メタルの要素が強いからノリが違ったのかも(追記終わり)

そもそもN.W.O.B.H.M.を起点とする80年代初頭のヘヴィメタルってモッシュピット的なものに合わないんですよね。メタルライブ=モッシュピット的な風潮からか最近のIron Maidenのライブではモッシュピットが起きたりもするんですが、基本的にノリが合わないのですぐ消散するイメージです。

やっぱりヘッドバンギングやシンガロング、拳を振り上げる的なノリなんですよね。

モッシュピットの歴史をもっと遡ってみましょう。パンクでは70年代からポゴダンスというのがありましたが、あれってモッシュピットとは違うんですよね。あくまでその場にいて手足を振り回す、暴れる感じなので「グルグル回る」という動きではありません。

いい動画を見つけました。まさにモッシュピットの歴史を追った10分弱の動画。パンクのノリで「ポゴダンス → スラミング → モッシュピット → ウォールオブデス」という進化の過程をたどったらしい。歴史を辿れる良いビデオ。

ただ、ハードコアのノリって整然と走る、というよりもっと乱雑、洗濯機の渦というよりはもっと自由に粒同士がぶつかり合う感じがします。上記のビデオを見てもいわゆる日本のメタルライブ、特にBabymetalのライブで観られるような統制が取れたものではない。去年のNex_festでも感じましたが、統制が取れているんですよね。互いにあまりぶつからない。こういう「統制されたモッシュピット」って日本特有な気がしますね。メタラーの側からモッシュピットを再解釈した、というか。

メタルって、基本的に集団で統制された動きをとることが多いノリなんですよ。拳を突き上げるところとか、コールアンドレスポンスとか、ヘドバンも同じリズムだし、そもそもステージ上でもフォーメーション組んで同じ動きをしたりするし。特に、1980年代初頭はそういうのがブームでした。

それに対してハードコアはもっと混沌としたノリ、観客もそれぞれのノリだし、カオスを生み出すことを重視する。だから、そもそもは文化としてまったく別物なんですよね。この「ハードコア直系のカオスなモッシュピット」と「メタラー的な統制されたモッシュピット」は別物といってもいい気がします。元が違うから、やっぱりだんだん分かれてくる。

統制の取れたモッシュピット

ちなみに同じBabymetalのモッシュでも海外フェスだともっと荒め。ハードコア寄り。これはフェスのラインナップとか雰囲気によっても変わる気がしますね。

まぁでも、本当のハードコアなライブのノリとはやっぱり違う気がします。さっき上に張った「モッシュピットの歴史」ビデオがパンク~ハードコアな流れなので、そっちは本当に殴り合い的な。ステージダイブもアンプの上(3メートルぐらいあるように見える)から飛び降りたりするし。一歩間違えば大けが。

ハードコアなノリで分かりやすい例がConvergeかな。「メタルコア」と言われますが、彼らはメタリックハードコアであり、ハードコア要素が強い。

この映像だとステージもない(高さが同じ)だし。演者と聴衆が一体となる、そこの壁を壊す。各自が思い思いに動く、みたいなものを重視しています。ステージと観客の垣根をぶっ壊すパンクの精神。これ、楽しいけど体格が合わないと吹っ飛ばされて倒れたり最悪脱臼したりします。人がぶつかる力ってけっこう強いんですよ。


時々「モッシュピット賛否論」みたいなのをSNSで見かけます。「モッシュは危ない」とか「ケガをした」とか。

個人的には、モッシュピットがあった方が身体が楽です。スタンディングで大人数のライブだと前の方にいるとずっと圧迫される。かなり疲労するし常に周りを押しのけていないといけないけれど、モッシュピットで隙間ができるし、自由に手足を動かせるから楽なんですよね。だから、モッシュやウォールオブデスといった「2020年代の流行りのノリ」は個人的には好きです。

だけれど、あまり激しいとそれはそれで困る。ガチのハードコアのノリの外人さん(190センチ100キロ超)とかが来ると吹っ飛ばされます。NEX_FESTとかFOX_FESTで観られた「統制が取れたモッシュピット」「互いにガチでタックルでぶつかり合わないWall Of Death」辺りはむしろライブを観るうえでちょうどいい隙間ができてウェルカムだなぁ、と思うし、ガチのハードコアの人たちの「ガンガンぶつかり合うモッシュピット」「ガチでタックルしてくるウォールオブデス」みたいなのは小柄な人は近寄らない方がいいと思います。そこにいる人たちの体格と属性を見極めるのが大事。

今日は雑談ですが、一応まとめるとモッシュピット=メタルライブ、みたいなイメージがありますが、そもそもメタルの文化ではなかったということと、一口にモッシュと言っても「メタル由来の統制されたモッシュピット」と「ハードコア由来のカオスなモッシュピット」があること(たいていはその中間のどこかに落ち着く)を理解し、適度な距離を取ればいいんじゃないでしょうか。わざわざ入らなくてもいいものだし、入らなければメタルライブ、というものでもない。そもそも、生粋のメタラー(「メタラー」という言葉の時点で90年代リアタイ組であることが多い)だとモッシュピットは異文化です。モッシュピットのちょっと外側、にいると、モッシュが引くときにすっと前に行けたりするし、あるいは下がることもできるし、うまく使えばいいんじゃないでしょうかね。

なんてことをFOX_FESTのモッシュを2階席から観ながら考えました。入りたかったなぁ。

それでは良いミュージックライフを。


連載:メタル史もよろしくお願いします。


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