３７．ハードロックの原型も作ったギタリスト ＝ JIMI HENDRIX

ジミ・ヘンドリックスは1942年、シアトル生まれのギタリスト・ボーカリストで、1966年にイギリスでデビュー。ファーストアルバム「Are You Experienced？」を1967年5月12日にイギリスでリリースします。ハードロックという音楽をどうとらえるかは正解はありませんが、ディストーションの効いたギターリフが曲の骨格を作り、ボーカルとせめぎ合う、というスタイルをハードロックと考えるとまさしくジミが音楽スタイルとしてのハードロックの祖と言えるでしょう。

ジミがデビューした1966年という時代は、まだディストーションサウンドの黎明期です。1964年にThe Kinksの「You Really Got Me」がおそらく「ハードロック的なリフ」が初めて音楽シーンに大きく現れた瞬間だと思いますが、Kinks自体はすべての曲がディストーションギターというわけでもなく、フォーク的・英国的な側面もアルバムには多くあります。むしろこの曲は（1964年当時としては）Kinksの中でも異質にハードな曲です。他の曲もディストーションギターは使っていますが、もっとロックンロール的、ブルース的です。

ディストーションギター自体は1958年にWrink Ray（リンク・レイ）というギタリストが出した「Rumble」というインスト曲が初めての録音物とされています。インストながら「若者を暴力的にする」という理由で放送禁止になったそうですが、今聴くと、確かにディストーションギターのサウンドではありますが特に暴力的な印象は受けませんし、ハードロックにつながる曲構成でもありません。また、上記のKinksや、他にはThe Whoもディストーションギターによる激しいサウンドを出し始めてはいましたが、やはりギターはまだ伴奏と、主役になるのは間奏の時だけであり、リフが主体となってボーカルとせめぎ合いながら緊迫感を増していくような曲構成は見られません。

そうした「ギターリフが主体の音楽」で商業的に大成功を収めた初めてのミュージシャンがジミです。ジミはもともとアメリカのR&Bシンガーであるリトル・リチャードのバックバンドなどで活動していましたが、アメリカでは今一つブレイクできずソロデビューもできなかった。それをキース・リチャーズの当時の恋人（リンダ・キース）がアニマルズのベーシスト、チャス・チェンドラーに紹介し、チェンドラーの手引きでイギリスでのデビューを果たします。そしてイギリスで大人気となり、世界初の大規模音楽イベントと言われる1967年のモンタレー・ポップ・フェスティバルに呼ばれ、アメリカに凱旋することになります。

ジミの奏法はイギリスのミュージシャンにとって画期的で、1967年の1st「Are You Experienced？」そして、同年12月1日にリリースした2nd「Axis: Bold As Love」の2枚によって、イギリスの音楽シーン、特にギタリストたちは大きな衝撃と刺激を受けました。Eric Claptonは当時Creamに在籍していましたが、ジミに影響を受けたと公言している「Sunshine Of Your Love」が収録されたアルバム「Disraeli Gears」を1967年11月2日にリリースします。

Jeff BeckはJeff Beck Groupを結成し、翌1968年に1stアルバム「truth」をリリースし、ボーカルにロッド・スチュワートを迎え、エレキギターとパワフルなボーカルというハードロックの原型を提示します。ジミはギタリストとしては画期的でしたが、ボーカリストとしてはいわゆる「ハードロックボーカリスト」と呼べるほどの声量や技量はありません。あくまでギターの分野での革命者です。

そして、1969年にはニュー・ヤードバーズ改めLed Zeppelinが登場します。ギターのジミーペイジとボーカルのロバートプラントのせめぎ合いが、まさしくハードロックという音楽スタイルの確立の瞬間でしょう。

エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ。彼らを含めた同時代のギタリストに多大な衝撃と影響を与え、ギターという楽器の可能性を拡げたのがジミ・ヘンドリックスです。なお、彼自身の音楽はハードロックではありません。当時としては革命的なギター奏法に、曲構成としてはブルースやカントリーが混じった独特なものです。

ジミは1970年9月18日、27歳の若さで亡くなりました。ソロとしての活動期間は約4年間と短い期間ながら、その後のロックミュージックにおけるギターという楽器の可能性を大きく拡げたギタリストです。