見出し画像

48.中世伝統音楽を再構築する自然派バンド = FAUN

Faun(ファウン)は1998年に結成されたドイツのバンドで、バンド名はギリシャ神話の牧神から。ファウヌスまたはパンとも言います。2002年にデビューアルバム「Zaubersprüche」をリリース、欧州中世の伝統音楽と、フォークメタルをミックスさせた音楽性を持っています。使っている楽器は伝統楽器ですが、作曲技法はフォーク・メタル的な展開、高揚感、技巧性など現代風に再構築しています。現在のメンバーは6名。男性ボーカル/弦楽器(ブズーキ/ニッケルハルパ/アイリッシュハープ/口琴)のOliver s.Tyr、女性ボーカル/笛(レコーダー/笛/バグパイプ/セルジェフロイテ)のFiona Frewert、パーカッション(タール/レク/ダヴル/panriqello/ダラブッカ/チンバウ/gaxixi等々)のRüdiger Maul、女性ボーカル/フレームドラム(片手ドラム)/マンドラのLaura Fella、男声ボーカル/ハーディ・ガーディ/フルート/シターンのStephan Groth、唯一の電子楽器奏者でシンセ等を担当するNiel Mitraの編成で、さまざまな伝統楽器を使いこなしています。比較的小ぶりな楽器が多いのは、ジプシーのような生活で移動するときに持ち歩きやすいようにでしょうか。伝統楽器から当時の暮らしに思いが馳せます。彼らは自分たちの音楽を「ペイガン・フォーク」と呼んでいます。ペイガン(Pagan)はもともとはラテン語で「田舎者」といった意味。そこからキリスト世界では「不信心者」「野蛮人」などのやや侮蔑的な意味合いもあるようですが、彼らは「自然・中世に回帰する」といった意味で用いているようです。ドイツでは知名度が高く、2016年のアルバム「Midgard」ではナショナルチャートの3位にランクイン。スイスやオーストリア、オランダでもチャートインしており、2020年までに10枚のスタジオアルバム、1枚のライブアルバムをリリースしています。今日紹介するバンド群はメタラーにも愛され、WackenやHellfestといった欧州メタルフェスティバルに多く出演しています。

skáld(スカルド)は2018年デビューのフランスのグループです。作曲家/プロデューサーであるChristophe Voisin-Boisvinetが3人のボーカルを集めて結成、2019年にデビューアルバム「Vikings Chant」をリリース。ドイツで55位、フランスで33位にチャートインしました。スカルドとは北欧の初期の吟遊詩人のことで、彼らの世界観はスカルド詩人に倣っています。そのため、歌詞はノルウェー語、古代ノルウェー語です。映画「Heavy Trip」にもバイキングのコスプレをして楽しんでいる人たちがいましたが、ああいう人たちですね。ペイガンフォークに分類されるバンドです。

YE BANISHED PRIVATEERS(イエ・バニッシュド・プライヴァティーズ)は2008年結成のスウェーデンのバンドです。バイキング・フォークとも言われており、アイルランドとスカンジナビアの伝統音楽に影響を受けつつ、最近のAlestormなどに代表されるバイキングメタル的な曲構成を持っています。レーベルもメタル系レーベルのNapalm Recordsに所属。ある意味「本気度の高いバイキングメタルバンド」とも言えますね。楽器は伝統楽器を用いていますが、曲構成の巧みさやメロディーの構築が優れており、かなり制約が多い音楽ジャンルだと思いますが、ネタ切れすることなく今まで「Songs and Curses(2012)」、「The Legend of Libertalia(2014)」、「First Night Back in Port(2017)」、「Hostis Humani Generis(2020)」の4枚のアルバムをリリースしています。

Heilung(ハイルン)は2014年に結成されたデンマーク、ノルウェー、ドイツのメンバーで構成される実験的なフォークミュージックバンドです。宴会や祝祭の音楽というよりはより儀式的でシリアスな世界観を作り上げており、1曲も長め。長尺の中でしっかり世界観を作り上げていく手法はプログレ的とも言えます。北欧神話やヴァイキング、古代ゲルマン文化などをテーマにしています。男性ボーカルのKai Uwe Faustの歌い方はモンゴルやチベットのスロットシンギング(喉笛)を彷彿とさせます。モンゴル音楽については以前The HUを取り上げました。Heilungは今までに「Ofnir (2015) 」、「Lifa (2017) 」、「Futha (2019) 」の3枚のアルバムをリリースし、2018年のMetal Hammer誌のGolden Gods AwardにおいてBest Underground Bandカテゴリーにノミネートされています。

今日最後のOMNIA(オムニア)はオランダを拠点とする多国籍バンドで、1996年に活動開始。2006年には「PaganFolk(ペイガンフォーク)」というタイトルのアルバムもリリースしており、最初に紹介したFaunと並び、ペイガンフォークを代表するベテランバンドです。ペイガニズムは古代回帰、自然愛好的なライフスタイルも含み、そうした思想をまんま歌詞にしてしまった曲です。真面目なんだか間抜けなんだが分からない感じが80年代メタルMV的で素晴らしいですね。狙ってるんでしょうか。いや、たぶんシリアスなんですけど、、、。なお、他の曲のMVやライブはこんなにコミカル感はありません。今までに12枚のスタジオアルバム、3枚のライブアルバムを出しており、活発に活動しているグループです。

こうした中世の欧州やファンタジー世界をテーマにしたフェスも欧州にはいくつかあり、毎年数万人規模で開催されています。今日紹介したバンド群はそうしたフェスの常連。そのうちのひとつ、Castlefestの様子です。

今日は欧州伝統音楽を紹介しましたが、先述したThe HUや以前取り上げたHasSakなど、アジアにも似たようなセンスを持ったグループがいます。伝統音楽のリバイバルは面白いですね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?