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スノボのリフト

 一日スノーボード券付きの北海道旅行を予約して男二人で行った。
 スノーボード当日は朝ホテルのロビーに集合して、同プランに申し込んだであろう人たち20人くらいとマイクロバスでスキー場に向かった。
 すぐ前の席にきゃんきゃんとした声で大学生ぐらいの、「ギャルじゃん」と言われて「ギャルじゃねーし」って返してそうな女の子3人組が座っていて、その子たちはニット帽姿の自分たちをiPhoneで5分ほど自撮りしあったあと、着くまで爆睡していた。

 到着後、ボードをレンタルしてゲレンデに出た。一面真っ白な景色は何度見ても心がすうっとする。騒がしいのに静かなのがふしぎ。雪が音を吸収するせいだろうな。
 僕の実力はときどき転ぶ程度で初心者ではないくらい。だけど友達は1年ぶり2度目のスノボでびびりまくっていたのでまずは練習しようということになった。
 山頂まで行くらしいメインのリフトがまだ動いていなかったので、あまり難しくなさそうなコースまで別のリフトで移動して、「そうそう」だの「そうじゃない」だの言いながら一緒に少しずつ滑った。

 下まで戻ってくると、メインのリフトが運転を始めたらしく軽く列ができていた。
 その中に一つやたらすいてる列があって、それが「おひとりさま」用の列だった。後ろを歩く友達に「まあいいよね」と言ってそこに並んだ。リフトは大体が二人乗りだけど、ここはメインだからか四人乗りの大きなリフトのようだった。
 そんで、僕が同乗したのがさっきの3人組。僕が後ろの座席だったからその子たちは気づいてなかったかもしれないけど、僕は「ギャル」と思った。

 ガコン、とリフトが揺れる。係員の合図で4人同時に座ったところ。3人組は右側、僕は一番左。って当たり前か、真ん中なわけないよね。
 このリフトの特徴は、上から大きくて透明なカバーが下りてくるところ。おかげで雪にも風にも当たらないから全然寒くないし、それどころか恐怖心もだいぶ緩和される気がした。

「このカバーがあるだけで全然ちがうなあ!」
 そう言ったのは一番右に座る女の子。関西のイントネーションだった。
 おんなじ意見だなあと思う。ねーすごいよねこのカバー。
 でも他の女の子たちは「そう?」とあまり関心がないようだった。
「そうやん! 雪が当たらんだけで全然違うやん。だからチョコ食べよかな。食べる? アルフォート」
「アルフォートは後でにしとく」
「じゃあシンプルなのにしとこー」
 展開が早い。あっけにとられているとチョコの匂いがしてくる。カバー付きだから。おいしーって言ってる。アルフォートはそんなに複雑なチョコレートじゃないけどな。

「これどこまで行くん」
 僕の真隣、3人の中では一番左に座る女の子が質問すると、真ん中の子が「あのリフトに乗り換えちゃうかな」と指をさした。
「いやでも山頂まで行くゆうてたで」とチョコの子が訂正する。いや君しっかりしてんのかい。でもそうそう。山頂行きって書いてあったよね。
「えーまじか」質問の子が言った。まじだあ!
 ただ、斜面が急なせいか、確かにどこに向かってんのかあんまり分からなかった。あのリフトに乗り換えですって言われてもそうかもなと僕も思う。
 そしたら、チョコちゃんが身を乗り出して「おにいさんここ初めてですか?」と僕に聞いてきた。
「あ、そうですそうです」チョコちゃんに答えた。
「このリフトって山頂まで行くんですっけ」
「そう書いてありましたけどねー」
「そうですよねー、ほらやっぱりー!」チョコちゃんがぶーぶー言うと、質問の子が「まじなんだー」と言った。

 ということで山頂まで続くメインのリフト。会話はまだまだ続く。
「ほんま、雪当たらんだけでこんなに違うんやな!」
 一番右のチョコちゃんがまた言った。なのにやっぱり共感を得られず、真ん中の子に「そう?」と言われている。
 ただ、話はここで大きく展開する。
「でもこの、もあんもあんしてるのいやや」
「え?」「もあんもあん?」
 僕の真隣、女の子の中で一番左に座る質問の子が謎の発言をした。他の二人同様、僕も「え?」と思っている。
「なんかもあんもあん言ってるやろ。これがいやや」
 え、あ、これか! 確かに、カバーがあるせいかずっと低音のもあんもあんが聞こえてるような気もする。それには二人も気付いたみたいだった。だけどそれは、共感ではなかった。
「こんくらい我慢しーや!!」「なんやねんもあんもあんって!!」
 そうわーわーリアクションをすると、そのあとは口で、
「もあんもあんもあんもあん!」「もーあんもーあんもーあん!」
 と大声で言い始めて、質問の子に「やめてって!」と絶叫させていた。

「しかも、マジックテープの音もいややから」
「え?」「なんて?」
 え?
「うちマジックテープの音苦手やねん!」
 新しい情報を出してくる質問の子。なにゆうてんの。なんで突然いやな音シリーズで話をし始めたの。
 その理由を解明したのは聡明なチョコちゃん。「これか?」と言いながらスノボウェアの袖を留めるマジックテープをべりべりと剥がした。
「やめてーや、いややねん!」
 これかー! スノボ繋がりでいややってゆうてたのか!
 ただ、さっきもあんもあんを言いまくった二人。この状況でかかるのが拍車。
「えーなんでこれがいやなん(べりべり)」
「こんなの日常茶飯事やん(べりべり)」
「やめっ・・ああ」
 これはもう、質問の子が悪いね。そういう二人なんだもん。
 今朝ホテルで着替えるときもほんとはいやだったのかなあと僕が思ってる間にもべりべりは続いた。
「ほれほれー(べりべりー)」
「べりべりー(べりべりー)」
「ほんまたち悪いやん苦手やゆうてるのに!!」
「あはははは!」
 つい声に出して笑ってしまう。というかもう我慢しなくていいやと思った。
「変ですよねえ!」身を乗り出して聞いてくるチョコちゃん。
「マジックテープ苦手なんですか?」
「そうなんです」
「これがー?(べりべりー?)」これは俺じゃない。
「やめてって!」
「あはははは!」これは俺。
「黒板ひっかく音とかのほうがいややん」真ん中の子。
「いやうちからしたら同じレベルでいややねん」質問の子。
「えーかわいいもんやんかー!(べりべりー!)」チョコちゃん。
「ほん・・やめてって!」
 絶叫と笑い声とべりべりが反響しまくる。こういう奔放な会話はいつまでも聞いてられる。

 べりべりがやっと落ち着いても、リフトはまだ山頂を見せてくれなかった。
「え! 見て! これもうほとんど木ぃやん! 木ぃばっかりやん! やばない?」
 真ん中の子が言う。確かに木ぃばっか。こんなとこ滑るなんてやばないだよ。
 すると一番右のチョコちゃんがまたひょこっと身を乗り出してこっちを見た。「おにいさんは上手なんですかー?」
「いや俺はそんなです。3人は上手なんですか?」
「いや全然ですよー! これってやばくないですか?」
「ねー、木ばっかですよね! あでも、コース2つあるらしくて、ナチュラルってほうは初心者用って書いてありましたよ」
「あそうなんですか! そしたらうちら絶対ナチュラルやな!」
 この、そしたらうちら絶対ナチュラルやな!って言葉、最高だと思ってる。

 突然のように山頂を見せリフトは到着。続いて来る友達を待って「すごく楽しかったんだけど」と報告すると、友達は「こっちはおっさん3人がずっとグチを言ってた」とグチを言った。
 雪面に座ってボードの準備をし始めると、先に準備を終えた3人が話しかけてきてくれた。「おにいさんありがとー!」
「いや、俺も楽しかったです。チョコの匂いもおいしそうだったし」
 僕がそう言うと、「バレてたかー! 今度あったらあげますね」とチョコちゃんが言って、手を振ってナチュラルコースへと向かっていった。
 友達とそのあと滑ったナチュラルコースは、平坦すぎて何度も足で漕がなきゃいけない大っ変なコースだった。みんな困っただろうな。


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