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「捨てられたタマゴ」企画書

#週刊少年マガジン原作大賞 #企画書部門

キャッチコピー:捨てられたドラ1を再生!ただの野球ファンがドリーム球団を日本一へ導く!

あらすじ:ドラフト1位。その年、球団が最も期待して指名した選手。アマチュア界で強烈なインパクトを残し、メディアから注目を浴びるドラフト1位。誰もが輝かしい未来を想像し、選手のポテンシャルも飛び抜けている。しかし、成功が約束されているわけではない。結果を残さなければ、戦力外通告を受ける厳しい世界。今年も球界を去ろうとしているかつてのドラフト1位。そんな中、ドラフト1位の肩書きを持つ選手だけが入団できる新たな球団が発足。野球未経験、野球大好きのファンが、肩書きだけ立派なチームを日本一へ導く。細かい数値はいらない、必要なのは飛び抜けた才能だけだ。

第1話のストーリー:
 選手名簿を見た時、思わず身体が震えた。甲子園を湧かせた選手が揃い、甲子園優勝投手もいる。高校野球ファンなら誰もが感動する、ドリームチーム。世代を超え、チーム同士で紅白戦を行うだけで金が取れる。そんな選手達ばかりだった。
「責任の重さを感じていますが、サンズを日本一に導きます」
 メディアからのインタビューに、25歳らしく明るい声でハキハキと答えた。
「いよいよシーズン開幕まで1週間を切りました。オープン戦も残り3試合。赤岩(あかいわ)監督の眼には、選手の動きなどどのように映っていますか?」
「心配はしていません。僕は初めて開幕を迎えますが、選手達は何年も経験してきていますから」
「ありがとうございました!」
 僕は何も考えず、スタスタと会見場を後にした。今日は自宅に帰り、明日のオープン戦に備える。2月1日のキャンプインから1ヶ月以上が経ち、3月25日の開幕まで残り1週間。勝負の時が迫っていた。
「赤岩監督、少しご相談があるのですが」
 会見場を出た所で、年下の僕に対して礼儀良く話しかけてきたのは、このチームの守護神候補でド派手なピンク色の髪がトレードーマークの畔柳(くろやなぎ)だった。
「明日、俺は9回に登板なんですよね?本番を見据えて、明日はリードしている時だけ登板できませんか?」
「別に構いませんよ。しっかりご自身で調整していただければ問題ありません」
「てか、なんで俺が抑えなんすか?普通に先発タイプだと思うんですけど」
「申し訳ない。でも、僕は畔柳さんが一番抑えにフィットすると思っているんです」
「別に一度死んだ身なんでいいですけど。ただ、このチーム状況じゃ俺が先発した方がいいっすよ」
 僕は下を向いて黙ってしまった。名古屋サンズ。昨年9月、セ・リーグのある1球団が解散し、その穴埋めをする形で発足。ドラフト1位の経歴を持つ選手だけを集め、日本一を目指すという目標があったが、プロの世界はそこまで甘くない。戦力が整わず、評論家の予想は軒並み最下位だった。
 プロ経験のある選手しかいないとはいえ、戦力外を受けた選手ばかり。ドラフト1位という看板を背負い、それを見事に汚し、ファンやメディアから戦犯扱いされた選手の集まり。
「畔柳さん、明日から開幕モードですよ。頼みます!」
「あぁ、任せなさい」

第2話以降のストーリー:
 2対1で迎えた9回表。畔柳がマウンドに小走りで向かう。マウンドに到着すると帽子を取り、ピンク色の髪をなびかせる。ドーム中の空気を吸い込むように深呼吸をした後、投球練習を始めた。1球、1球何かを確かめるように投じる姿は、まるで職人だった。
 前日、先発を志願してきた畔柳だが、真面目に役割を全うするところが可愛らしい。心で何を思っているかは分からないが、監督に命じられた場所で投げる。僕より5歳も年上なのに、実に従順だ。
 僕はベンチの1番前で立っていた。本来、守備の際はベンチに腰掛けているが、この日は立っていないと気が済まなかった。チームの軸となる抑え。守護神ともいわれ、優勝を目指すには必要不可欠なピース。僕の理想とする野球は、少ない点差を守り切る野球。そのためには、守護神をオープン戦期間中にどうしても確立しておく必要があった。
 畔柳を抑えで起用することは、オープン戦初戦で決めた。屋外球場での試合。試合前から小雨が降り、天気予報ではこれから本降り。試合中止も考えられる中、登板予定だった先発投手に冷静な表情で宣告された。
「俺、今日は投げないっすわ。雨で環境最悪だし、ケガしたくないんで」
 彼はユニフォームに着替えることもなく、斜めがけのバッグにグローブを押し込み、球場を後にした。僕にそれを止める勇気はなかった。実際、マウンドはぬかるみ始め、故障するリスクがあった。けど、現時点で試合中止は正式に決まっていない。
「俺、先発してもいいっすか!?」
 雨雲を切り裂くような明るい声。その声の主こそ、畔柳だった。畔柳は元々2番手投手として登板予定で、大きくプランを変える必要はなかった。
「ありがとうございます。お願いします」
 僕は頭を下げた。畔柳は跳ねるようにブルペンへ向かった。野球が好きなんだぁと感心していたが、さらに魅力的だったのが短いイニングでの投球だった。
 この日、雨で2回表が始まる前に中止。畔柳は1イニングしか投げなかったが、その投球は圧倒的だった。右腕から放たれる最速146㌔の直球、スライダー、カーブ、畔柳最大の武器で魔球と呼ばれるチェンジアップを惜しむことなく使用。3者連続三振を奪い、雄叫びを上げてベンチに帰ってくる姿は、昨年までテレビで観ていた畔柳とは正反対だった。
 先発として、5回まで確実に試合を作る。安心して見ていられると思った途端、大崩れしてビッグイニングを献上してしまう。球速が落ちるわけでも、配球に偏りがでるわけでもないのに、6回以降の畔柳はサンドバッグ状態。プロ1年目から改善されない課題が、当時の首脳陣とファンの反感を買い、戦力外となった。
「監督、あいつを抑えにしましょう」
 そう提案してきたのは、ヘッドコーチの熊谷(くまがい)。55歳のおっさんで、居酒屋にあるタヌキの置物そっくりの体型をしている。一部のファンの間では、ぽっちゃりとした熊谷をマスコットのように扱い、可愛らしいと人気を集めていた。熊谷はプロの世界で15年のコーチ経験がある。監督代行を務めた経験もあり、僕が最も信頼するコーチだった。
「僕も同感です」
「あいつ、頭がいいから打たれてたのかもしれませんね」
 僕は熊谷の言葉に頷いた。昨年まで、畔柳の直球が140㌔中盤を記録することは滅多になかった。ほとんどが130㌔中盤で、打たせて取るタイプの投手という印象を持っていた。ペース配分を考え、打者の力量を見極めて投球する。大人の投球だと評することはできるが、威圧感はなかった。
 今回、雨が降りしきる中での登板。天気予報を見ても、9回まで持たないことはほぼ確実。試合中止になる前に、少ないイニングでアピールしよう。畔柳にそういう思いがあったのか、思わぬ収穫だった。
 今日も、畔柳は全力で右腕を振った。140㌔中盤の直球に、120㌔前半のチェンジアップ。緩急織り交ぜた投球に打者は困惑され、次々と空振りを奪う。打者3人をわずか9球で料理し、あっという間に試合終了。マウンドで笑顔を見せる畔柳が頼もしく感じた。
 勝利した瞬間、僕はベンチでコーチ陣と握手を交わした。開幕前最後の3連戦。勝敗は関係ないとはいえ、6勝8敗1分と勝率5割への道が繋がった。
「ナイスゲーム。守護神は目処がつきましたね」
 熊谷がわずかに表情を緩め、安堵感に包まれたような表情をしている。
「そうですね。課題は山積みですけど、1つ大きな課題はクリアですね」
「開幕まで残り2試合。1つでも課題を潰したいところですね」
「はい。先発の頭数が足りていませんもんね。畔柳さんに言われましたよ、自分は先発タイプだと思うって」
 僕の言葉を聞き、熊谷は鼻で笑った。何を思ったか口には出さなかったが、ニタニタと笑みを浮かべて僕の顔を見つめてきた。
「おぉ~い!俺、めっちゃ頑張りましたよ」
 畔柳が大きな声を出してベンチに戻ってきた。僕の所に手を振ってきた彼の姿は、野球を始めたばかりの子どものようだった。周りにいた選手、スタッフからは笑い声が漏れる。僕は畔柳とガッチリ握手を交わした。思いは全て届け、準備は整った。チームの軸の1つ、抑えの確立に成功。この後、メディアに向けて自信を持って言える。我がチームの守護神は、畔柳だと。
 オープン戦が終わり、いよいよ開幕戦の日を迎えた。敵地で王者・東京ジャングルズとの試合。現在、セ・リーグ3連覇中のジャングルズ。通算でも40回の優勝を誇り、球界の王者として君臨。他球団から主力選手を大金で買い取り、圧倒的な強さを維持し続ける野球に賛否両論巻き起こっているが、確実に結果を残す選手、監督に称賛の声が集まっていた。
 試合開始直前、両チームの監督、審判がホームベース付近に集まり、メンバー表交換を行う。僕は三塁側ベンチから駆け足で向かい、ジャングルズ監督・堂前(どうまえ)の到着を待った。堂前は開幕戦の緊張など少しも感じていないような、満面の笑みを浮かべてやって来た。
「赤岩くん、いよいよ開幕だね。お手柔らかによろしく」
 堂前から握手を求められ、僕は素直に応じた。すると、握手した手を痛いほどギュッと握られ、笑みを保ったまま語りかけられた。
「お前、25歳で監督になれてイキがってるらしいけどなぁ、そんなもんすぐに潰してやるよ。それと、抑えに畔柳を起用するんだって?あいつはもう終わってる選手なんだよ。そっと、第二の人生を歩ませてやればよかったのに」
 堂前の言葉に、これまでの人生で経験したことがないレベルの怒りを感じた。血が沸騰し、頭が今にも噴火しかねない。思わず手が出そうになったが、理性を保つことだけを意識して答えた。
「あんたこそ覚悟してろ、今におたくのチームをぶっ潰してやるから。それと、あんたが買い殺してるドラ1何人かよこせよ。うちで覚醒させてやっから。選手の育成もできない、大金に身を任せた無能だってこと、証明してやるから」
「そいつは楽しみだな」
 交換したメンバー表をその場で握り潰した。18時、いよいよ試合が始まる。


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