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マックの物語(6)

この読書教室は学習教室、環境教育、
NPO活動も兼ねている。
だから色々な人が出入りしている、
子どもは小学二年生の公立小学校の女の子から
有名女子私立小学校、公立の中高生、来年有名私大を目指す
受験生などなど様々だ。

そして、大人は講師とかサポーターとか
近所のカメラマンとかギターリストとか
色々です。

今日は昔パプアニューギニアで現地の子どもたちに
英語を教えていた金(かね)さんが指導に来ている。
TOEICスコアはほぼ900点だから
英検なら1級だろうか、とにかく発音は格好いい。

金さんは某有名国立中・高を卒業して
東大に入るのが当たり前路線を走っていたのだが、
思うことがあって某有名私大に入り、
パプアニューギニア経由、起業という変り種だ。
2年前から私の教室を手伝ってくれている、

本当に心強い勉強家、
当教室の看板先生といったところだ。

4月8日(日)また、また快晴

今日の午後マックは14:10に来なければいけない。
入学式で疲れ果てたマックは来れるのか?

金さんの元気な数学の授業が始まった、
少しワルの風貌、美士(びじ)は中学三年。
黒地にでかい竜の絵が入ったシャツとか
着ていて、一見近寄りがたい。

来年受験だ、成績は下の中。
陸上部、将来立派な親分にでもなれそうな精悍な顔つき。
難しい顔をして何やら、何やらとつぶやいている。
その様子は格好と不釣合いで少しおかしい。

見た目と違って美士は優しく、
率直で何でも話す。先日も彼女との
別れ話を詳細に報告してくれた。
こういう点はとても好感がもてる。

15:00、
マックはまだ来ない。またかよ・・・
「さて、電話するか・・・」

その時、チャイムが鳴った。
チャイム鳴らさなくていいって言ったのに・・・
でも、嬉しくて「は~~~~い」
また、また天に舞う僕。

マックが蚊の鳴くようなあいさつ「こんにちは・・・」
「お~~~今日も来たな!!頑張ってい・き・まっ・しょ~い!!」
「な~んちゃって」
「・・・」
古い、古い、古過ぎる。何チャってオジサンかよ・・・
教室中を冷やしてしまった。凍りつく生徒達。
いや美士だけはニヤニヤしていた・・・ありがとう。

いつものように
一目散に奥から2つ目のパソコンヘ。
金さんの「こんにちは~」の挨拶を
軽く無視して着席。本探し、CD探し。

張り切っているのか自分の世界から
はみ出したくないのか?とにかく
自分で決めた作業を要領よく処理する
マシーンのように動く。

マックの髪はさっき起きたことを
証明するようにキレイな寝癖がつき。
顔面は疲労120%、俺様はもう
何もかもに疲れたとアピールしているようだ。

パソコンをいじりだして
少し落ち着いたのか、マックは自分から口を開く。
「あの・・・何ページからだったでしょうか・・・」
マックは結構礼儀正しくて、真っ直ぐ。
きっと素直で優しい少年なのだ。
「おっ・・・ああ、101ページだ。これ結構おもしろいだろ」
「はい、面白いです」
あれ?反応いいね。

黙々と読書を始めた。
1.5倍→2.0倍→1.5倍
前回と同じように、
自分が決めた世界からはみ出さないように
行ったり来たり、行ったり、来たりしている。
あっという間に50分が過ぎ、
ヘッドフォンを外そうとした時・・・

何と

マックの後ろで美士が腕を組んで仁王立ち、
もしかして大好きな金さんの挨拶を
無視したことに腹を立て、
読書が終わるのを待って
ウエスタンラリアートでも炸裂
させようというのか?
「やばい・・・」
男気の美士ならやりかねない。

その時、沈黙を破って美士がマックに
話しかけた

「すごいっすね~」
拍子抜けするような明るい声。
「2.0倍って1.0倍の倍ってことっすよね?」
当たり前だ、そのまんまじゃないか。
「・・・」
マックも沈黙。
「何年くらいやっているんすか?」
「ええっと・・・1ヶ月くらい・・・」
マック完全に飲まれている。
「ひょぇ~、おたく天才ですね。俺もこれやろうかな」

美士は本気で感動している。
ちなみに教室の生徒の平均速度は3.0~3.5倍で
速い子は6.0倍という子もいる。
もちろん速ければ良いというわけではないが、

速ければそれだけ情報処理能力が速いという事で
速読できてしまう。そして3.5倍を超えた段階で
右脳がビシバシ鍛えられてしまうのだ。
ちなみに体験授業の時にマックに3.0倍を
聞かせたら、これは何語ですか?と真顔で聞いてきた。

「ええ、まあ・・・パソコンから内容を聞いて
本を目で追うのでとても読みやすいんですよ」
何と年下にも丁寧な言葉遣いのマック、
そして、また調子に乗り出した。
「パソコンも得意って・・・いうか・・・」
そうかな・・・結構ジタバタするじゃん。
「へぇ~博士みたいっすね~」
美士!!もうやめてくれ~。天の上まで舞い上がってゆくぞ。
「ええ、まあ・・・」
おい、おいマックそこは「ええ、まあ・・」じゃなくて
謙遜するところだろ。

美士の直線的かつ開放的な
コミュニケーションはマックの心を
見事に開いた。子どもの力とはすごい!!

2人でわけの分からない、
テンポの悪い会話を繰り返した後
マックはサラサラと読書記録を書き、
「ありがとうございました・・・」
といつもより確実に大きな声で挨拶をして
帰って行った。

マックの読書記録~
本の名前:「菊次郎とさき」
作者:ビートたけし
倍速:2.0
ページ:101~107ページ
感想:パソコンからないようを聞き本を目でおうととても読みやすかった。

2.0倍の2.0の数字の部分は明らかに意図的に書いたと思うのだが、
異常なほど大きく、バランスが悪い。
しかし、なぜかそれがひどく感動的だった。
そして、な・な・な・な・なんと
初めてコメントを書いた。

美士に伝えた言葉そのままだったのと、
内容と追うがひらがなだったのは気になるが。

とにかく初めてコメントを書いた。
あれだけ書くことに拒否反応を示していたマックが
自力で書いたのだ。

マックと美士は正体不明の化学反応を起こし、
マックは明らかに1つステップを駆け上がった。

まったく大人など何の助けにもならないのだ・・・
いたずらに何かを計画し導こうなどと
考えてはいけない。
子どもはやっぱり自然がいい。

マックはどんどん元気になる、間違いなく元気になる。
僕はそう確信した。

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