実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(後編-1)
期首達成率と成長率の2軸
前編、中編のエントリーでは、達成時期が記録されている子どもの行動の「属性」を判別するために、期首達成率(年度初めの4月の記録の段階で、ある行動項目が達成できている子どもの比率)と成長率(4月段階で出来ていなかった子どもの中で、最新時点において、その行動項目に「できる」が記録されるようになった比率)による4分類を提案しました。
それらのエントリーでは、エラーデータを取り除いたモデルデータで、実際に、期首達成率と成長率をそれぞれ計算し、それらの比率が、どのような分布になっているのかをヒストグラムとして提示し、比率の高い部分、低い部分それぞれに、どのような行動が上がってくるかを確認しました。
今回のエントリーでは、4分類のうち、期首達成率の高い「ホップ」と「ジャンプ」について説明していきたいと思います。
4分類の各類型概念
改めて紹介しますと、期首達成率と成長率の2軸による4分類は、ホップ、ステップ、ジャンプ、アドバンスの4分類になります。
ホップは、期首達成率が高く、成長率も高い行動項目となり、ステップは、期首達成率は低いものの、成長率が高い行動項目となります。
このホップとステップが、その年齢の子ども達の発達過程のコアを形成しているものと考えます。年度替わりの初期には、当然ながら成長率が計測できないので、あまりこの2つに該当する行動項目が出てきませんが、カレンダーが進むごとに、これらの分類に含まれる行動項目が出てくることになります。この分析導入2年以降については、前年度の同じ年齢クラスの1年分の記録データに基づく4分類が参考になるかと思います。
一方、ジャンプは、期首達成率は高いのですが、成長率が伸び悩む行動項目となり、「できる、できない」の個性が出てくる項目となります。また、アドバンスは、期首達成率も低く、成長率も低い項目となります。ジャンプに該当する行動項目については、個性差なので、出来る子どもは更にその点を伸ばしてやる、出来ない子どもにはチャンスは与えるが無理強いしないということになるでしょう。
アドバンスについては、そもそも、この年齢では難しいということなので、長い目で見ていく行動項目ということになります。
保護者から、ある行動が出来なくて心配だという相談が在った場合にも、この4分類に応じて、どのような対応をすることが望ましいのか、検討できるようになると思います。
ホップに含まれる項目
ここからは、4分類の各カテゴリーにどのような項目が含まれているのか、具体的に見ていきたいと思います。まず、「ホップ」の項目からです。今回は1年分のモデルデータで計算をしていますので、「ホップ」に分類される項目も、相当数存在しています。
「ホップ」は、期首達成率も、成長率も高い項目と定義され、今回のモデルデータでの計算では、それぞれの中央値75%で高低の線引きをしました。
「ホップ」に含まれる項目として、成長率の高い方から5項目を紹介すると
・「足を交互に出して階段の昇り降りをする」
・「一生懸命自分が持っている身体機能を使って体を動かそうとする」
・「体を十分動かす遊び、遊具・用具を使った遊びを楽しむ」
・「粘土をちぎったり、伸ばしたり丸めたりする」
・「保育士に親しみ、安心感をもち生活する」
といった項目が並びます。身体機能(領域「健康」関連)の項目が並んできており、3歳児の子どもたちの身体機能や体を動かそうという意欲が、着実にこ発露していくことを表しているものと思われます。
また、成長率が、中央値以上であるが相対的に低い項目を抜き出すと、
・「身の回りの出来事に関する話に興味を持つ」
・「身近な物に関心を持ち、触れたり集めたりして遊ぶ」
・「何度か挑戦してできたことを喜ぶ」
・「身の回りの様々な物の音、色、形、手触り、動き等に気付く」
・「接続詞「えーっと」等を使い話を展開する 保育士や友だちの話を聞く」
といった項目が並びます。身の回りの事象に対する意識、関心の高まりを表す項目(領域「環境」関連)の項目が並んでおり、精神面での成長を象徴しているように見受けられます。こちらの項目も先の身体機能回りの項目より若干成長率が低くはなっていますが、期首にできなかった子どもでも、その4分の3以上の子どもが、それらの項目を達成していました。
この「ホップ」の項目は、モデルデータを構成している3歳児の子どもたちの成長、発達の基盤、土台とも言える行動、能力ではないかと思います。
数は少ないかもしれませんが、これらの項目で「できない」子どもが居た場合には、少し注意し、それら未達成項目の達成に向けたサポートに、保育者、保護者ともに気を配ることが求められるのではないでしょうか。
ジャンプに含まれる項目
では次に、「ジャンプ」に分類されていた項目について、具体的に見ていきたいと思います。「ジャンプ」は、期首達成率は高いが、成長率が低い項目と定義されます。すなわち、期首達成率は75%以上だが、成長率は75%未満という項目です。
「ジャンプ」に含まれる項目として、相対的に成長率の高い方から5項目を紹介すると
・「自分で鼻をかんだり、顔や手を洗う等、清潔にする」
・「絵本などイメージを持って楽しんで聞く」
・「苦手な食材も周囲の励ましで頑張って食べようとする」
・「色々な表現遊びを楽しむ」
・「「なぜ」「どうして」などの質問をする」
となりました。いわゆる5領域の特定の領域に関連する項目が集まっているという感じではなく、様々な領域に関連する項目が出てくるという感じでしょうか。
さらに、特に成長率が低い(成長率が50%以下)項目を見ると、
・「身近な言葉に興味を持ち、楽しんだりきいたり言ったりする」
・「様々な物の音、色、手触り、動き等に気付き、驚いたり感動したりする」
・「言葉がけにより午睡や休息をする」
・「しっかりと咀嚼をして食べる」
といった項目が並びます。なお、最も成長率の低い項目として「楽しく食事をする」がありますが、これは期首に達成していない子どもが一人おり、その子どもが結局、1年後も、うまく食事を楽しめていなかったという特殊例でした。
「ジャンプ」の項目は、分析対象の子ども集団の中で、「できる子はできるが、できない子にとっては難しい」項目ということができます。期首段階で、達成している子どもたちも多いことから、難易度というより、当該年齢では、個人差が出てしまう項目ということだと考えられます。
これらの項目の中には、「3歳であれば、できていないと、まずいのでは」と感じてしまうような項目もなくはありません。しかし、実績データに当たってみると、それらの項目が、その発達のタイミングに個人差が大きく影響する項目だということが判明したということです。
よって、保育者や保護者は、これらの項目ができなくても、少し余裕を持って、子どもの動静を見てあげても良いでしょう。他方、関心、意欲を見せるようであれば、3歳児として難易度が高い項目ということでもないので、より積極的に足場作り、後押しをしてあげるという姿勢、感度を持っていた方が良いとも言えるでしょう。
このように期首達成率と成長率の2軸で分類すると、目の前の子ども集団の中での、それぞれの行動項目の位置づけを確認することができます。「感じ」ではなく、実績データに基づいた、子どもへの関わり、環境構成の検討のために、こういった分析は寄与するのではないでしょうか。
次回は、4分類のうち、「ステップ」と「アドバンス」について、具体的に紹介していきたいと思います。
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