静かな夜に海辺の街で

波音が夜に響いて
空の果てはもう見えない
夜の向こう側には
ここからはまだ遠すぎる

こんなに静かな夜だから
夜空に舟を浮かべてみたい
背負ってきた重い荷物は
とりあえず今は置いて行こう

始まりはいつでも突然で
知らぬ間に僕を捕まえていく
通り雨に濡れるように
優しく攫われてしまおう

営みを終えた街は
ひっそりと息を潜めて
波音を枕にして
ひとときの眠りにつく

夜に梯子をかけて
あの三日月に手を伸ばした
眠った街を見下ろしても
眠った君は見つからない

偽りの愛を囁いた時のように
星はしらしらと光っている
言葉は移ろいやすくて
流星のように見えなくなった

吹いてくる風はどこか
懐かしい香りがして
夜の向こうからあなたの
口付けを運んできた

文字盤の中に閉じ込めた
大切な時間たちに
さよならを告げたなら
また歩き出せるから

夜霧は静かに街を包んで
僕の隙間も埋めていく
このまま少し休んでいこうか
夜明けまではまだ掛かるから

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