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アレイシ・エスパルガロ選手引退によせて(後編)

2024年5月23日、アプリリアレーシングのアレイシ・エスパルガロ選手(34)が今シーズン限りでの引退を発表しました。

MotoGPクラスデビュー~スズキ時代について書いた前編↓

アプリリア移籍後から初表彰台、覚醒前夜までを書いた中編↓

今回は後編です。いよいよ運命の2022シーズンから現在までです。このシリーズを書き始めたのは前述の引退発表直後なのですが、そこから現在(2024/6/4 1:25)までの間にも新たにアレイシのドラマがどんどん増えていって終わりが見えません。本当に今シーズン限りで引退するライダーとは思えませんが、最終章是非ご覧ください。

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2022年は、前年の初表彰台に加えスズキ時代の旧友ビニャーレスがフル参戦ライダーとして正式に合流。チームも基本構成は変わらないもののグレシーニレーシングが離れ、完全なるファクトリーチームとして独立し万全の体制となりました。アレイシは開幕2戦を4位・9位でまとめポイントランキング上位に食らいつきました。そして続く第3戦アルゼンチンGPは、アレイシにとって世界選手権での284戦目、そして最高峰クラスでは200戦目の節目となるレースでした。このレースはのちにアレイシの世界選手権キャリアの中でも最高の一日となりました。

土曜の予選では1分37秒688を叩き出し、自身3度目、アプリリア移籍後初となるポールポジションを獲得。日曜の決勝では、逃げるマルティンを捕まえ抜き返させず最後まで完封。世界デビューから実に18年目にして初優勝を遂げました。数十年を誇るアプリリアのレースの歴史においても、ロードレース世界選手権の最高峰クラスの優勝は史上初。アレイシは32歳にして初優勝、そしてなにより「アプリリアのマシンで史上初めてMotoGPの表彰台の頂点に立ったライダー」となりました。

パルクフェルメにてチームスタッフから祝福を受け
喜びを爆発させるアレイシ
最終的なこの年の年間ランキングは4位でしたが、
第3戦終了時は自身初、かつアプリリアとして初の
年間ランキング首位に立っていました。
(写真右の緑色の表示)
アプリリアの母体であるピアジオ・グループのCEO
ロベルト・コラリーノなどから電話を受け、
パルクフェルメで座り込んで号泣するアレイシ


初優勝からの勢いは止まらず、次戦のアメリカズこそ11位に沈むも、第5戦ポルトガルから第8戦イタリアまで4戦連続で3位表彰台を獲得。その後もコンスタントにトップ10内でレースを走り抜き、アラゴンで再び3位表彰台。最後まで世界チャンピオンを狙える位置でシーズンを戦い、年間獲得ポイントは自身歴代最高の212ポイント、年間ランキングももちろん自身歴代最高の4位となりました。

かつては同郷の世界チャンピオン獲得経験のあるライダーから、「15.6年も世界選手権に参戦しておいて優勝はおろか2.3度(当時)しか表彰台に乗ったことがないくせにプロライダーを名乗り続けているだなんてバカげている」などと揶揄されたこともあるアレイシ。どんなに環境が悪くとも、マシンが走らなくとも、チームメイトに恵まれなくとも、自分の道を歩み続けてきた結果を、この年の成績が物語りました。自身が長い年数を費やして開発したアプリリア・RS-GPの戦闘力、そしてなによりアレイシのプロライダーとしての実力を完全に示し、飛躍は翌年も続きます。

2023年、アプリリアのファクトリー体制2年目。アレイシは表彰台獲得数こそ3度に留まったもののイギリスとカタルーニャで年間2勝を記録。そしてなによりカタルーニャではスプリントと決勝のダブルウィンを記録、しかも決勝においては2位にチームメイトのビニャーレスが入り、アプリリア史上初のワンツーフィニッシュを達成しました。

土曜スプリントに続き日曜の決勝も制したアレイシ
ビニャーレスと共にワンツーフィニッシュを飾り、
お互いのマシンを交換してのウイニングランを披露
スズキ時代には果たせなかったチームメイトとの、
ビニャーレスとの表彰台登壇を果たしました

そして今シーズン2024年。第5戦フランス時点までは、リタイアがあったスペインを除き全てのレースでトップ10入りを果たす安定感を見せていましたが、ホームラウンドであるカタルーニャGPの週に会見を開き、2024年シーズン限りでの引退を発表しました。しかしここでもまたドラマチックな展開が起こります。引退発表から2日後の予選で、カタルーニャサーキットの従来のコースレコードを更新するタイムを叩き出し、予選1位・ポールポジションを獲得。そして土曜のスプリント決勝では、5番手あたりからじっくりレースを進めると、先頭に立ったライダーがあれよあれよと転倒していき、ラストラップでトップにたつとそのまま優勝!引退発表直後のレースで、ポールトゥウィンを決めました。

自身も観客も大興奮のスプリント優勝

Moto2カタルーニャでアレイシが初表彰台を
獲得した時には一介のGP125チャンピオン
でしかなかったマルク・マルケスも、
13年後の今や8度のワールドチャンピオン(右)

そして次戦のイタリアGP終了後には、来季からアレイシに代わってアプリリアに加入するライダーが発表されました。2025年にアプリリアに加入することになったのは、現在プラマックドゥカティに所属しながら年間ランキングトップをひた走る同郷の後輩で親友のホルヘ・マルティン。

アレイシの公式Xより
左からアレイシ、マルティン、そして
アプリリアレーシングの
チームマネージャーであるマッシモ・リヴォラ

プライベートでも親交が深く、アレイシの初優勝時に最後まで激しいバトルを繰り広げた、現在のMotoGPライダーの中でもトップ中のトップ、今シーズンの現在のポイントリーダーをチームに引き入れることとなりました。

オファーはマルティンからアプリリア側に連絡が行ったそうですが、これもひとえにアレイシの努力の成果であると言えると思います。なぜなら、中編でも書きましたがかつてのアプリリアのMotoGP界での評価は、「アプリリアで走ることはキャリアにおいて無駄な時間」とまで言われる状態でした。

そんな絶望的な状況から、真摯にチームと向き合い、マシンを作り、結果を出し、かつてのチームメイトであるトップライダーをチームに引き入れ、そのチームメイトも自分のチームで自分の作ったマシンで結果を出し、そして今チャンピオンに最も近いトップライダーである親しい後輩から自分の後釜に入るというオファーを受ける。最後の最後まで驚きと感動に包まれる信じられない展開じゃないですか?

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感情のままに綴ったのでうまく着地できている気が全くしないですが、とにかくアレイシの走りが見られるのはあと5ヶ月。最後の最後まで応援したい。もちろん私は9月の日本GPで、フル参戦ライダーとしてのアレイシの最後の勇姿を見届けたいと思います。

2022年日本GP、アプリリアブースの前の
等身大パネルと写真に収まる安田

気は早いですが、アレイシ・エスパルガロ選手、改めて21年のオートバイレーサー人生、本当にお疲れ様でした。日本GPでお待ちしております!

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