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ケインズ経済学~リフレ派の原点~

今回は主流派である「ケインズ経済学」についてアウトプットも兼ねて解説していきます!

ケインズ経済学のはじまり

古典派経済学の崩壊

経済史上、ケインズ経済学が注目を集めたのは、1929年の世界恐慌が始まりだとされています。

当時の常識だった古典派経済学の基本原則は「需要と供給は長期的に一致するから、放っておけば発展する」です。

仮に不況に陥っても、物価と労働者の賃金は経済水準に合わせて下落するので、長期的には需要と供給の一致が起こり、失業者がいなくなり経済は再び正常になると考えられていました。

しかし、世界恐慌が起こると、街に失業者が溢れ、一向に経済状況が回復しませんでした。

古典派経済学の常識が崩れたのです。

”長期的には我々はみんな死んでしまう”

ただ、古典派はその過ちを完全には認めていません。

なぜなら古典派は、需要と供給は長期的に一致すると言いますが、その時期は言っていません。

したがってその長期が、5年後か10年後か、100年後かは誰にも分かりません。

そこでケインズが言いました。

「長期的には我々はみんな死んでしまう」

超名言です!!!俺たちのケインズ様🙇🙇🙇

ケインズ理論

流動性の罠

ケインズ理論は、たとえ長期的には古典派の理論が正しいとしても、私達は長期的には待ってられないから、政府の市場介入が必要だと説きました。

そこでケインズが主張したのは、不況に陥った際の政府の需要拡大策

公共事業が有名ですが、ケインズは「公共事業に限らずお金をバラマケ」と言いました。

あと政府による需要拡大策は、政府が支出する「財政政策」だけでなく、中央銀行が金利とお金の量で経済をコントロールする「金融政策」があります。

そもそも、経済状況を通常コントロールするのは、中央銀行による金利政策です。

経済活動は、企業が事業を起こすために銀行からお金を借りることから始まります。(今はクラファンなどもありますが!)

金利は借金を返済するときに返す利子です。

金利が高いと、企業が借金しづらくなり、景気が冷めます。

逆に金利が低いと、企業が借金しやすくなるので、景気が過熱します。

ただし経済状況が極端に悪くなると、財政政策が必要になる場合があります。

金利はその気があればいくらでも上げられるのですが、景気が悪くなってどんどん金利を下げていき、ゼロまで下げても景気が良くならなければ、金利だけでは需要が拡大できなくなります。

そのような状態を「流動性の罠」と呼びます。

※流動性の罠…名目金利がゼロの場合、金融政策が無効になること

オールドケインジアンとニューケインジアン

旧来のケインズ経済学では、通常の金利政策で需要拡大ができないゼロ金利状態では、金融政策は無効で、財政政策でしか需要拡大できないとされてきました。

それが「ケインズ経済学 = 公共事業 = 財政政策」とされてきた要因です!

長い間、ゼロ金利下では金融緩和無効というのが、ケインズ経済学でもされてきました。

そして日本経済は、デフレ突入して以降の20年間ずっと、ゼロ金利政策を取っているので、旧来のケインズ経済学では、金融政策は無効ということになるのです。

そのような経緯があるため、ケインズ学派には新旧に分かれています。

旧来型はオールドケインジアン

オールドケインジアンは、今でもゼロ金利下での金融政策は無効で、財政政策が有効と主張します。

「不況なら 政府が使え 財政政策」で覚えましょう!

新型はニューケインジアン。

ニューケインジアンは、メインが金融政策、補助的に財政政策と主張します。

「不況なら 使わせてみよう 金融政策」で覚えましょう!

総需要管理政策

有効需要の原理

世界恐慌で失業者が大量に発生したのを受け、経済学にも問題解決の政策指針が求められました。

そこで1936年にケインズによって発表されたのが『雇用・利子および貨幣の一般理論』です。

まず、古典派の経済理論では、経済状況が悪くなると、同時に賃金水準も下がるため、失業者は出ないから経済への介入は不要と主張していました。

しかし、長期的には我々はみんな死んでしまうので、ケインズは失業を解消するために、政府による需要拡大政策を推奨しました。

これを「有効需要の原理」と呼びます。

(厳密には、この有効需要の原理の説明は正しくないが、分かりやすさを重視するためこの説明にしています。)

最も有名なのは、1933年にアメリカのルーズベルト大統領が行った「ニューディール政策」ですね。

(ちなみにケインズの一般理論発表より前です。)

アメリカ以外でも、世界各国で古典派からケインズ派への経済政策の転換が起こりました。

この流れを「ケインズ革命」と呼びます。

またケインズ革命により、後の福祉国家における学問的根拠の一つとされていきました。

供給力を伸ばすには、需要が大切という主張です。

そのため、国家が手厚い福祉で需要を起こすことで、供給力も伸びると考えられていました。

そのような政策を「総需要管理政策」と呼びます。

総需要管理政策の欠陥

しかし、政府の財政支出による総需要管理政策にも問題が発生しました。

なんと、供給力に上限があったのです!

ケインズの有効需要の原理によれば、需要が増えるほど、供給力も増えるとされていました。

しかし現実はそう上手く行きませんでした。

ちなみに古典派では、需要と供給が一致しているパレート最適が実現している状態で需要拡大させても、供給力はそれ以上伸ばせないため、インフレだけが加速するという主張でした。

この点については、古典派の主張が正しかったのです。

また政府が行う公共事業は、採算性を度外視しがちです。

加えて、1970年代のオイルショックでは、供給力が鈍化し、世界各国でスタグフレーションが起きてしまいました。

スタグフレーションとは、経済が停滞している状態で物価が高騰する現象で、いわゆるインフレ下の不況です。

供給ショックも問題はありましたが、財政による総需要の管理という考え方にも問題がありました。

なぜなら、政府が需要を拡大して、インフレが加速したとしても、一度始めた福祉政策を「インフレがヤバいから」いう理由で辞められる訳ないからです。

そんなことしたら、国民から猛反発を受けることが容易に予想できます。

公共事業も同様で、デフレ脱却のために公共事業をしても、景気が良くなったという理由で、道路や橋の建設を途中で辞められる訳ありません!

また、

「景気対策には公共事業を、景気を冷ますには増税を」

と言っても、増税することは簡単に決められません。

財政の予算規模は年単位で決めるし、さらに政策自体を始めるのも辞めるのも、時間がかかります。

ようやく実施されたとしても、タイムラグが発生するので、そのときの経済状況に合わない政策が取られてしまいます。

現在でもオールドケインジアンで、機能的財政論を主張する人がいるらしいですが、昔の失敗の克服法はどのようにすればいいんですかね?

ニューケインジアンとの対立

ニューケインジアンも不況期の財政出動自体は否定しません。

しかし、金融政策なら月単位で金利とお金の量を調整できますが、財政を中心にデフレ脱却しようとすると、かつての総需要管理政策と同じ失敗をする可能性があると釘を刺しています。

そのため、インフレ・デフレなどの調整は、金融政策メインと主張します。

もちろん、老朽化したインフラ整備や災害対策は必要ですが、それとデフレ脱却は別の話です。

オールドケインジアンは、財政出動を伴わない金融政策では、日銀がお金を増やしても、銀行の貯蓄が増えるだけで、市中に出回らないと批判します。

だから「政府が使え!」とオールドケインジアンは言います。

ニューケインジアンも、政府が財政支出すること自体は賛成なのですが、

なぜニューケインジアンが人々の将来予想や期待という話をするのかは、オールドケインジアンは全く分かっていません。

端的に言えば、両者の主張の最大の違いは、人々の将来予想の変更を金融政策で行えるかどうかという”期待”の存在を認めるか否かです。

ケインズ経済学 VS 新自由主義

新自由主義の台頭

一時代を築き上げたケインズ革命でしたが、オイルショックに起きた供給力鈍化によって、総需要管理政策の欠陥が明らかになり「ケインズは死んだ」とまで言われました。

それと同時に、供給力の鈍化を解決するために台頭してきたのが、いわゆる「新自由主義」です。

アメリカではレーガン、イギリスではサッチャーが、古典派の経済理論を元に対策を講じました。

まず、供給力を伸ばすためにとられた政策が、国営企業の民営化や大企業への大幅減税、福祉予算の削減などの新自由主義的な政策を実行しました。

また、インフレ抑制のための金融政策で「新理論」も導入されました。

以前解説した通り、「不換紙幣の価値 = 交換できるモノの価値」です。

これを貨幣数量説と呼ぶのですが、それを簡単な数式に表すと下記のようになります。

「お金 × 使用回数 = 価格 × 販売数」

経済学的には「貨幣量 × 流通速度 = 物価 × 実質GDP」

古典派が考えるこの式の前提では、流通速度と実質GDPはあまり変動はしないとしています。

そして、この式で物価をコントロールすると、貨幣量も相関されるということになります。

この考え方を「マネタリズム」と呼びます。

マネタリズムは、経済学者のミルトン・フリードマンが考えたものです。

(フリードマンはノーベル受賞者で、新自由主義の親玉的存在です!)

マネタリズムとインフレ目標の違い

ちなみに経済に詳しい人だと、「マネタリズム」と「インフレ目標」を混同してしまいがちだそうですが、実は違います!

「マネタリズム」は、供給力の自然増に合わせて一定の貨幣量を増加させる非裁量的な政策ですが、

「インフレ目標」は、需要喚起のために景気によって貨幣の増減を決める裁量的な政策です。

当時の経済問題はインフレでした。

そしてその原因は「ケインズ政策による裁量行政だ!」と古典派は主張しました。

なぜなら古典派は、政府は市場に介入するなという立場だからです。

とはいえ、経済では供給力は自然に上がるため、お金の量が増えないと、モノが増え、お金が増えなければデフレになります。

そのためフリードマンは、供給力の増加に合わせて、貨幣量を毎年一定割合を増やす、非裁量的な金融政策「K%ルール」を主張しました。

古典派は経済を放っておいても、長期的には需要と供給の一致で失業は解消されるため、景気対策や失業率改善のための需要拡大はしない立場です。

それに対し「インフレ目標」政策は、需要拡大による失業解消が目的の裁量的な金融政策で、お金の量はその時の経済状況によって決まります。

この違いは専門家でさも間違えている人がいるので、難しいですが覚えておきましょう!

マネタリズムの欠陥

マネタリズムの考え方では、貨幣量さえ押さえれば、同じだけ物価も下がるので、経済への悪影響なしにインフレだけが抑えられると考えていました。

しかし、いざ「K%ルール」を実行すると、物価が下がると同時に、変化しないはずだった流通速度も変化してしまい、景気減速とともに失業率も上がってしまいました。

流通速度が下がるということは、みんながお金を使わないので、経済が停滞してしまうということです。

その原因を、ケインズが突き止めていました。

それは「流動性選好説」です。

流動性選好説とインフレ目標

「流動性」とはお金のことで、「選好」は、好んで持ちたがるという意味です。

つまりケインズは、お金の量が少なくて、お金の価値が高い場合は、人々はモノとお金を交換せず、貯金したがると言ったのです!

マネタリズムには経済の基本原則が抜け落ちていたのです!

そのため、人々が貯金しまくってしまい、景気が悪くなってしまいました。

その失策を、ニューケインジアンが修正して誕生したのが「インフレ目標」でした。

インフレ目標とは、お金の量の変化で人々の将来予想を変更させ、お金からモノへの交換を促す政策です。

インフレ目標はアベノミクス第一の矢「大胆な金融政策」で非常に重要な政策です。

そのため、お金の量の変化と物価には、マネタリズムのように単純相関すると考えていません。

だからこそ、中央銀行の裁量的な政策で人々の将来予想を変化させ「期待に働きかけろ!」と主張するのが、ニューケインジアンなのです!

ニューケインジアンの歴史

リフレ派の誕生

最初に日本へ「インフレ目標」の導入を提案したのは、ポール・クルーグマンというニューケインジアンの経済学者です。

(クルーグマンもノーベル経済学賞を受賞しています。)

1998年、クルーグマンはホームページで「日本は流動性の罠に陥ってるかも」と指摘し、インフレ目標の導入を提案しました。

(流動性の罠は、金融政策が無効になるはずなのだが…)

下記に詳細を貼っておくので、読んでみてください(人任せ!)

https://cruel.org/krugman/japtrapj.html

クルーグマンの指摘後、国内でもインフレ目標の賛同者が現れました。

しかし彼らは、経済学の学派や肩書がバラバラだったため、「リフレ派」と名乗るようになりました。

リフレ派とは、クルーグマンが提案した「インフレ目標」に賛成する人のことを指します。

ただ最近は、「リフレ学派」や「リフレ経済学」が独立して存在してるせいか、リフレ派はケインズ派と対立していると誤解されています。

その結果、デフレは「貨幣現象 VS 総需要不足」や「リフレ派 VS ケインズ派」といわれているのです…

しかしそのような言い分は、前提知識があれば的外れな考え方だということが分かりますね!

ただ、そう誤解されてしまうのには歴史的経緯があるのです…

リフレ派が誤解される歴史的経緯

経済学的に、お金の量の変化が経済に大きな影響を与えるとされてきました。

その要因は、かつての恐慌とその克服の研究が進んできたからなのです!

そして、その研究の先頭に立ち、「インフレ・デフレは貨幣現象」と言ったのが、ザ・新自由主義者のミルトン・フリードマンなのです!

フリードマンはケインズ政策である「総需要管理政策」を徹底的に批判した人なので、ケインズ派はフリードマンが大嫌いです。

ただ、恐慌研究をしていたのはフリードマンだけでなく、リフレ派のベン・バーナンキ(後にFRB議長になったマクロ経済学者)もその説に賛同しています。

(ちなみにバーナンキは2022年にノーベル経済学賞を受賞しました。)

なので、フリードマンとバーナンキは対立した関係ではありません。

というか、古典派とケインズ派は、民主主義と独裁主義のような真反対の関係でもないのです!

ある時は古典派が間違い、ケインズ派が修正します(もちろん、その逆も!)

そうして、過去の恐慌研究とともに、ケインズの「総需要管理政策」を批判したフリードマンの「マネタリズム」を、さらにケインズ経済学で修正したのが「インフレ目標」なのです!

ただ、経済学の知識がある段階で止まっている人は、「インフレは貨幣現象」はフリードマンが言ったことだから、リフレ派を「新自由主義者だ!」と言ってしまうのです…

「アベノミクスは新自由主義だ!」という主張も同じ理屈です。

ただ、日本にインフレ目標を提案したクルーグマンも、「消費税増税で真逆の財政政策をしているので、金融政策を行うと同時に、もっと財政出動せよ!」と主張しています。

両方やれで済む話なのですが…

そのため、古典派とリフレ派で対立する必要はないのです!

しかし、よっぽど新自由主義者であるフリードマンが嫌いのか、「金融政策は効かないから財政出動せよ!」とクルーグマンも主張していると捻じ曲げようとするのです。

とにかく、「財政出動せよ!」という主張は同じだということは理解しておきましょう!

参考

https://www.youtube.com/watch?v=ejJsM9q9WcI&list=PLWIjb7tJOGGsIVDW4FANKYF7FmAVvEC5I&index=12

https://www.youtube.com/watch?v=7tYB0t3obaQ&list=PLWIjb7tJOGGsIVDW4FANKYF7FmAVvEC5I&index=13

https://www.youtube.com/watch?v=YKNs-kIuAvk&list=PLWIjb7tJOGGsIVDW4FANKYF7FmAVvEC5I&index=14

https://www.youtube.com/watch?v=ZaIes-4P0IM&list=PLWIjb7tJOGGsIVDW4FANKYF7FmAVvEC5I&index=15




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