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「ルパン三世VSキャッツ・アイ」~気楽に楽しめるけど・・・・

「ルパン三世VSキャッツ・アイ」

1月27日よりAmazon Prime Videoで独占配信が開始されたオリジナル作品。
「ルパン三世」アニメ化50周年・「キャッツ・アイ」原作40周年記念としてコラボレーションされた。

「ルパン三世」にとっては「ルパン三世VS名探偵コナン」(2009年・2013年)に続くコラボ第2弾である。
怪盗キャッツ・アイとそれを追う刑事・内海の攻防が物語のベースという「キャッツ・アイ」は、そのフォーマット自体が「ルパン三世」と親和性が高い。
また、アニメ(1983年~1985年)としても「ルパン三世 TV第2シリーズ」(1977年~1980年)の後に、同じトムス・エンタテインメント(制作当時は東京ムービー新社)で制作され、こだま兼嗣平山智など、スタッフも一部共通しているため、「ルパン三世」シリーズの系譜にある作品と言える。

作品の感想

作品の魅力はコミックナタリーで存分に紹介されているので、そちらに任せるとして、ここでは率直な感想を書こうと思う。

はじめに言っておくと、総合的には酷評である。
作品を楽しんで視聴し、ケチを付けられたくない方には通読をオススメしない。

全体の感想

コラボ作品は「お祭り」だと思っているので、それぞれの作品のキャラクターが生き生きと活躍さえしていればそれでも良いのだが、正直、中身はいつもの「ルパン三世TVスペシャル」である。

つまりは、ルパンがお宝を狙い、競合する組織が登場し、可憐なゲストヒロインを助け、盛大なアクションをするということである。

「ルパンVSコナン」は推理・謎解き要素や、次元×コナン不二子×灰原など、コラボらしい組み合わせを見ることが出来たが、本作は来生三姉妹が「可憐なゲストヒロイン」枠に収まり、「ルパンが狙うお宝」が来生三姉妹も狙うミケール・ハインツの絵というだけである。

ジェームズ・ボンドが女性を口説くように、車寅次郎がマドンナに惹かれ失恋するように、毎度おなじみで良いと言ってしまえばそれまでだが、せっかくのコラボ作品でしか生み出せない化学反応みたいなものは、残念ながら感じられなかった。

設定について

舞台は1981年の東京と「キャッツ・アイ」連載初年に設定されているが、舞台をこの時代にした意味はあまり無い。
登場するガジェットが最近のIT機器では無いだけで、80年代の世相やバックグラウンドみたいなものが感じられない。80年代の東京の街並みがはっきりと映るわけでも無く、背景にある装置がブラウン管だったり、物理的なスイッチ多かったりするだけなのである。それでいてキャラクターが身に付けるインカムは無線式で現代のワイヤレスイヤホンのようなのもちぐはぐに感じた。

ルパンのジャケットがピンクなのは、80年代の「ルパン三世」は「ルパン三世PARTⅢ」(1984年~1985年)が放送されていたことからのようだが、これにも特に意味は無い。
次元や五エ門はTV第1シリーズ準拠のカラーリングであるし、PARTⅢ自体はTV第2シリーズまでより若干年齢設定が上の雰囲気があったが、本作でそのような印象も受けなかった。
むしろ、1981年であれば、TV第2シリーズの最終回「さらば愛しきルパンよ」と同じ設定年なのだから、赤でも良かったくらいだ。

作画について

今回、作画は全編3Dを取り入れたセルルック3Dで作画されており、ルパン三世の印象が大きく変わっている。
近年「ダイの大冒険」(2020年~2022年)や「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」(2022年)など往年の作品にも同様の技術が使用され、従来のセルアニメの表現と、激しいバトルなどでは精緻なアクションを表現できる3Dの良いとこ取りが成功している。
「ルパン三世」は、「ルパン三世 THE FIRST」(2019年)で、フル3DCGが実現しているが、欧米的な3Dキャラクター表現に抵抗がある日本のファンにも、このセルルック3Dであればあまり違和感なく受け入れられる可能性はある。

しかし、今回についていえば、作画の簡略化の仕方や3Dの処理の仕方のせいか、ゲームのムービーパートを見ている印象が拭えず、昭和の怪盗のコラボなのであれば、セル風アニメに拘った方が良かったのではと思ってしまった。

ストーリーについて

キャッツ・アイの動機として、父・ミケール・ハインツを絡ませるのは妥当だとしても、ルパン三世の「カリ城」展開はどうにかならないものか。
今回も、昔ハインツに受けた恩義のためにルパンはキャッツ三姉妹に手を貸し、お宝の裏には世界を統べる陰謀があるわけだが、そんな話ばかりで少々辟易する。
両作品のキャラクターを傷付けられないから仕方がないのは分かるが、三姉妹(特に瞳と泪)の個性がもう少し出るような展開に出来なかったのだろうか。
また、組織と黒幕の存在も、物語冒頭から透けて見えてしまうのは、なんとも残念である。

声優について

「ルパン三世」は2021年の小林清志の勇退を持って、全キャラクターが交代したが、「キャッツ・アイ」は亡くなった藤田淑子以外は、オリジナルキャストを起用している。
しかし、かつてのルパンがそうであったように、来生愛の坂本千夏はいい加減、高校生には聞こえず、内海刑事の安原義人も渋すぎて、若き刑事には思えない。
オリジナルキャストを使用してくれるのはファンとしては嬉しいし、ありがたいのだが、もし今後も「キャッツ・アイ」シリーズを続けるのなら、声優交代を検討した方が良いかもしれない。

音楽について

音楽は「ルパン三世」・「キャッツ・アイ」ともオリジナル音源であるから「キャッツ・アイ」など特に懐かしさも相俟って、テンションが上がる。
しかし、心配なのは「ルパン三世」の大野雄二である。
昨年、体調不良により一切の公演を中止し、療養生活に入っている。
2022年12月から配信の「LUPIN ZERO」はTV第1シリーズの音楽担当であった山下毅雄の楽曲を使用していたので、大野雄二の楽曲提供が無くても不思議は無かったが、今作は本来であれば大野雄二本人が編曲や本作用の楽曲提供があっても不思議はない(「ルパンVSコナン」では、「THEME FROM LUPIN III 〜2013 WITH CONAN ver.-」を提供している)。
しかし今作ではこれまでの楽曲からの選曲に止まっていることから、大野雄二は仕事に復帰していないことが窺える。
一日も早い回復を祈るばかりである。

それでもなんとなく出来てしまう懐の深さ

回を重ねる毎に様々な意味で経年劣化が激しかった「ルパン三世TVスペシャル」に辟易していた私にとっては、それに類するような今作もあまり嬉しい作品では無かった。

魅力的な作品同士のコラボ、作画には新しい試み、地上波放送ではない制作形態など、面白くなりそうな要素はあったはずである。
双方のキャラクターが溢れかえり「お祭り」で終わるなら、いっそ「LUPIN ZERO」のように複数話の短編として、それぞれキャラクターを深堀した方が良かったのかもしれない。

そんな作品ではあったが、それでもなんとなく作品として出来てしまう「ルパン三世」というフォーマットの懐の深さと、安易に手を出すと危険であるということを痛感した次第である。

最後に

2023年1月24日、配信に先駆けて劇場での舞台挨拶付き上映会がTOHOシネマズ六本木で行われた。
平日であることに加え、日本列島に寒波が迫っており、東京も雪が降るのではと言われるような日であったが、約500席の座席はほぼ埋まり、年齢層としては40~50代が多い印象であった。
登壇者は、ルパン三世役の栗田貫一、来生瞳役の戸田恵子、監督の瀬下寛之。シークレット・ゲストとしてキャッツ・アイに扮した森三中が会場を盛り上げた。

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