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香りがイメージをスパークさせる~香道体験記~

小倉城庭園で開催されている「香道講座」に時々参加している。流派としては志野流で、室町時代から続く「道」だ。小倉城庭園の講座に関しては
こちらに詳しく書いたのでお読みいただけたら。

先日、香道の面白さをさらに理解できるようなことがあったので、個人のnoteに書いていこうと思う。

香道志野流の若宗匠・蜂谷宗苾さん来園

令和6年2月初め、小倉城庭園で開催されている香道メンバーにより、志野流の若が来園しての年賀の聞香会が開催された。私も初めの30分だけ列席させていただき、若宗匠のお手前で香を聞くことができた。(香道の場合は、香りを嗅ぐのではなく、香を聞くと表現する)

2つの香が用意され、順番に香を聞きながら、若宗匠の解説を聞くという、とても贅沢な時間だった。

まがきの梅

「これは”まがきの梅”という名前です。」と、香木の名前が告げられた。まずひとつめの香を聞く。

甘い香りの中に少しだけ酸味を感じる。とても上品で丸みのある味。粗さのない香り。

「この香りは、甘味と酸味があり、少し苦味も感じられます」とは若宗匠の言葉。私の感覚では苦味を感じることはできなかった。

伽羅でありグレードが中の中だと説明を受けたあとに、香木の名前についての話があった。「この名前を付けるのは、家元の役目です。家元が木と長い時間をかけて対話し、その印象を、昔の和歌を参照したり、言葉を探したりして、名前をつけるのです」というような話だった。

後から”まかきの梅”について調べた。(その場で「どのような漢字ですか」とは畏れ多くて聞けなかった)
「間垣の梅」なのか「籬の梅」なのかはわからないが、竹・柴(しば)などをあらく編んで作った垣の間から梅の花の香りが漂ってくる瞬間の香りを表現された名付けなのではないかと思う。確かに、ふと漂ってくる香りのような弱い表現ではなく、見えないけれど強く梅の香りを感じる瞬間のほうがしっくりくる香りだと思う。

けさの白雪

続いて「これは”けさの白雪”という名前です」と、香の名前が告げられ、私のところに回ってきた。

とにかく角のない香り。薄味のようには思えるが、いくつかの味がバランスよく配分されているにも関わらず統一感のある和食といったイメージ。

そうか、この香りを家元は”雪”だと捉えたのかと思った瞬間、イメージがバッと広がった。

家元が木(自然)と対話し、その体験を一言の文字に落とし込む。その一言は、遥か昔の和歌を参照し、その作者が感じた瞬間の記憶までさかのぼることができる。平安時代や鎌倉時代から、雪の匂いというのは変わらないものだろうかと思う。自分自身についても雪の記憶が蘇ってくる。子どもの自分が積もった雪に足跡を残したとき、校舎から解放された瞬間の冬の匂い、雪の降る橋の上を酔っぱらって歩いたこと、雪の中ふたりで自販機まで歩いたこと、そんなことを思いだした。

ひとつの香りから多くのイメージが脳内に広がり、脳が突然覚醒したような感覚に陥った。自然と個人的な体験の記憶が混ざり、懐かしさや驚きや悲しみのような感情も同時に湧き出て、最終的には脳内でバンプオブチキンの『スノースマイル』が流れ始めて、イメージの広がりは終わった。最後がベタだなと、ちょっと可笑しくなった。

香道の面白さ

これまでは、香りを覚えるため集中することが自分の中では重要だったのだが、今回は集中という狭い方へのベクトルではなく、広がりを感じさせる体験だった。ただ、後から考えてみると、それはイメージの流れの中で集中できていたようにも思える。香を聞くというのはこんなにも情報量が多いものなのだと驚いた。

これが、和の「道」の、面白さなんだなと、やっと少しわかった気がした。ぜひ、ご一緒しましょう。

冬が寒くってほんとに良かった

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