お酒の物語 日本酒世代論

1970年代をピークに消費量が激減している日本酒。昨今は若干は持ち直して、輸出も漸増していたりはするものの、その消費量は全盛期の1/3以下。
ただ、約10年のサイクルで新しいトレンドが生まれており、今回はこれらを日本酒世代論として、時代背景と一緒に解説してみました。

70年代
消費量としては最盛期だったものの、ビジネスとしての中身も、お酒としての中身も好ましいモノではありませんでした。当時は高度成長のまっさなかで急増する需要に追い付くために、米で作った日本酒をエタノールや水あめで水増しした三倍酒が主流でした。元々、この三倍酒は戦後復興期に貴重な米の消費を抑えつつアルコール飲料を大量生産するための手法でしたが、コストが低い事もあり高度成長期になっても主流であり続けました。

80年代
この頃になると三倍酒はビールやウイスキーにその市場を奪われていきますが、純粋に米と麴だけで作る日本酒・純米酒への回帰が一部の地方有力メーカーの中で起こります。当初は良くも悪くも雑味が多くて燗酒向けだったものの、次第に洗練されていき吟醸酒ブームにつながっていき、これらは地酒と呼ばれるようになっていきます。
玉乃光、神亀、郷の誉、高清水、福光屋、富久娘などなど

90年代
淡麗辛口の地酒を製造する蔵元が多かった新潟県が、吟醸酒ブームの最盛期をリードしますが、その背景にあったのがガーラ湯沢の開業。
これによって週末に新潟の新雪でスキーが首都圏から楽しめるようになり、その波に乗ってスキーに押し寄せる首都圏の若者の間でブームを起こしました。最も成功したのは上善如水ですが、新潟の地酒=淡麗辛口というイメージの定着とともに、もともと地酒蔵としては規模の大きかった八海山や久保田はその地位を不動のものとしました。
八海山、久保田、上善如水、〆張鶴、越乃寒梅などなど

2000年代
米国を中心とした海外の日本食レストランの増加に伴う日本酒ブームにのって輸出事業を確立していく地酒蔵が出てきます。この時期に海外進出に成功した蔵元は個性の強くパワフルな社長や次期社長に率いられている場合が多い。また、その酒もブルゴーニュ地方の高級ワインのようなコクがあり、マイルドな口当たりのものが多い。この時期に輸出事業で最も成功したと言われる獺祭は、海外だけではなく、同時期に国内主要都市で普及し始めたダイニングという新しい飲食業態にフィットして、国内事業も大きく成長させている。
これに加えて、女性層を狙った微発泡性の日本酒が登場してきたのもこの時期で、その筆頭格が一ノ蔵の鈴音。
獺祭、南部美人、出羽桜、梵、十四代などなど

2010年代
前年代にマイルドに触れすぎてしまった反動で、生元や山廃といった手法を活かした辛口への回帰が起こる。
李白、大七、天狗舞、男山(旭川)、真澄、菊姫、雪の茅舎、新政などなど

2020年代
個人的には花酵母。花の蜜から抽出して培養した酵母によって作られる日本酒。華奢な香り故に、日本酒は日本食以外の食事とのペアリングが難しかったが、花酵母で作った日本酒はワイン並みに香りの骨格がしっかりしているので、多少の香草や香辛料が使われている料理とのペアリングが可能になる。これによって、アジア系の香草を用いることの多いコンテンポラリーキュイジーヌやフュージョン料理へ合わせる事が可能になっていくと思っています。







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