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きちんと学習・宅建過去問5【権利関係・令和元年2-1】

【問 2】 AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
2 AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
3 Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失がなければ、Aは、Bから甲土地を買い受けたCに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
4 Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失があったとしても、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。

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【思考プロセスを簡単に】選択肢1を検討します。
(1)取消と登記の問題。第三者Cは、Aの取消後に現れている(甲土地をBから売買契約に基づいて取得している)。
⇒取消した者は、取消後の第三者に対して、登記することなく、取消しにより復帰した所有権を主張できるかの問題。
(2)判例は、取消後の第三者に対しては、登記が必要であるという立場(大判昭和17・9・30)。【この知識を押さえましょう!】
(3)本問では、Aは、Aの取消後の第三者であるCに対して、自らの所有権を主張するには、登記が必要である。
(4)よって、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することはできない。
⇒選択肢1は「正」

【解説】

☆「取消しと登記」の論点を1つずつ丁寧に。
 まず、上の図で、②AがBの詐欺を理由として、AB間の売買契約を取り消した場合(96条1項)、AB間の売買契約は、「初めから無効であったものとみな」されます(121条)。わかりやすくいうと、AB間の売買契約は、契約締結時に遡って効力を失います。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
 〔以下、略〕
(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。


 さて、ここで、121条の2第1項の条文をみてください。

(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。〔以下、略〕

 先ほどみた121条で遡って無効(初めから無効)なんだけど、すでに行われちゃった取引について、どのように処理(後片付け)をすればよいかが書いてあります。
 条文をみると、原状回復義務を負うという内容が書いています(タイトルもそうなっていますね)。具体的には、本問では、AはBから受け取った代金を、一方で、Bは甲土地を返すことになります(そうすれば、契約当初の状況⇒原状に戻りますよね)。
※「原状」つまり、契約当初のもとの状態に戻すのであって、「現状」ではない点に注意してください。


 他方、BはCに甲土地を売却しています。つまり、BはCにも甲土地を渡す義務を負っているということになります。
 そうすると、BはAに甲土地を返さないといけないし、Cにも甲土地を渡さないといけない。これって同時に行うことができるかというと、できないですよね。
 この状況は、Bを起点として、Aに甲土地を売却する一方、Bが同じ甲土地をCにも売却するという二重譲渡の場面に似ていることが分かります(上の図のオレンジの矢印を参照してください。Bを起点とした二重譲渡類似の関係が分かると思います)。
⇒二重譲渡の場合、AとCの優先関係は、民法177条の規定に基づいて、登記を先に備えた方が優先するんだということで権利関係が整理されましたよね。
 判例は、取消し後の第三者については、このような177条を適用し、登記を先に備えた方が所有権を主張できるとしています。

☆取消しと登記の問題

 BC間の売買契約のように、物権変動そのものではなく、AB間の契約取消しの場合にも177条は適用されるか、いいかえると、AB間に物権変動があったとみてよいかという問題(177条は不動産物権変動について規定した条文ですよね)。⇒判例は、取消し後については、はこれを肯定している。



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