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きちんと学習・宅建過去問1【権利関係令和元年1-1】


【はじめに】
 宅建試験対策の過去問集には、いろいろな種類のものが出版されています。大手スクールならではの合格者正答率(不合格者正答率)が掲載されたものから、初学者向けにビジュアルを工夫したものまで様々です。それらを否定する気は全くありません。初めて法律を学習される方にとっては、見やすいものが使いやすい(飽きずに学習を続けられる)でしょうし、大手スクールのデータは、効率的・効果的な学習(あるいは戦略的な事前準備)を進める上で不可欠だと思います。
 そのような意義のある過去問集がある中で、あえてこのような記事を書こうと思ったのは、(本だと紙面の制約があるためやむを得ないからだと思いますが)、どうしても解説部分に解答に至る法的思考のプロセスが十分に示されておらず、法律実務家(法科大学院の非常勤講師)として、各種法律資格の入口ともいえる宅建試験の学習者にとって「これでいいのかな?」という思いをもったからです。
 「過去問と同じ内容なら解けるけれど、少し変えられると間違えてしまう…。」こんな声を多く聞きます。それは、過去問の知識だけ(問題と解答そのもの)を暗記していて、解答に至る法的思考のプロセスができていないからだと思います。このプロセスは、最初は教えてもらわないと難しいことだと思います。
 貴重な時間を使って苦労して覚えるなら応用の利く形で、また、これからの学習、法的問題の解決に役立つ形で理解していただくのがよいのではないか、そのような思いで本記事を書こうと思いました。
 実務家がどのような法的思考をして問題を解いているか(結論を導いているか)体感してみてください。では、順番に令和元年度の第1問目からみていきましょう!

【問1】Aは、Aが所有している甲土地をBに売却した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1  甲土地を何らの権原なく不法占有しているCがいる場合、BがCに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには、甲土地の所有権移転登記を備えなければならない。
2  Bが甲土地の所有権移転登記を備えていない場合には、Aから建物所有目的で甲土地を賃借して甲土地上にD名義の登記ある建物を有するDに対して、Bは自らが甲土地の所有者であることを主張することができない。
3  Bが甲土地の所有権移転登記を備えないまま甲土地をEに売却した場合、Eは、甲土地の所有権移転登記なくして、Aに対して甲土地の所有権を主張することができる。
4  Bが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したFは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。

今回は、選択肢1を検討します。

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まず、図を描きます。自分が分かればよいので、私は登記は「ト」、請求は「sk」と書きます。

【思考プロセスを簡単に】
(1)民法177条の問題。より具体的には、177条の「第三者」に不法占有者が含まれるか(含まれるとすれば、登記が必要となります)の問題。
(2)判例は、177条の「第三者」に不法占有者は含まれないという立場
   <本問で覚えるべきルールはこの判例の知識です!>
(3)本問では、Cは不法占有者だから177条の「第三者」には含まれない。
(4)よって、Bは、Cに対して登記なく所有権に基づく明渡請求ができる。
⇒この選択肢1は「ゴ」

【解説】まず、本問で想起すべき民法の条文は何(条)でしょうか。
⇒AがBにA所有の甲土地を売却していることにより、AからBに甲土地の所有権が移転するという物権変動(具体的にいえば、Aは甲土地の所有権を喪失し、Bは甲土地の所有権を取得しています)が生じています。

 そして、売買契約の当事者ABのほかにCも登場しており、問題文では、BがこのCに対して、「甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには…登記を備えなければならないか?」という内容が問われているので第三者への対抗問題であるということが分かります。ということは、有名な民法177条を想起すべきですね。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

AがBにA所有の甲土地を売却していることにより、Bは、甲土地という不動産に関する物権(所有権)を取得しています。そして、売買契約の当事者ABのほかにCも登場しています。Cが177条に規定する「第三者」に該当すれば、甲土地の所有権を取得したBは、登記をしなければ、Cに対抗できないということになります。

 では、Cは「第三者」にあたるでしょうか。「第三者」の意味(範囲)が問題となります。具体的には、不法占有者は「第三者」に含まれるのか?ということが問題となります。

 民法の条文では、不法占拠者が「第三者」に含まれる/含まれないということについては何ら規定していません。そのため「第三者」という177条の文言を解釈していくことが必要になるのです。
 判例は、177条の「第三者」とは、当事者およびその包括承継人(→相続人をイメージ)以外の者であって、登記の欠缺(→不存在)を主張する正当な利益を有する者をいうとしています。
そして、判例は、不法占有者は、177条の「第三者」にあたらないと判示しています(最判昭和25・12・19)。不法占有者は、登記の欠缺(→不存在)を主張する正当な利益を有するとはいえないですからね。不法占有者に登記の不存在を主張して争う(土地の占有を続ける)利益を認める必要はないですよね。
 この判例のルールを選択肢1の問題文にあてはめれば、答えは「誤」と出ます。

【実践的には】

本番では、1は明らかに誤りと判断できますので、ここで答えが出てしまいます。あとの2から4は、「正」の選択肢であることを確認する程度に見ていき、やはり1で間違いないよねということを確認していきます。(2から4の検討に時間はかけたくないところです)。




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