見出し画像

経済学入門書掲載の図と、その作成プログラムを公開【1】世界銀行データ編


はじめに

私が2023年に上梓した経済学の入門教科書『経済学って何だろう-現実の社会問題から学ぶ経済学入門-』(新世社)では、副題通り現実の社会・経済問題を考えるために、現実のデータを使った多くの図表を使っています。例えばこのような感じです。

図1-1:主要国の名目GDPの推移
図5-5:日本のフィリップス曲線
図10-2:民主主義度合いと1人あたりGDPの関係

この記事、およびこれからのいくつかの記事では、2024年8月現在の最新のデータを使ってアップデートされたこれらの図と、それを作成するための手法とプログラムを公開します。

データの加工と図の作成はデータ分析ソフトStataを利用しており、データの取得は、プログラム言語のRを利用するもの、Stataを利用するもの、手動でウェブサイトからダウンロードするものの3つのパターンがあります。将来的にはRですべて作成できるようなコードも公開したいと思っていますが、今のところ私自身がより習熟しているStataでデータの加工・図の作成のプログラムを書いています。すみません。

教科書の常として、本に掲載した図はどんどん古くなっていきますが、ここで公開するプログラムを使えば、毎年最新のデータを反映した図が簡単に作れます。ですので、この教科書を講義で利用していただいている教員の方々、およびこういった図を描いて経済を分析したいと考えている全ての方々に、このプログラムを利用していただければありがたく思います。

世界銀行のデータを取得する

『経済学って何だろう』では、世界銀行のWorld Development Indicators(WDI)のデータをたくさん使っています。WDIは、1960年から現在まで世界の256か国・地域の14,000個の変数をカバーしており、国レベルのデータとしては非常に充実したものです。なお、多くの変数については、毎年8月頃に前年のデータがアップされます。

WDIのデータは世銀のウェブサイト上から手動でとることができますし、サイト上で簡単な図をつくることも可能です。さらに、このデータをAPIを利用して取得するためのパッケージがRやStataで整備されており、WDIを継続的に利用する場合には、これらのパッケージを活用することで、より効率的にデータを取得することができます。

ここでは、Rのwbstatsというパッケージを利用しています。Stataのwbopendataというパッケージもあるのですが、たくさんの変数や国についてのデータを取得したいときには、小分けにしてダウンロードする必要があり、wbstatsを使っています。もしStata専門でRがよくわからないという方がいれば、wbopendataを使って、もしくはウェブサイトから手動でデータをダウンロードしてください。

wbstatsを使うと、例えば以下のコードに示されるように国と変数と年を指定するだけで、WDIのデータが取得できます。コードの最初の部分では、"NY.GDP.MKTP.CN"というコードで表される「現地通貨建ての名目GDP」を"GDP_nom_LCU"という名前をつけてダウンロードしています。ただし、"NY.GDP.MKTP.CN"といった変数コードは、WDIのサイトのSeriesのタブの各変数の左に表示されるiマークをクリックして調べる必要があります。

library(wbstats)

d <- wb_data(country = "countries_only",
             indicator = 
               c(GDP_nom_LCU = "NY.GDP.MKTP.CN", # GDP (current LCU)
                 GDP_real_LCU= "NY.GDP.MKTP.KN", # GDP (constant LCU)
                 GDP_nom_USD= "NY.GDP.MKTP.CD"), # GDP (current $)
             start_date = 1960, 
             end_date = 2023)

write.csv(d, file = "WDI.csv")

以下のzipファイルには、『経済学って何だろう』で使われたWDIデータを取得するためのRのプラグラムWDI.Rが含まれています。このRプログラムを実行することで、WDI.csv, WDI_LDC.csv, WDI_trade.csvという3つのデータファイルが作成されます。

データを加工して図を作成する

これらのデータを、Stataによって加工して図を作成していますが、そのためのプログラムは3つのdoファイルWDI.do, WDI_LDC.do, WDI_trade.doに分かれており、上記のzipファイルに含まれています。

以下のリストがこれらのプログラムで作成できる図です。多くは日本を含む主要国のGDPやインフレ率などの経年変化を追ったものですが、2024年8月現在で『経済学って何だろう』を出版した時から1年が過ぎていますので、1年分新しいデータが付け加わっています。全ての図は上記のzipファイルに含まれています。ぜひご活用ください。

  • 長期のマクロ経済学関連

    • 図 1-1 日米中独のGDPの推移

    • 図 1-2 主要国の一人当たり実質GDPの推移

    • 図 1-8 主要国の居住者による特許出願件数の推移

    • 図 2-2 日本のGDPとGNIの推移

    • 図 2-3 日本の名目GDPと実質GDPの推移

    • 図 3-5 日米独のGDPに占める製造業のシェアの推移(%)

  • 短期のマクロ経済学関連

    • 図 3-14 主要国の完全失業率の推移(対労働力人口比%)

    • 図 5-2 日米のインフレ率の推移

    • 図 5-3 日米の消費者物価指数の推移(1995年=100)

    • 図 5-4 日本の所得変化率とインフレ率の推移

    • 図 5-5 日本のインフレ率と失業率の関係(フィリップス曲線)

  • 国際経済学関連

    • 図 7-1 世界各国の貿易総額の推移

    • 図 7-2 世界各国の対外直接投資総額の推移

    • 図 7‑3 世界各国の国際貿易・投資総額の対GDP比の推移(%)

    • 図 7-4 輸出額(対GDP比)と1人あたりGDPの相関

    • 図 7-7 世界平均・主要国の平均関税率の推移

  • 開発経済学関連

    • 図 8-2 開発途上国・中所得国の実態

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?