Jリーグクラブの災害ボランティア活動のこれから~地域に寄り添うクラブのために~

 まず最初に、今回の熊本県および鹿児島県を中心とした豪雨災害によって命を落とされた方のご冥福と、被害に遭われた方に心からお見舞いを申し上げます。コロナ禍において、ウイルス感染にも配慮しつつ復旧復興を目指すというのは未だかつて誰も経験のないことですが、必ず乗り越えられると信じて一日も早い復興をお祈りしています。

 今回の豪雨災害において、甚大な被害を出した人吉市の球磨流域で5日の午前中、ロアッソ熊本ジュニアユース人吉のスタッフや選手、保護者の有志が水が引いたあとの人吉市中心部で泥や瓦礫を片付けるボランティア活動を行いました。その際に朝日新聞社、毎日新聞社が撮影した写真にチームの半袖Tシャツに運動靴姿で泥さらいを手伝うジュニアユース生たちの姿が映っていたことで、破傷風菌など様々な細菌感染の可能性が考えられる作業に中学生を動員していたこと、その際の服装が災害ボランティアとして不適切とも言えるような軽装だったことからツイッター上でいわゆる「炎上」が起こり、中にはチームのエンブレムが入ったチームカラーの赤いシャツで作業をしていたことから「クラブの宣伝のために子供たちを危険にさらし、新聞社に瓦礫撤去の写真を撮らせて美談に仕立てようとした」などといういわれなき批判もロアッソ熊本のクラブ本体にぶつけられました。
 一方で作業を行ったのはジュニアユースの選手の関係者の自宅周辺中心で、災害発生から間もない、物資などがまだ整っていたなかったことから最低限の装備で作業をしたことに熊本のサポーターを中心に同情を示す声も聞かれました。

 この件について、ロアッソ熊本は公式サイトにて

 選手の安全を預かる立場として作業にあたり服装や準備物など指導が行き届かず、ご指摘のお声を頂戴しております。ご心配をお掛けしましたことをお詫び申し上げます。またファン、サポーター、スポンサーの皆様にもご心配をお掛けしお詫び申し上げます。今後の復旧復興活動の際には十分に留意し取り組みます。

とコメントしています。

 今回の災害ボランティアにおいて、問題になってくるのはジュニアユースチームが取った行動が正しいか間違っているかではなく、そのゴーサインを出す判断が現場に、クラブに委ねられていることと、その行動に対して何の保障も取られていないことだと私は考えます。

 どういうことかを書く前に少々私の体験談を書かせていただきます。
私は大学生のころアルバイトで警備員の仕事をしていた時期があります。その業務の中に大阪市内のとある駅のプラットホームで夜9時から終電が発車するまでホーム上を巡回するお仕事がありました。時間帯が時間帯なだけにホーム上にはいろいろなお客様が電車を待っておられます。とくにその駅は繁華街が近かったこともあってお酒を飲んで酔っている方が他の駅と比べとても多かったです。そうなってくると酔ったはずみで駅のホームから転落してしまうお客様が出てくるリスクも出てきます。それで警備員を配置することになったのです。そしてこの業務に携わる我々警備員には警備会社から口酸っぱくこう言われていました


 ホームから転落したお客様を発見した際は非常停止ボタンを即座に押下し、絶対に駅のホームから線路上に降りるな

 例えば線路に人が転落したのを見ていた警備員が線路に降りて救助したら。それを見ていた周りのお客様からは「勇気ある行動だ」と言われるかもしれません。助けられるかもしれない命が目の前にあって、このままでは電車に轢かれてしまうとなれば助けたくなるのは人間の性かもしれません。
 しかし、もしとっさのその行動で転落した人も、そして自分も、命を落としたら・・・。
 現場検証のため電車は止められ、何万人という人に影響がでます。その被害の賠償請求は遺族にいきます。そして転落した人の遺族から「お前のせいで○○は死んでしまった」といわれ損害賠償を請求されるかもしれません。
 警備会社だって警備員1人の独断専行の責任を負うことはできません。そうなったときにいったい誰が責任を負うのか。そういった責任が負えないから、負うリスクを回避するためにこういうルールがあるんだと、警備員時代に教えられました。

 今回の災害ボランティアを例にとると、物資がまだ行き届いていないという状況があったにしても、瓦礫や泥の撤去作業をするための十分な装備をしないまま作業に子供たちを手伝わせるというのは、正しいか間違っているかという前に、大きなリスクであることは間違いありません。

破傷風は死亡率50%と言われる恐ろしい病気です。もし今回、ロアッソ熊本ジュニアユース人吉のスタッフや選手、保護者の中に破傷風菌に感染し、万が一命を落とすようなことがあった場合、いったい誰が責任を取れるのでしょうか。遺族から損害賠償をクラブが求められた時に、それをクラブは払えるのでしょうか。

 現状、こういった災害ボランティア活動にJリーグのクラブ本体および外郭団体が関わる際の明確なガイドラインというものはなく、クラブ個々の判断に任せられています。そのため、ボランティア活動中における傷病の発生、および重大な案件が発生した場合の責任の所在は不明瞭なままです。

 私が応援しているAC長野パルセイロの本拠地、長野市も2019年10月の台風19号による豪雨災害で練習拠点の千曲川リバーフロントが所在する千曲川流域を中心に堤防が決壊し甚大な浸水被害を被りました。もしかしたら、今回ロアッソ熊本のジュニアユースチームやその関係者たちが取った行動と同じことをパルセイロの選手や関係者たちもやろうと考えたかもしれません。だからこそ今回のことは決して他人事とは思えないのです。

 私が一番恐れていることは、今回の災害ボランティア活動がネット上で炎上したことを受けて他のJリーグクラブやスポーツチームが自然災害発生時のボランティア活動に及び腰になってしまうことです。
 そういったことを防ぐためには、Jリーグクラブが災害ボランティア活動をする際の装備や服装、条件についてJリーグ側でガイドラインで細かく定めて、そのガイドラインの範囲内の活動は全てJリーグの責任の下で行い、もし傷病等が発生したり人的被害が発生した場合は全てJリーグが責任を取るということをはっきり明示することだと思います。

 常に自然災害と隣り合わせの環境で生活をしていると言っても過言では無い災害大国の日本において、今後もホームタウン内で発生する自然災害に対してJクラブが災害ボランティア活動に携わる機会はあると思います。責任の所在を明確にするとともに、Jクラブが安心して地域復興に力を貸す判断を下せる状態を作ることが必要だと思います。

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