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ハンド・イン・ハンド(HIH)エルサレム校   父母たちのインタビュー 3

私は将来、私の娘をエルサレムのハンド・イン・ハンド(Hand in Hand)幼稚園に通園させたいと思っている。私はこの学校を選択した親たちに関心を持った。そこで2009年12月、仕事の合間をぬって、それぞれ宗教の異なる親にインタビューをした。

ロザンヌ・アイード (アラブ人母親)
宗教: キリスト教
職業: ソーシャルワーカー
出身地: ガリラヤ地方、エラブン
学歴: エルサレム・ヘブライ大学卒業
現在テルアビブ•バリラン大学で公共政策の修士課程に在学中
息子: 17歳,13歳、エルサレム校に在学中(HIH 歴 9年)

子供を通わせた動機は?
夫と私は、北部イスラエル、ガリラヤ地方のアラブ人として育ちました。この地域のアラブ人はイスラエル国籍を持ち、イスラエル建国以降はイスラエル国民になりました。私たちはアラブ人として、心情的には占領された民族という感情はありますが、現実的にはこの国の国民としてユダヤ人と一緒に暮らしていかなければなりません。夫と私は、エルサレムのヘブライ大学を卒業して、そのまま仕事の関係でエルサレムに住むことになりました。

子どもが生まれてどのような教育をしようかと考えた時、当時のエルサレム居住のアラブ人には、東エルサレムの公立アラブ人学校か、私立のキリスト教系学校への進学か、2つの選択肢がありました。公立は学力レベルが低いので行かせたくなかったのです。長女(21歳) の時はまだ HIH がなかったので、私立のフランス系キリスト教学校に通わせました。しかし、この学校は、私たちが本当に望んだ環境にあるとはいえませんでした。

私たち夫婦はリベラルな考えを持っており、男女別の学校や宗教的な教育は望んでいません。またガリラヤ地方では、日常生活ではアラブ人とユダヤ人の接触があります。だからアラブ人社会といってもアラブだけ、というわけではないのです。また子どもたちにも、将来私たちのように、ヘブライ大学のような大学に進学してもらいたいと考えています。 そうするとヘブライ語の能力も重要になります。私自身、大学時代、ヘブライ語で苦労しました。日常レベルでは使いこなせても、高いアカデミック・レベルのヘブライ語についていくのが大変でした。

もう一つ、HIH はユダヤ文化とアラブ文化を平等に取り扱っている。子どもたちもアラブ人として誇りを持つことができます。しかし、ユダヤ人学校に通うアラブ人生徒の立場では持つことができません。これらがまさに私たち夫婦の望んでいた教育だったのです。

実際に子どもを通わせて:
娘と息子たちは、異なる学校生活を送りましたが、実際は我が家の理念としてユダヤ人との共存を教えてきたので大きな違いはありません。私たち北部のイスラエル•アラブ人の心情は複雑です。パレスチナ•アラブ人としてのアイディンティーと同時にユダヤ人社会とも密接に繋がっているのです。この点が東エルサレムのアラブ人とは微妙に違います。彼らの中にはイスラエルを認めることに抵抗を感じる人もいますが、彼らには私達のようなイスラエル国民としての権利がないのです。私たちはこの地域のユダヤ人の存在も無視することはできないと思っています。

確かに開校当初の5年間はとても大変でした。まず2カ国語の環境作りや、両民族の信頼感を築くため父母も参加して親子交流会をたくさん開きました。また公的な許可をもらうため、教育者たちと協力してカリキュラム作りもしました。これらの努力により、今はこの学校にとても満足しています。

将来ユダヤ人生徒が軍隊に行くに当たって:
17 歳の長男バーセルとユダヤ人のジェイミー(注:タミー•アインシュタインの息子)はとても仲が良いのですが、息子は将来ジェイミーがイスラエル国防軍に行くのはユダヤ人として仕方がないことだと理解しています。でもアラブ人に直接銃を向けるような戦闘部隊には行ってほしくない、またチェックポイントなどで勤務することになったら、アラブ人も同じ人間として扱ってほしいと思っています。

良い点、悪い点
まず良い点をあげれば、子どもたちが毎日楽しそうに学校に通っていることです。HIH では対話をとても大事にしていて、政治的に繊細な問題をよく話します。それに平等な態度で接しているので、お互いをよく知り合え、人間関係も良好です。特に低学年の時、美術などの創作活動で個人の性格をきちんと尊重してくれました。次男のイブラヒームはとても繊細な性格の子どもですが、先生たちはよく考慮してくれました。たぶん、他に比べて学校が小規模なので、教育者の目がよく届くのかもしれませんが。

悪い点としては、高学年になるに従ってユダヤ人生徒が減ってしまうこと1です。イブラヒームが仲良かった友達はみんなユダヤ人だったのですが、去年転校してしまって、とても悲しんでいました。学校外で今でも交流は続いていますが、以前のように毎日会えないのが残念です。もう一つは、ユダヤ人生徒のアラビア語能力が十分でないこと2です。

周囲の反応:
100%賛同している。家族など私の周囲の北部アラブ人は、この学校の方針におおむね賛同しています。実際エルサレム校に通っている多くのアラブ人生徒の父母は、私たちのような北部出身者でエルサレムに住んでいる人たちが多いのです。また出身地に帰った人たちは、北部の HIH 校(ガリラヤ校など)に子どもを通わせています。

このような方法 このような方法が将来、両民族間の共存に繋がると思うか?
パレスチナ•アラブ人としては、今のような亡国の状態はとても悲しいのですが、私はユダヤ民族との共存ができると信じています。また共存していかなければならないと思っています。なぜならガリラヤはイスラエルの国土であり、また私たちアラブ人家族のふるさとでもあるからです。だからこそ、この国では両民族が一緒に住んでいく方法を見つけなければなりません。(2010/09発行)

1、HIH 事業部の分析では、ユダヤ人学生の方が学校教育の選択の幅が広い事が他校に移る原因の一つと言われている。
2、アラブ人生徒は家庭やテレビなどでも多くヘブライ語に接する機会があるが、ユダヤ人生徒は学校以外でアラビア語に接する機会がほとんどない。

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