思想書に突然現れる魔王

 大学で倫理学を専攻していたので、今でも少しだけそういった趣旨の思想書を読むことがある。

 研究への未練が無いと言ったら嘘になるが、あの頃実感した力不足は確かなものだし、これはきっと受験を終えた学生が「もっと勉強しておけば」と唸るのと変わらない、取るに足らない気持ちだとも思う。

 そんな僕の思い出に残る思想書の一節がある。確か、生命倫理に関する著者の主張をしたためたものだったはずだ。

 そこでは著者がとある論点に対する見解のひとつを紹介する。概観し、その見解の魅力的な部分と至らない部分をひと通り述べた後、文中の著者はこう言い放ったのである。

「だが、いずれにせよ、それは私には通用しない」

 かっこよすぎる!!!!!!!!!!!

 これってさぁ、あれじゃん!
 バトル漫画の強キャラが言うやつじゃん!
 幾多の戦いを乗り越えてきた主人公の全力攻撃を軽くいなして言うやつじゃん!
「研ぎ澄まされた太刀筋だな。我が部下を倒しただけのことはある。さらに鍛錬を積めば、あるいは人類で最も優れた剣豪となるやもしれん。だが、いずれにせよ、それは私には通用しない。
 じゃん!

 僕の妄想をかき立てるこの一節は、著者の語った主張よりも鋭く深く脳裏に刻まれている。著者もきっと不本意だろう。本当に申し訳ない。

 思想書の言い回しは独特で、たびたびこのような素敵な文に巡り会える。皆さんもぜひこのようなものを目当てに本を読み、そして思索の海に沈んでいくがよい。

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