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読書日記『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月,2021)

友人からオススメ&貸してもらった。自分では辻村さんの本を買おうと思わないだろう。ありがとう、友人。
2018年に講談社より刊行された同名作品の文庫版。4篇の短編集。

一言で感想を述べると、「劇物注意」だ。

誰にでもあった(これからもあるだろう)、気まずくて心地悪い経験について描写されている。自分の人生の主役はいつも自分自身で、他の人は脇役で。いつも自分に都合よく解釈してしまうから、私と他者には「噛み合わなさ」が生じてしまう。

その「噛み合わなさ」を残酷に描いた上で、復讐されたり、復讐したり、という物語なので、とてつもなく面白いのだけれど、同時に読者自身も攻撃してくる危険な本だ。


一番好きなのは「ナベちゃんのヨメ」という短編。

女友達みたいに接していたナベちゃん(男)が結婚するのだが、そのヨメ(婚約者)がヤバい人らしい……というところから話が始まる。
女の子たちから頼られ、甘えられていたけれど、軽んじられていたために誰かの「一番」にはなれなかったナベちゃん。
そのナベちゃんが「一番」になれて、「一番」にさせてくれるヨメができたのなら、女友達より、ヤバいヨメを取る方が、ナベちゃんにとっては幸せなのではないか。
そんなことを思いつつ、「私」とナベちゃんの縁は切れていってしまう。

私にも恋愛対象として捉えていない異性の友人がいるし、これから周りで結婚の話を聞くようになる歳だし、なんだかリアルな未来予測みたいだな、と思った。大学で出会った友人たちのことはとても好きなので、縁を切らざるを得ない状況になるとちょっと寂しいだろうな。
この物語は「私」から見た話だけれど、ナベちゃんサイドも読んでみたいな〜と思った。


「ナベちゃんのヨメ」以外に、「パッとしない子」「ママ・はは」「早穂とゆかり」という短編が収められている。
「パッとしない子」は、人気アイドルと、彼を教えていた小学校の先生の話で、復讐劇の側面が強い。
「ママ・はは」は、真面目教な母親と、その娘の話で、少しだけファンタジーな感じがある。
「早穂とゆかり」は、小学生の時と大人になってから立場が逆転してしまった早穂とゆかりの話だ。これもゆかりの復讐劇的な色が強い。そこまでやらなくても……と思うくらい徹底的なのでちょっと怖い。

自分と他人の「過去」が異なることは、結構あるあるな現象だけど、それをテーマにした本は珍しいと思う。どの短編も、劇物だけど面白かった。


読了日:2022/11/25

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