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読書日記『あの子の考えることは変』(本谷有希子,2009)

中学生か高校生のとき、何気なく手に取って本谷有希子を知るきっかけになった本。
久々に読みたくなったし、手元に欲しくなったので買った。


これは、高井戸でルームシェアをする巡谷(めぐりや)と日田(にった)のおはなし。

ゴミ処理場の煙突からダイオキシンが出てる!ダイオキシンのせいで私の体臭がヤバくなってる!!と騒ぐ日田。(もうこの時点でヤバくて面白い。)

そして、さも常識人かのように日田を観察する巡谷だけど、巡谷も巡谷でヤバい。好きな男をちょっとずつ太らせたあげく、さらにはマッシュルームカットにさせ、彼女と別れさせることを画策しつつ、豚のおもちゃに彼の寝言(「おおーーん」)を録音して愛でる。

全部面白いのだが、音を立てると壁を殴ってくる隣のおばさん(ゲシュタポ、と二人は名付けている)と日田の攻防のシーンが一番好きだ。声を出して笑ってしまう。

「駄目だよ。大家なんかに言ったら。」
わたしが台所のほうへ行こうとしたら、日田がびっくりしたように素っ頓狂な声を上げた。
「そんなことしたら、私の計画がパアになるじゃん!」
「……何。計画って。」拍子抜けするほどあっけらかんとしたその言い方に、頭が追っつかない。
「私がやっとここまでゲシュタポの潜在的悪さを引き出したのに。」
「引き出すって……?」
「『すいませぇ〜んすいませぇ〜ん』って謝り続けて、夜、寝れなくしてやったんだよ。」
つままれていたパーカーをわたしの指のあいだから引っこ抜いて、日田は庭に出た。わたしの頭がようやく追いついて、
「……ええ!あれって『ドンッ!』に対しての、すいませ〜んじゃなかったの!?」
と声を上げると、サンダルをつっかけた日田は得意げな顔でこう言った。
「違うよ。すいませぇ〜んが終わらないことに対しての『ドンッ』だよ。」
 ムカつくからゲシュタポも絶対一緒に発症させてやるんだと、日田はお気に入りの梅の木をバックに大きく深呼吸した。
(中略)
 押し入れから古いコンポを引っ張り出して、日田はゲシュタポ側の壁に向けて再生ボタンを押した。録音しておいたらしい『す、すいませ〜ん。すいませ〜ん。」がエンドレスで流れ出した。

p91〜96

日田、やりおる……!!!そして、「あの子の考えることは変」と言わしめるだけの「変さ」がある。

本谷さんは、本当に日常に溶け込む狂気を描くのが上手い。だって日田も巡谷も、学年にひとりは似たひとがいそうだ。

帯には「汚くって可愛い前代未聞の青春エンタ!」とあるが、そんなもんじゃないと思う。
狂気だ。そして、狂気と紙一重の世界で生きている可愛い私たちの物語だ。


読了日:2022/11/28

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