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Uー25短歌賞応募作品「水があるはず」

香雪 蘭




歴史上もっとも愛を受け継いだ人間として生まれてみたんだ

水中は宇宙に近いと教わってプールサイドでさざめく星たち

大人には気付けぬ速度で蔓延する黒板消しで消せない陰口

ひなたにあるカウンセリングルームから足早に出て涙を流す

水槽で不自由がない金魚たち 許せなくってエアーを止める

教科書をピンクのラインで汚したい 大人になれば忘れるように

地球から出てきた石で地球から出ていく夢を描く日本画

泣いたって部屋の湿度は変わらない 愛は冷たく白い光だ

本当に好きじゃない人だけに言うバイバイ ちょうど良い悪口だ




百均にいちばん早い春が来る 濃すぎるピンク(にせものとして)

アルコール消毒液はもう出ない 置かれることに意味があるだけ

LOVE & DEATH 死ぬことも愛の部分集合なんだ 海をあげるよ

下手な字で手紙をくれる人たちは遺伝が遠くて愛してしまう

浮ついた私の心に届くよう白いパンプス掘り出す前夜

分類が出来ない愛を一時保存しておくデスクトップの青さ

台本も用意されないロマンスの「(かぎかっこ)」として花瓶があるの

私たちいつでも春を見誤る 少し軽やかすぎた香水

花束を持って歩けば避けられる まだ優しさを信じてみたい

スマホとか見ないで海に着けたなら何かに勝てる気がしてたんだ

Sparkle:あくびした頬の産毛が受け止めきれずにいる春の陽

人生に復路はないと思うから買うのはいつも片道切符

必要のない物たちで出来ていた部屋を出ていく 花束を手に

雪かき用スコップはいま川底で幸せだった冬の夢見る

水はまた空へと還る 天国の再生機器となった味蕾だ




水紋は雫ひとつも忘れない あなたのなかにも水があるはず

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