見出し画像

清水靖晃&サクソフォネッツ - ゴルトベルク・ヴァリエーションズ

筆者にとってゴルトベルク変奏曲は、グールド1954年の演奏がまず念頭にある。グールドを先に聞いていてそのテンポ感が基準になっている為だ。この点はご容赦願いたい。一方、グールドのテンポ解釈は決して一般的ではないことも承知している。その上でグールドの録音を好んでいる。ゴルトベルク変奏曲はリスナー目線ではある意味、グールドの演奏が呪縛になっている人は多いのではないか。少なくとも筆者はそうだ。そのためにこのアルバムは中々手を出しにくかった。

その上でだが、冒頭のアリアはやはり正直なところ入り込めない部分があった。これも一つの呪縛であろう。しかし変奏がはじまると印象は一変する。清水靖晃による編曲の巧みさによって、またサックスとコントラバスの音色そのものによって、筆者自身がとらわれていた呪縛から解き放たれていくのを感じた。木管楽器の特性と編成数の影響もあり、楽曲は豊潤さと瑞々しさを湛えた旋律に見違える。淡々としつつ強度の高い楽曲の印象が変わる瞬間だ。

第3変奏、カノンのが始まるとさらにその印象は強まる。美しい下降ラインが安定した旋律を支える構図が浮かび上がる。美しさをデフォルメしていると言えなくはないかもしれない。そこであらためて気づくのはグールドのデフォルメだ。どちらもコンテンポラリーミュージックを聞き続けてきた筆者としては十分に楽しめるアプローチだと感じる。

アラプレーヴェあたりになるとこのアレンジがほぼ耳に馴染んでおり重厚なアンサンブルを完全に受け入れていた。リスナーとしての気持ちの変遷を楽しむ作品になった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?