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狗食う人々

日本の中古車を輸出するビジネスは、昔も今もなかなか盛んだ。例えば、パキスタン人のラナは、世界に散らばった親戚やら同郷人(ラホール)のネットワークをフル活用して、A国で足りないモノをB国で仕入れて送る国際的なビジネスを展開していた。

ラナの一族は裕福ゆえに、袖の下を駆使して観光ビザで一族の若者を各地に送り出していたのだ。国での暮らしが危険だったからにほかならない。24歳のラナの足にも、銃弾の傷があった。

そして、かつてフィリピンに住んでいたK氏。日本人の彼もまた中古車ビジネスを行っていた。日本の中古車は世界で大人気だったんだ。タイやフィリピンなど当時のアジアでは、日本の新車を100万円で買えば税金も100万円なんて国もあったから中古車ニーズが高かった。しかし現地のディーラーは政治家を巻き込み中古車流通を妨害していた。だから国境の役人に賄賂を渡して中古車を密輸するビジネスも日常茶飯事だったという。

K氏の自慢は、フィリピンでは一度も空き巣や強盗に入られたことがないということ。多くの日本人は、かなり痛い目にあったらしい。まぁ、日本人の上から目線と成金ぶりが、地元を刺激していただろうから当然かもね。ブラジルに長年住んでいたU子さんも、同じようなことを言ってたっけ。

さて、K氏、彼の住まいは、日本人が多く住む高級住宅街ではなかった。良く言うと庶民的。スラムに近い。そこで犬を飼ってたんだよね。もちろん雑種。動物好きの彼、ワンちゃんを可愛がっていた。

ある時、日本に戻る用事が出来た。気になるワンコの世話は、近所に住むフィリピン人に頼んだ。

一カ月後、K氏がフィリピンに戻ると犬が居ない。世話を頼んだフィリピン人は……、馬鹿だね、「ごめんね、みんなで食べちゃった」とバラしてしまった。居なくなったとでも言っとけばいいのに、妙な点で正直だ。

ほどなくして、K氏は中古車ビジネスから足を洗い、日本に引き揚げた。愛犬を食べられたことが原因かどうかは、知らない。

ちなみに中国では犬肉祭、韓国ではポシンタン(補身湯)、ベトナムも犬を食べる文化がある。ハワイもだ。かつては日本でも、地方によっては食べていた。東南アジア全体で見られた風習だったのだろう。一方、イスラム圏のパキスタンでは絶対に食べないように、どうも、この件は、宗教にかかわりがありそうだ。