誰の責任なのか?

僕の周囲には、お金に困っている人と困っていない人がいる(お金がありすぎて余っているという人はいない)。数で言えば、お金に困っていない人が多い。その理由は、入るお金と出るお金の計算ができているからだと思う。

たとえば、独身の35歳の彼女は実家暮らしである。両親にお金を渡しているようだけど、家賃はかからないし、食費も自分で用意するよりはお金も手間もない。こういう人を見て、「いい年をして自立ができていない」という人もいるけど(年長者で)、そんなことは余計なお世話で、彼女とて、一緒に暮らしたい人ができれば実家を出ていくだろう。

お金に困る理由は、収入が少ないからか支出が多いからで、お金に困らない理由は収入が多いか、支出が少ないかということになる。

これ、とても重要なことで、よく日本の賃金が上がらないことが問題になっているけど、賃金以下で生活ができればお金に困ることはない。しかし、個人差はあるものの、生活に必要な最低額というものはあって、それ以下の支出にしようと思えば、生活そのものに支障が出る。要は、家賃が払えないなら、野宿をすればいいというような話で、そんなことができる人は数少ない。

ということで、お金に困らない方法というのは、できる限り収入を増やして、支出を下げるということになる。かつ、支出を下げることでQOLが下がらないことも意識する必要がある。

そんなことを考えると、世の中の多くの人が従業員という立場にいる以上、賃金が上がっていないことは問題である。


では、どうすれば賃金が上がるのか?


端的に言えば、給料の高い会社に転職をすればいい。もしくは、従業員という立場を捨てて、経営者かフリーランスになればいい。

しかし、給料の高い会社に入るためには、それなりのスキルが必要であるし、競争率も高い。かつ、入社後の競争率や課せられる目標も高い。ジョブ型の雇用形態では、成果に応じて給料が下がることもある。ならば、よほどの理由がない限り(お金に困るとか)、転職をしない理由は理解できる。かつ、給料の高い会社の正社員であれば、クビになることはない。仕事で役に立っていなくても、これまでの既得権益でそれなりの賃金をもらえることが多い。こうした人を「妖精さん」とか「働かないおじさん」という呼び、生産性の低いシニア社員が槍玉に上がる。

若手社員にすれば、働かないおじさんがいるから、自分たちの給料が上がらないということになる。しかし、かつて働いていた社員(現働かないおじさん)がいなければ、その企業の成長はなかったかもしれない。その場合は、「他の会社に入っていた」と思うなら、今すぐに転職をすればいい。

賃金が上がらないのは誰のせいなのか?これは難しい問題である。働かずに自分よりも高い賃金のおじさんに腹が立つ気持ちはわけるけど、そのおじさんをクビにしても、若手に給料が回ってくるとは限らない。少なくとも、賃金が上がらない理由は、そこにいるおじさん個人が原因ではなさそうだ。

賃金が上がらない理由は、会社が儲かっていないからだとも言える。会社が儲からない理由は、経営者が無能だからなのか、従業員が無能だからなのか。この成績表は決算で出るわけで、黒字の会社は優秀な経営者が優秀な従業員を雇用しているということになる。問題は赤字の場合で、利益が出ていないのに、経営者は賃金を上げるわけにはいかない。従業員にしてみれば、こんなに仕事をしているのに賃金が上がらないのだから、やる気が起きないとなる。

さて、賃金が上がらないのは誰のせいだろうか?


経営者から見れば、生産性がわからない社員に高い賃金を払って正社員として迎えるのはリスクだと考える。雇われる方は、リスクの高い職場は避けたいと思う。ということで、選択肢の多い人ほど、自分が有利な企業を選ぶので、リスクを考える経営者のところには、優秀な従業員が集まりにくい。

だから儲かっていない企業は、

・賃金を上げて優秀な人材を雇う

・今いる社員で仕事を継続する

・会社を畳む

ということになるわけで、たいていの場合は、「今いる社員で仕事をする」を選ぶ。もちろん、社員が同じで、急に生産性が上がることなどないのだから、賃金は上がらない。

経営者がリスクを回避する方法があるとしたら、雇用形態を正社員にしないことである。契約社員や派遣など、非正規労働者を使えば、能力がなければ雇用をやめればいい。実際、非正規社員の賃金の問題も大きく、正社員と同じ仕事をしているのに、正社員よりも賃金が安く、ボーナスもない。成果を上げて仕事をし続けても、5年で契約が満了となってしまう。

正社員の人件費がかかるので、非正規社員の賃金を抑える。派遣会社のマージンがあるので、企業の人件費としては安くはないものの、本人が手にする賃金は増えていかない。

さて、賃金が上がらないのは誰のせいか?


年金の受給年齢が65歳になったので、多くの人は60歳の定年後も仕事をしなければならない。しかも、賃金が下がった契約になってしまう。

高齢者が安い給料で仕事をするので、若者の採用が見送られる。もちろん賃金が上がらない。

高齢者が長生きするほどに、現役世代の税負担が重くなる可能性があり、税金が増えると、手取りが下がる。では、高齢者に仕事をしないでほしいと言えるのかとなると、生活ができない人もいるわけで、そんなことは言えない。もちろん、自分たちも時間が経てば高齢者になるしね。

「新しい資本主義へ」というのが具体的にどんな社会なのかはわからないけど、社会が豊かになっていないことは事実のようだ。だから、政治家に問題があるのかというと、そもそも政治家は経済の専門家ではないので、有識者の意見を聞く。なら、学者などの有識者が悪いのかというと、彼らは提言をしているだけで、実行は官僚である。官僚は政治家に忖度をする。

果たして、新しい資本主義は実現するのか?

政治家が悪いのか、選挙に行かない国民が悪いのか?


結局のところ、日本の賃金が上がらない理由は、僕にとっては謎でしかない。謎なので、簡単に答えが出る問題ではない。答えが出ても、実現までにはタイムラグがあるし、その時に僕が生きているかどうかはわからない。

すべての人に公平な制度として、ベーシックインカムがあるけど、いくらに金額を設定すればいいのかをどのように計算をするのだろうか?

他には、ベーシックサービスという考えもある。学校や医療、福祉などのサービスを無償化するものだけど、財源の確保には税率を上げる必要があるし、お金を持っている人ほど節税を試みることは予想できる。

生活保護の金額を上げることで、貧困家庭の子どもが大学に進学することができるかもしれないけど、不正受給をする人も増える。結果、締め付けが厳しくなり、必要な人にお金が行き渡らない可能性がある。

ならばいっそのこと、従業員全員をジョブ型のフリーランスにしてはどうだろうか?これだと公平ではないか。しかし、たいしたスキルがない人が大半の日本では、失業者が溢れ出ることが予想できる。正社員制度というのは、能力がないけど、会社に忠誠を誓う人にとっては、セーフティネットなのである。


日本に賃金が上がらないのは誰のせいか?問題は複雑すぎて、僕にはわからない。ちなみに、僕は昨年と比較をして、賃金が40%ほど下がっている。幸に、そこそこ生活にゆとりがある金額だったのと、支出を下げたので、お金に困ることはない。

僕の賃金が下がった理由は、僕のせいである。契約が終わるクライアントがあることを知りつつ、新規開拓をしていなかったからだ。今もやっていないので、賃金は下がったままだ。


だけど、僕は賃金が下がったことと引き換えに、仕事をしない時間を手に入れた。

がんばることで問題を解決しようとすることは、もしかしたら正しくないのかもしれない。もしかしたら、がんばらないことの先に問題の解決があるのかもしれない。これまでの53年の人生は、仕事を通じて人の役に立つことで対価を得られるということを盲信してきた。その結果、自分の賃金に拘ってきた。10年ほど前に年収を上げるサラリーマンになる方法というテーマの本を出版したけど、今の僕は仕事をしていないフリーランスである。

でも、それでいいのではないか。僕の人生に起こることは僕のせい。うまくいけば僕のおかげ。ダメだったら僕のせい。その中で、僕に関わっていただいた方々に感謝しつつ、今日生きていることに感謝をして、おそらく明日も生きることができることに喜びを感じてみようかと思うのである。



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