コロナは終わってなどいない――障害者とコロナ

 2023年5月5日、WHOのテドロス事務局長は、3年3ヶ月続いた新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)による緊急事態宣言の終了を発表しました。日本においても、同年5月8日から、コロナの感染症法上の扱いが2類から5類へと移行し、季節性インフルエンザと同等の扱いとなりました。さらに、同年5月11日からは、米国でも国家緊急事態と公衆衛生緊急事態が解除されます。私の身近においても、街行く人々はノーマスクが増え、一部のコンビニではレジ店員と客との間の透明な仕切りが撤去され、コロナそのものが収束したかのような印象を与えます。言うまでもなく、コロナが終わったわけではありません。ゴールデンウィーク明けから感染再爆発、第9波の到来も予言されているにもかかわらず、感染対策は強化どころか緩和すらされてきている印象も持ちます。
 重症化リスクが高い方はもちろんですが、あまり重症化リスクが高くない障害者も、コロナに感染しないかと怯えています。障害者がコロナにかかったら、健常者よりも困った状態に陥るからです。それは、障害者には支援者や介護者が必要であるという点に由来します。
 街の中で、親元でも施設でもなく、介護者(ヘルパー)を利用して生活を営む重度障害者がいます。まずは、このことがあまり知られていません。障害者がコロナにかかっても、ヘルパーがいなければ食べることすらできないため、ヘルパーはコロナに罹患している障害者の家に行くことを拒否できません。重度であればあるほど、障害者とヘルパーの身体が密着し、まさに「濃厚に」接触することを避けられません。こうして、ヘルパーにも移してしまう(濃厚接触者)可能性があるわけです。ヘルパーは、多くの障害者の介護にかかわるのが通例ですので、他の障害者の介護をすれば、ヘルパーを介して、他の障害者にコロナを移してしまう可能性があるのです。
 他にも問題はあります。この3年あまりでわかったことは、コロナかどうか関わらず、病床がひっ迫していれば、障害者は入院させてもらえない可能性がある、ということです。また、幸い入院させてもらえたとしても、基本的には面会謝絶で、ヘルパーすら入れない状況もありました。障害者の場合、ナースコールを1人では押せない人もいます。また、独特なコミュニケーションゆえに、看護師と意思疎通を図ることができない可能性もあります。慣れていない人とはうまく話すことができず、結果的に「意思がない」と判断されます。そのような状況で入院して死んでしまったのではないか、という疑いもぬぐえない障害者もいました。
 さらに、知的障害者のなかには、マスクを着ける意味が理解できずに、よくわからないまま着けさせられている人もいます。また、問答無用とばかりに、着けたマスクを放り投げてしまう人もいます。電車の中で、唇を震わせ、唾を吐くような仕草をする人もいます。このような知的障害者に対して、世間の目は冷たいのです。挙句の果てには、「用もないのだから、不要不急の外出はするな、障害者は表に出るな」と言わんばかりの表情をされてしまうのです。
 他にもさまざまな問題があります。障害者が昼間利用する生活介護事業所や就労支援事業所、グループホームなどにおいても、それぞれ課題があります。たしかにこれらは、コロナによって引き起こされた問題ではあります。しかしながら、障害者の生きづらさが、コロナ禍によってさらに深刻になった、とも言えるのではないかと思います。コロナ禍という有事が、障害者に対する差別をより露骨なものにした、そのように考えることができるのではないでしょうか。そして、その一因は、障害者の状況についてまったく知ろうともしない世間の無関心さにあるのではないかと、私は思います。
 「不要不急だから障害者は外出するな」というのは、コロナ以前にも言われていたことでした。たとえば、満員の通勤電車に車イスで乗ろうとすると、そのように言われたりします。車イスで乗ろうとする障害者が不要不急の乗車か否かなど、その人にしかわからないとしか言いようがありません。健常者なら、不要不急かなどと問われることなく、電車に乗ることができるにもかかわらず、なぜ障害者だけが問われるのでしょうか? そこにこそ、社会構造としての障害者差別が存在しているのです。
 先にも書きましたが、障害者にとってコロナは終わってなどいません。身体接触が続く限りにおいては、感染症の恐怖は消えることはありません。私は、ノーマスクの人々を見ると、こうした障害者の状況を知らないし、知る気もないのだろうと思い、悲しさと怒りとが湧いてきます。
 どうか、障害者の状況を知ってください。そして、感染症を少しでも広めないためにも、マスクを着けてください。私は、マスクの装着は、障害者や高齢者、重症化リスクのある人たちと、感染症下で共に生きていくための前提であると考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?